平成29年5月26日、「民法の一部を改正する法律案」が可決成立した。120年ぶりの大改正で、改正項目は200にも及ぶ。今回はその中から3つに絞って改正のポイントについて解説したい。
■民法とはどのような法律?
民法は、一言でいうと市民生活に関する法律である。民法は、大きく分けて「総則」、「物権」、「債権」、「親族」、「相続」の5つからなり、今回、大幅に改正されたのは、この中の「債権」の部分だ。
債権とは、特定人が特定人に対して一定の行為を請求することを内容とする権利で、民法ではそれに関するルールが定められている。この説明を聞いていてもおそらくイメージがわかないと思うので、具体的に説明すると、主に契約に関するルールと思えばよい。契約は、ある人とある人が契約を締結することで、一定の義務が生じるわけだが、そのルールを定めているのが民法の債権法ということになる。実際には、その他にも、不法行為に関するルールや不当利得などもあるが、イメージとしては契約に関するルールという理解で十分だ。
(1)敷金と原状回復の明確化
敷金は、不動産賃貸借をする場合に家賃の1から3か月分を取られることが多いが、これまでは敷金の定義、敷金返還債務の発生要件、充当関係などの規定はなかった。そのため、退去する際にハウスクリーニング代、クロス張り替え代、畳表替え代などという名目で差し引かれ、敷金が全く返ってこないなどのトラブルが多発していた。
この点について判例は、「賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払いを内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されている」として、通常損耗については、原状回復義務はないとしていた。
この判例を踏まえ、今回の改正では、賃借人は、経年劣化を含む通常損耗について原状回復する義務はないことを明確化した(民法621条)。また、敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明確に定義し、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定した(622条の2)。
これにより、不動産オーナーから理不尽なクリーニング代等が敷金から差し引かれることがなくなることが期待される。
(2)保証人の保護
「保証人だけは絶対になるな」と言われるように、保証人の責任は非常に重い。その一方で融資を受ける場合には多くが保証人を付けるよう求められる。その結果、望まない人が保証人にされ、多額の債務を負わされたりする。
このような問題があったことから、今回の改正では、事業のための貸金債務についての個人保証契約は、契約前の1ヶ月以内に、公正証書で保証意思が確認されていなければ無効となることが定められた(465条の6)。ただ、取締役等一定の範囲の者については公正証書作成義務が課されない例外があるので、完全に個人保障が禁止されるわけではない(465条の9)。
また、事業のために生じる債務の個人保証を依頼するときは、債務者は、当該個人に対して債務者の財産や収支、債務の状況、担保として提供するものがあるか等を説明しなければならない(465条の10)。
(3)消滅時効の統一
消滅時効とは、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度ことである。たとえば、お金を借りていても期限から10年間経過すると返済する必要はなくなる。これまで、時効の期間は、原則として10年で、例外的に飲食店の料金の時効は1年間、弁護士報酬の時効は2年間、医師の診察料の時効は3年間など職業別に短い消滅時効が定められていた。しかし、職業の違いによって期間に差異を設けることに合理性はないことから、一律、債権は「債権者が権利行使できることを知った日」から5年で時効消滅することにした(166条)。なお、債権者が知らなくても権利を行使できるときから10年経過すれば時効で消滅することは現行法どおりである。
また、一般的な不法行為の消滅時効期間は、損害及び加害者を知ったときから3年であったが、生命身体の侵害による損害賠償請求権は、それが債務不履行に基づくものでも不法行為に基づくものでも、保護の必要性が高いので、損害及び加害者を知った時から5年間、又は権利を行使できる時から20年間とした。
今回は、民法改正のほんの一部の紹介にすぎないが、不動産を借りる場合や保証人を頼まれた場合など身近に起こりうることなので、是非知識として頭の片隅にでも入れておいてもらえれば、役に立つことがあるのではないかと思う。(ZUU online 編集部)