10年間で「億ション」6.8倍、地方の分譲マンションに何が起きている《楽待新聞》

地方都市で1戸1億円を超える「億ション」が増加している。不動産調査会社の東京カンテイによると、東京・愛知・大阪からなる三大都市圏の億ション増加率は直近10年で3.5倍であるのに対し、三大都市圏以外における同期間の億ション供給戸数は6.8倍に増加している。

なぜ地方都市で億ションが増えているのか、今後もマンション価格は値上がりを続けるのか。また、投資家にはどのような影響があるのだろうか。現地の不動産会社や投資家、専門家に話を聞いた。

■山陰地方初の「億ション」

島根県松江市に建設された8階建て、総戸数27戸の高級マンション「アルファガーデン宍道湖」。その名の通り、眼下に宍道湖の雄大な景色を望むことができる。最上階の3部屋が1戸1億円を超える、山陰地方初の億ションだ。

販売会社の「穴吹興産」山陰支店長の上田太氏によると、同マンションの平均坪単価は260万円程度になるという。松江市における近年の最高値は、今年3月に同社が竣工した「アルファステイツ天神町」の坪160万円であり、一気に1.5倍まで跳ね上がったことになる。「松江市のこれまでの相場から考えると別世界のようだ」と語る。

近年にない高価格帯にも関わらず、昨年12月の募集開始から半年足らずで、全戸数の8割程度が販売済みだという。「地元の方の宍道湖への思い入れの強さが需要につながっている」と上田氏は好調の要因を分析する。購入者は医師や経営者、地主といった「地元の名士」と言われるような富裕層が多いそうだ。

また、松江市では新築の価格上昇に釣られて、中古マンションの価格も上昇傾向にあるという。

景気の良い話のようだが「ここまでの高値は今回限りだろう」と上田氏は展望を語る。松江市では来月以降、他社による新築マンションの供給が200戸ほど見込まれており、市内の需要に対して供給過多になることが予想されるためだ。

■マンション熱に潜む都市の「選別」

地方都市での億ションが増加する一方、地方都市の中でも値上がりする地域とそうでない地域の差は鮮明になっている。「地方都市の選別が進んでいる」と指摘するのは、東京カンテイの井出武上席主任研究員だ。

「都内のマンション価格が高騰しすぎたことで買い手が地方都市に流れ、需要が多くなった地方都市でも価格が高騰する、という近年の構図はバブル期と同じ。しかし、バブル後の値下がりを経験した投資家や金融機関、不動産会社が、地方都市のなかでも資産価値が下がりにくい地域にしか手を出さなくなっている点が大きな違いだ」

井出氏は選別の基準について「交通インフラが充実していること、特に新幹線停車駅から近いことが重視される」と指摘する。

上田氏も語ったように、地方都市で分譲される高級マンションは、地元の名士をターゲットとしている。彼らの多くは月に数回、仕事や学会などで大都市圏に行く用事があるため、新幹線の停車駅から近く、都内へのアクセスが良いマンションに魅力を感じるという。

九州や北海道などの遠隔地では、同じ理屈で空港までの距離が指標となる。近年の億ション分譲はこうした地域に集中しているのが実情だと井出氏は語る。

また、戸建てと比較してマンションが選ばれる理由としては「アクセスの良さに加え、セキュリティ面や管理のしやすさが優れている点や、固定資産税や相続税の節税効果があるという点が大きい」という。

しかし、地元の名士というのはそう多くはいないため、地方都市における億ション分譲は、参入時期の早い業者に利益が集中する構図になりやすい。複数業者の参入により、供給過多になれば大幅な値下がりも考えられる。「2匹目のドジョウはいない」と井出氏は話す。

上田氏、井出氏ともに、買い手の絶対数が少ない地方都市では需給バランスが短期間で変化しやすいことに注意を促している。高級分譲マンションを投資用に購入する際は、価格が上昇傾向にある地域の物件であっても、十分な需要が残っているか調査することが重要だと考えられる。

■地方投資家がとるべき基本姿勢とは

地方都市におけるマンション価格の値上がりを、現地の不動産投資家はどのように受け止めているのだろうか。「ひろしま大家の会」の代表であり、広島市を中心に中古の分譲マンションを複数保有する横山顕吾さんは「広島市でもマンション価格はここ2年~3年で、30%ほど値上がりしている」と話す。

横山さんの保有物件の平均築年数は30年程度だが、新築の価格高騰に釣られる形で中古物件の価格も上昇しているという。不動産投資をはじめてから10年間、売却は行わなかった横山さんだが、昨年は2戸を売却した。

400万円で購入した物件が600万円、850万円で購入した物件が1150万円で売れたという。いずれも8年ほど前にオーナーチェンジで購入した物件で、売却時の築年数はそれぞれ30年台と10年台だ。

「キャピタルゲインで言うと30%くらい。ここまで短期間で物件価格が上昇するのは初めての経験」と語る。

こうした市況でも、購入に際しては「割安な物件を探して買うという基本姿勢に変化はない」と横山さん。

具体的には「居住用で分譲マンションを保有していて、なんらかの理由で売却を考えている場合、多少売値が安くてもローン残高よりも高ければ妥協して売るという方も一定数いる。そういった割安な物件を選ぶことが収益を出すには重要」だと語る。

広島市では値上がりが続いているが、それでも「キャピタルゲインだけを狙った投資は危険」と横山さんは締めくくる。「5年後、10年後にいくらで売れるかということは予想のしようがない。家賃をいくら取れるかはある程度予想できるので、インカムゲインを狙う方が堅実だ」

「億ション」の増加は華々しい話題だが、投資家として値上がりの恩恵を受けるには、今後も需要が継続する地域かどうかを見極めることが求められる。

投資対象となる地方特有の事情を把握し、その時々で損をしない判断を下せるよう備えておきたい。

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