今や私たちの生活になくてはならない存在になった100円ショップ。ただ競争激化に加え、コスト増大という苦しみが各社にはのしかかってきている。これを逆にチャンスと捉えているのが業界2番手のセリアだ。
セリアは2018年度第2四半期決算が10年ぶりの減益に沈んだ。株価は1年前の半値に下落しており、決して楽観できる状況ではない。が、河合映治社長は、こう強気の姿勢を見せる。
「(業界全体の)コスト増は利益率の低い企業に影響が出やすい。当社も赤字店舗は増えるが、利益率が高いので、他社のシェアを奪いに行けるチャンス。企業数はさらに減少していくことになるだろう。うちは最後まで生き残りたい」
営業利益率は10%と大手では断トツ
100円ショップ業界は大手から順に、ダイソー(大創産業)、セリア、キャンドゥ、ワッツの4社で、ほぼ寡占状態とされる。ただし各社の利益率の違いは大きい。ダイソーは非上場企業のため不明だが、営業利益率はセリア10・3%、キャンドゥ2・6%、ワッツ2・0%と、大きな開きがある(ワッツは100円均一以外の事業も含む)。利益率の低い企業は、コスト増を吸収する余地が少なく不採算店が増えやすいことから、業界の淘汰が加速する可能性がある。
2017年秋に開業したイオンモール神戸南店。同じフロアにダイソーとキャンドゥが並ぶ珍しい光景が広がる。ある不動産開発業者は「100円ショップの集客力は魅力的で、どのショッピングセンターにも1店はあるのが今は基本になっている」と話す。一方で、大手4社の国内店舗数合計は、約6850店(2017年度末)と5年前から25%も増えた。「周囲に競合店が増え、何もしないでいると、既存店売上高を維持するのが難しくなってきている」(平岡史生・ワッツ社長)。出店余地がだんだんとなくなる市場飽和を指摘する声もあがっている。
加えて業界では、人件費や家賃、運送費、システム投資などのコスト増が各社に追い打ちをかけている。セリアが1月31日に発表した第3四半期決算は、ギリギリ減益を避けられたものの、株価は下落基調にある。業界3、4番手のキャンドゥとワッツの2018年度決算も営業減益で終わり、この数年減益トレンドから抜け出せていない。
そんな中、足元は苦しくてもセリアが生き残れると自信を持つ根拠は、同社がデータの扱いに長けていることにある。
セリアは業界で先駆けて、2004年にPOSシステム、2006年にはPOSデータを基にした発注の支援システムを導入し、現在はほぼ100%自動的に発注が行われている。データに基づいた品ぞろえが店舗の売上高を伸ばすと同時に、それまで1日がかりだった発注の作業時間を30分程度にまで減らした。ちなみに、当時常務だった河合社長が独自に生み出したこのデータシステムは、今も社長自身が調整を手掛けている。
100%自動発注で1日分を30分に短縮
さらに2007年には雑貨店風の「カラー・ザ・デイズ」という新業態も開いた。既存の店舗とは違い、明るくおしゃれな店構えで、POSデータを基に商品数が絞り込まれた店内は広々。こうした努力を積み上げ、セリアの営業利益は10年前の7倍に成長した。結果的に、業界他社がPOS導入や明るくきれいな店づくりに追随するようになり、業界の同質化が加速している。
それでも上場3社の利益の差は広がるばかりだ。「まずデータ分析をして、その裏付けを基に店舗をきれいにするとか商品を変えるのが、本来の順番。POSを入れても、データを生かしたビジネスができないと、一見同質化した店に見えても、実際は(品ぞろえが)全然違うことになる」と河合社長は言い切る。
「この業界は価格競争がない。やっているのは、お客さんがほしい商品をいかにそろえているかという、目に見えない“価値”の競争。だからこそデータ分析の技術力が勝負。売上高が伸びているときは、たくさんお客さんが来ていろいろなものをバラバラに買っていくから、なんとなく全体が売れているように見えるけれど、誰も買わない商品は永遠に残る。この業界の本当の怖さは、売れなくなったときの在庫リスクにある」(河合社長)。
この技術力で、業界トップのダイソーにも競り勝てる、とセリアは考えているようだ。店舗数もアイテム数もケタ違いに多いダイソーは、「欠品で棚が空いていることが多い」(既出の不動産開発業者)など発注や在庫管理がまだ他社に比べて緩い、という声が聞こえてくる。
ダイソーもこの点は認識している。創業者である矢野博丈会長から次男の靖二氏へ、2018年3月に初の社長交代をして以降、仕入れから物流、売上のデータを一本化し、より早く情報を抽出・共有できるようにするなど、システムの再構築に大きく力を入れているという。また2012~2014年に設けた全国8カ所の物流倉庫を中心に、発注から店に商品が並ぶまでにかかる時間の短縮に取り組んだりと、欠品を減らそうとしている。
国内店舗数はダイソーが約3300、セリアは約1500で、大きな開きがあり、まだ競争のない地区が残る。今後セリアの店舗増によって、両社の競合エリアが増えるにしても、アイテム数がセリアの3倍以上で100円以上の品も多数取り扱うダイソーと、商品数を絞り込んでいるセリアとでは、必ずしも真正面からぶつからないだろう。
ダイソーは国内3200店以上、アイテム数7万以上を誇り、規模では断然トップだ(記者撮影)
「われわれはアイテム数が多く、他社にはない500坪~2000坪の大きい店も持てる。これが1つの差別化になっているし、出店のオファーも多い。海外も合わせると5300以上の店舗がある。この規模だからこそ、仕入れられる商品もある」(ダイソー)。
キャンドゥやワッツも状況を傍観しているわけではない。キャンドゥは直近2018年度に19店しか店舗を増やせなかった反省から、「契約内容を見直すなどしてフランチャイズ出店に相当力を入れる。まずは出店していかないと成長がない」(城戸一弥社長)と、規模拡大を第一優先に掲げる。専門の人材を採用するなどマーケティングにも力をいれ、2018年にはオタク向け商品のようなニッチながらも新たな需要発掘に成功した。
ワッツは店舗の改装に加え、300円や500円といった商品の拡充で、売上高増を狙う。スーパーマーケットの一角にある100円均一コーナーのような、レジ打ちなどをスーパー側に対応してもらう「委託型店舗」をワッツは得意としている。2018年度は出店の8割が委託型店舗で、人手がかからないためにテナント型店舗より利益率もいい。「5~10年先のことを考えたときに、これからも大型出店を継続的にやるかというと、うちの場合はそうでないと思う」と平岡社長は話す。
後継者問題は一時棚上げ、「私が働く」
もちろんセリアも盤石ではない。
「今の姿からすれば(株価下落は)やむをえないことだと思っている。反省点は私に油断があったこと。しばらく調子がよかったので、このままずっといけるんじゃないかなという気持ちがあった。私がいなくなったら誰がデータを扱うのか、という後継者問題を投資家に問われることも多かった。
人材育成の必要性を感じ、部下に仕事を任せるようにしたが期待したスピード感で成果が出ず、それが足元で成長が伸び悩んでいる理由だと思う。油断したり人任せにしたりせず、私自身がもっと懸命に働くべきだと、今は思っている」(河合社長)
業績の牽引役だったDIYグッズなどもブームが一巡しつつあり、これまでのような爆発的な伸びは期待しにくくなっている。既存店売上高が前年を割る月も増えた。
はたしてセリアの思惑通りライバルは淘汰されてしまうのか。頭一つ抜け出したセリアの一挙手一投足に注目が集まっている。