新生活が始まる春は詐欺師にとって絶好の書き入れ時。奴らはあなたを陥れるために綿密な下調べをし、ありとあらゆる手口を使ってカネをだまし取ろうとする。巧妙すぎる最新手口を紹介しよう。
詐欺被害件数が過去最多に
埼玉県に住む柏木美奈子さん(仮名・75歳)のもとに、こんな電話がかかってきたのは今年4月上旬のことだった。
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「なんでも買い取ります。運び出しも行います」
昨年末に夫を亡くし、書斎にあった本棚と大量の本を処分しなくてはと考えていた柏木さんは、渡りに船だと思った。しかしこれは典型的な不用品回収詐欺の手口。柏木さんは事前に聞いていた説明とはまったく異なる法外な金額を請求されることになった。
「電話から2日後、2人組の『業者』がやってきて、本をダンボールに詰め、本棚も外へ運び出してくれました。問題はここからです。出張料と運び出し料として20万円を請求してきたのです。納得できず問い詰めたら、『これはもろもろの手数料から買い取り代金を差し引いた金額です。支払いを拒否するのであれば、外に出した荷物はこのままにしておくしかない』と言われました。ご近所さんに迷惑をかけるわけにもいかず、おカネを払うしかありませんでした」
いま、日本全国で詐欺による被害が急増している。警察庁によると、オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺(電話をかけるなどして対面することなく信頼させてカネをだまし取る詐欺)の’23年の認知件数は1万9033件で、過去15年で最多。電話による詐欺だけではなく、堂々と詐欺師が家を訪ねてきてカネをだまし取る詐欺も激増しているのだ。
年度が移るとともにライフスタイルの変化を考える人が多い春は、とくに詐欺の多い季節だ。騙されないために最新手口とその対策を紹介しよう。
春に急増する訪問点検詐欺
訪問点検詐欺も春に急増する。多くが水道点検やWifi設備に関するもので、有名企業の下請けだと偽り、「あなたのお住まいの地域が、最新設備に乗り替えられるようになった」と言って家に上がり込んでくる。
点検自体はたしかに無料だが、契約してしまうと、設置料、契約手数料として、後から多額のカネを請求してくる場合がほとんどだ。この手の業者の特徴は、一度家に上がると契約するまでテコでも動かないこと。アポなしで訪問してくる時点で、悪徳の可能性が高いので、家に入れないことが最大の防衛手段だ。
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警察官や自治体職員を騙り、キャッシュカードを盗む切り込みカード詐欺にも注意が必要だ。犯罪心理学を専門とし、詐欺の手口にくわしい福岡大学教授の大上渉氏が言う。
「突然、警察官を名乗る人が自宅にやってきて、『口座からカネが不正に引き出されている。このままだとさらに使われてしまう』と言って、キャッシュカードを出させる。ニセ警察官は受け取ったカードをその場で切り、『もう大丈夫。証拠のため持ち帰ります』と言いますが、それは嘘。切れ込みは入っているけれど、磁気テープやICチップを避けていてまだ使える。渡してしまうと、おカネをすべて引き出されてしまいます」
見守りサポート詐欺は一人暮らしの高齢者を狙う。自治体から派遣されたスタッフであると身分を偽り、「お困りのことはありませんか」「話し相手になりますよ」などと言って、家を訪ねてくる。そして、数ヵ月間にわたって訪問相手の懐に入り込み、介護用品などを相場の5倍以上の値段で売り込んでくるのだ。実父が被害にあったという栃木県在住の柳川美穂さん(仮名・52歳)はこうため息をつく。
「父はかわるがわる業者を詐欺師に紹介され、介護用品に限らず、食器、家電なども買わされ1000万円以上をだまし取られていました。詐欺師は結局、逮捕されましたが、父は『あの人には本当に世話になった。悪い人じゃない』と言う始末。それほど信頼しきっていたのかと青ざめました」