12万年で1番 命を脅かす猛暑 気温上昇がもたらす暑さより怖いもの…

連日“危険な暑さ”が続いているが、世界ではそれ以上の“殺人的”熱波にさらされている地域も少なくない。カリフォルニア・デスバレーの摂氏56度を筆頭に、40度を超える気温が、イタリア、スペイン、メキシコ、新疆ウイグル自治区など世界各地で記録されている。ヨーロッパでは去年1年間に6万人が暑さで命を落とした。大規模な山火事も後を絶たない。カナダの山火事では、東北6県と関東7都県を足した面積に匹敵するほどの森林が焼失した。7月4日のワシントンポストはその日の暑さを“12万5000年間で一番暑い日”と表現した。世界気象機関は、これらは“異常気象”ではなく、今後“新たな日常”になるとして、それは地球温暖化と一致していると警鐘を鳴らした。この現象の延長線上にどんな未来があるのか?人はどう対処すべきなのか議論した。

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気候変動が進めば環境、政治経済、社会の大混乱が起こる

毎年“この夏は去年より暑い”と聞く。だが、東大未来ビジョン研究センターの江守教授は言う。

東京大学 未来ビジョン研究センター 江守正多教授
「大事なことは(今の暑さは)序の口に過ぎないということ。これからどんなに対策をしても世界平均気温は暫く上がっていく。これより暑い夏が来ることは間違いないということ。」

さらに“今年が一番涼しい夏”だというのは、環境危機の解決策を示した「人新生の『資本論』」の著者、斎藤幸平氏だ。

東京大学大学院 斎藤幸平 准教授
「気候変動が進んでいくと、単に自然災害が起こるとか熱中症で亡くなるとかいう問題だけじゃなく、経済損失はもちろん、水不足、食糧危機、インフレが加速、飢餓や貧困がアフリカで増えていく。そうすると難民が増えて、それに対する排斥運動。更に資源争奪の紛争とか…。様々な右派ポピュリズムの台頭、つまり環境、政治経済、社会の大混乱がやってくる。」

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私たちの身の回りの暑さだけでも、その延長線上に想像もしていない大混乱が待っているというが、実は私たちの目に見えない所でも気温上昇は進み、深刻化問題が既に起きている。

そこは北極圏だ。

「ドミノ倒しのように連鎖し、地球の気候システムが崩壊。人間には止められなくなる」

北極圏には長い年月、気温が0度以下であるため凍ったままの大地がある。永久凍土という。これが解け始めると凍土に閉じ込められていたメタンが放出され地球温暖化は加速度的に進むという。この永久凍土の面積を最も有するのはロシアだ。実は永久凍土の危機とウクライナ戦争が無関係ではないようだ。研究者に聞いた。

ストックホルム大学 環境・気候学 オルヤン・グスタフソン教授
「北極圏では世界平均の3倍から4倍の速さで平均気温が上昇している。(中略)ロシアの北極圏には広大な永久凍土がある。陸上や海底の永久凍土に貯蔵され温室効果ガスとして放出される可能性のある有機物の量は、地球大気中の二酸化炭素の約3倍、大気中のメタンの200倍にもなる。(中略)ロシアには世界で最も永久凍土の科学者が多い。膨大な知識がある。
ロシアによるウクライナ戦争でロシア連邦に制裁をもたらし、国際レベルでの協力ができなくなった。その結果、北極圏の永久凍土から放出されるメタンを今後予測することに悪影響を及ぼしている」

戦争による思わぬ弊害。さらにロシアの東シベリアでは森林火災が頻発している。そして森林火災が永久凍土の溶解を加速させていた。

同じく北極圏を研究しているアラスカ大学の岩花剛准教授からロシアの研究員に送ってもらったという東シベリアの映像を見せてもらった。普段は凍っている永久凍土の上に水があふれていて、車で走ると波のようになっていた。水量が多いため、マイナス40度でも凍らない状態になっているという。

アラスカ大学岩花剛准教授
「永久凍土の研究を始めたころは生きているうちにこんな激しい変化がみられるとは全然思っていなかったですね。もっとゆっくりゆっくり少しだけ温度が上がるような研究だなと思っていたんですが最近はダイナミックに地形が変化したり洪水が起こったりとか、ちょっと個人的には予測しなかったことが起こり始めているなという気がします」

そして永久凍土が解けてメタンが放出される。こうした現象がある時期を越えると地球温暖化が暴走を始めるという。それを「臨界点(ティッピングポイント)」という。

東京大学 未来ビジョン研究センター 江守正多教授
「臨界点を越えるとそれがドミノ倒しのように連鎖し、地球の気候システムが崩壊。人間には止められなくなる。+4℃くらいまで温暖化が進んでしまう仮説も…。(中略)温暖化の影響っていうのはジワジワと上がっていくんじゃなくって、ある時点で急激に立ち上がる。そこがティッピングポイントで、永久凍土だったら、解け始めるとメタンが出てきて、メタンが出てくると温暖化が進んで、さらに凍土が溶け出して…、悪循環が始まる。そいう悪循環が始まる要素は地球のシステムの中にたくさんある。グリーンランドの氷がティッピングするとか、南極の西側の氷がティッピングするとか…。そうすると海面が上昇するとか、海流が変化するとか…。これらが連鎖する恐れがある。」

悪循環を始めた自然現象が連鎖した時にはもう人間が何か対処しようとしても後の祭りだと江守教授は言う。ただし、+4℃まで上昇するというのは何百年かけて動くもので今すぐ急にどうこうという話ではないという。しかし、手をこまねいているわけにはいかない。現在の私たちにはどんな選択肢があるのだろう…。

「気候変動対策と同時に“脱成長”が必要」

人間には止められなくなる前に、何ができるのか…。地球温暖化の速度を緩めるためには温室効果ガスの削減。そのための第一歩が化石燃料の廃止だった。今年5月の広島サミットでも石炭火力の全廃時期が議論されたが、日本の反対で先送りとなった。日本は温暖化に対しどのようなスタンスなのだろうか。自民党の環境・温暖化対策調査会長を務める井上議員に聞いた。

元環境副大臣 井上信治 自民党幹事長代理
「政府も勝負の10年間だと思っていて、GX法案を2つ成立させた。150兆円という投資を促し、国費も20兆入れる。制度もいろいろ用意している。やってはいるが、事態の進行は想像していた以上に進んでる。法律は作ったがそれに甘んじることなくやらないと止められなくなってからでは遅い」

しかし、日本は再生可能エネルギーへの転換は遅れている上に、石炭を中心にした政策も戦争以前からのことだ。それに対し井上議員は日本の石炭火力の技術の高さや今後の水素やアンモニア混晶によって石炭比率を下げる計画などを力説した。政治の責任として経済的側面と環境面の両立は避けて通れないという。

元環境副大臣 井上信治 自民党幹事長代理
「石炭火力全廃をなるべく早く実現すべきと私も思います。ただ他方でそれには手順が必要で…。とりわけウクライナ戦争で世界のエネルギー情勢も変わっています。ロシアの石油や天然ガスが使えなくなってしまって…。暫定的に石炭火力ということに…(中略)端的に言って、エネルギーと環境っていうのは裏表になってしまう。どうしても環境に関心のある議員はエネルギー(産業界)に関心がある議員より少なかったり…。時代が進んでカーボンニュートラル宣言から意識は変わりつつあるが、与党の国会議員がもっと関心を持って対策を打ち出す必要があると思う」

これに対し斎藤淳教授は…

東京大学大学院 斎藤幸平 准教授
「正直GX推進法はグリーンウオッシュ(環境配慮をしているような見せかけ)だと思っている。石炭火力を使いながら、アンモニア混晶でごまかそうとしてる。アンモニアを作る過程でハーバー・ボッシュ法で化石燃料使いますし、実際のCO2削減量はそれほどではない。またCO2を回収貯蔵するってCCSって技術があるって言うんですがほとんど実用化に達していない。夢の技術に過度な期待をかけている。(中略)炭素税は2028年までやらないって言うし…。自民党に危機感が共有できてるのは不安…」

と、成立したGX推進法を非難とした上で、“成長を止める”のは勇気が必要だという持論を展開した。

東京大学大学院 斎藤幸平 准教授
「日本は非常に資本主義的な国。地球をどう守っていくかという意識が希薄。気候変動対策と同時に“脱成長”が必要。資本主義の大量生産大量消費が地球を破壊している。まぁ再生可能エネルギーと電気自動車。二酸化炭素は吸収して・・・。それで経済は発展して、脱炭素も進んでっていうけれどそんな簡単な話か。歴史的に見ると、経済成長と資源エネルギーの増大は極めて密接に連関して増え続けてきてる。これを急にあと10年20年で経済を成長させながら、二酸化炭素の排出は抑えるってかなり難しい。(中略)私は、省エネ、再エネや炭素税とかも大事ですけど、短距離飛行機の廃止フランスでは既に始まってますが、クルーズ船やプライベートジェット禁止とか、牛肉とかスポーツカーにはもっと重い税金をかけるとか・・・。それを低所得者の補償に使うなど大胆なことをしないとダメでしょうね」

(BS-TBS 『報道1930』7月25日放送より)

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