コーヒー業界に「第4の波(フォースウェーブ)」が押し寄せつつある。数年前、話題になったのは「サードウェーブ(第3の波)」。このときは「農園の違い」に注目が集まったが、今回は「栽培方法の違い」や「誰が淹れたか」が問われるという。1年の半分近くを「農園巡り」に費やすという業界のキーパーソンに聞いた――。
■「フォースウェーブ」という波
まもなく新しい年を迎える。2018年は、さまざまな業界で新しい動きが進むだろう。
コーヒー業界で注目されるのは「第4の波(フォースウェーブ)」だ。すでに一部では「第4の波」を論じた報道もあったようだが、「コーヒー」や「カフェ(喫茶店)」と多方面から向き合ってきた筆者や、業界キーパーソンの見通しとは少し違う。そこで、これまでの“波”を紹介しながら「フォースウェーブコーヒー」を考察してみよう。
実は、ファーストウェーブ(第1の波)からサードウェーブ(第3の波)までも、時代や中身に諸説あった。それぞれの波の詳細は後述するが、過去の取材では「米国と日本では“波”の起きた時期が異なる」と分析する人もいた。「正解」はないので、「納得解」で考えたい。
今回指南してくれたのは、業界関係者の団体「日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)」理事で、同協会内の「コーヒーブリュワーズ委員会」委員長でもある鈴木太郎氏(サザコーヒー代表取締役)だ。ちなみに同委員会は、「サイフォンやドリップなど、エスプレッソ以外の抽出に関する研究と啓蒙」を活動目的としている。
取材時には鈴木氏が最新のコーヒー豆を用意して、淹れてくれながら熱弁した。いずれ、その内容も紹介したい。「評論ではなく実践」の“当事者意識”が大切だと思うからだ。
■高品質コーヒーの「見える化」が進む
「21世紀を迎える頃から、コーヒーはどんどん進化してきました。その進化の中身は、ひとことでいえば『見える化』です」(鈴木氏)
どういうことか。鈴木氏が続ける。
「私は、セカンドウェーブは2000年頃から始まったと考えていますが、それまで『コーヒーの品種の違い』でしかなかったのが、『国や産地の違い』が注目されるようになり、一般的なコーヒー豆と区別する『スペシャルティコーヒー』という概念も生まれました。それが進んで、サードウェーブで起きたのは『農園の違い』です。コーヒー生産国や産地の中でも、すぐれた取り組みをする農園と、そうでない農園に分かれます。農園が良質のコーヒー豆を出品して競い合う『品評会』も盛んになりました」(同)
この流れを受けた「フォースウェーブ」を、鈴木氏はこう見通している。
「たとえば、現在最高級のコーヒー豆『パナマ・ゲイシャ』の同じ農園でも、栽培場所の違いや栽培方法の違いにこだわるようになってきた。私は毎年、コーヒーオークションで高品質の豆を入札し、サザコーヒーで販売していますが、年々それを感じています」
鈴木氏の話に出た「パナマ・ゲイシャ」とは、まだ一般になじみがないが、現在最高級の豆だ。アフリカ・エチオピアの“ゲシャ村”で発見されたので「ゲイシャ」と呼ばれるようになり、同村と環境条件が似た中米・パナマで生産されるコーヒー豆をいう。よく聞かれるが「芸者」とは関係ない。そうした由来ゆえ、コスタリカ産やコロンビア産など、「ゲイシャ」品種はほかにもある。その中でもパナマ産は最高級で、超高値で取引されるのだ。
■「誰が淹れたコーヒー」か?
近年、国内各地のこだわりのカフェやコーヒー豆の販売店が、実店舗やインターネットで、希少価値の高い「ゲイシャ」品種を販売している。
この豆の勢いを象徴する事例が今年あった。9月に行われた「バリスタ」(コーヒー職人)の国内選手権「JBC2017」(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)決勝進出者の6人が、全員「ゲイシャ」品種を用いて、抽出技術やプレゼンテーション技術を競ったのだ。鈴木氏はこの流れがさらに進み、フォースウェーブコーヒーにつながると予測する。
「農園の『見える化』と同時に来るのは、『誰が淹れたコーヒー』かです。その頂点に立つのは『チャンピオンが淹れたコーヒー』ですが、国内外の大会の上位入賞者が淹れたコーヒーも話題を呼ぶでしょう。また、コーヒー機器も進化しており、バリスタの各大会“世界王者”と連携して、王者の抽出方法を設定できる機械も開発されています」(同)
これはあくまでも「仮説」だが、真実味はある。鈴木氏は年間約150日、多い年は200日近くコーヒー生産国に足を運び、国内外の生産者やキーパーソンと交流。さまざまな「情報」も入手しているからだ。
ここであらためて、4つの波を整理してみよう(図表参照)。
「ファーストウェーブは、日本では戦後の高度成長期の1970年代。コーヒーの普及が一気に進み、喫茶店の数も増えました。今でも有名な『ブルーマウンテン』(ブルマン)などの銘柄が出始めたのも、この時代です。これらの普及を主導したUCCやキーコーヒーはコーヒー焙煎業、カリタやメリタは抽出機器の企業です。ただしコーヒーは『ブレンド』(複数の豆を混ぜる)で、家庭ではインスタントコーヒーを楽しむ時代でした」(鈴木氏)
大阪で「日本万国博覧会」(大阪万博)が開かれた1970年前後は、さまざまな産業が発芽した年だ。飲食業では、食生活の洋風化に伴い、ファミリーレストランの「すかいらーく」(東京都下)が同年に開業し、翌年には「ロイヤルホスト」(福岡県)が開業した。
「セカンドウェーブ」と「サードウェーブ」を主導したのは、今でもおなじみの米国系カフェチェーン店だ。「スターバックス」の影響で、コーヒーやドリンクメニューの開発が進んだ。日本の喫茶店文化に影響を受けた「ブルーボトル」に注目が集まり、同社が注目した日本の老舗メーカー・ハリオの「V60」や「サイフォン」といった機器も脚光を浴びた。
フォースウェーブについて、筆者が交流のあるメディア関係者に話すと、感度の高い人からはこんな答えが返ってくる。
「コーヒーは、ますますワインの世界に似てきましたね」
本当にそう思う。鈴木氏も語っていたが、「品種」「テロワール(土地)」「生産者(農園)」「栽培」により異なるからだ。前述の「ゲイシャ」も、こんな表示になっている。
「パナマ・ゲイシャ ナチュラル ××農園」
「パナマ・ゲイシャ ウォッシュ ××農園」
ナチュラルとは「果実干し」の意味で、お米のようにコーヒー果実をそのまま天日干しする。ウォッシュは「水洗式」の意味で、果実の中の豆を取り出し、きれいな水で洗うものだ。一般にナチュラルは「果実に酵母菌がつき、干し柿のようになる」(鈴木氏)という。
■価格の広がり方もワインと似ている
コーヒーの場合は、生豆の特性を生かした焙煎方法が「浅煎り」「中煎り」「中深煎り」「深煎り」まであり、それ次第で味も変わる。
ただし、筆者が「ワインに似てきた」と感じるのは、価格の広がりもある。ご存じのように現在のワインは、1本で数十万円もする超高級品から、数百円の廉価品まである。コーヒーも1杯100円で、そこそこおいしい「コンビニコーヒー」が楽しめるようになった。
そう考えると「高級品の見える化」はこれまで紹介した話だが、「廉価品の見える化」も、安心・安全の面から進むように思う。それこそが「第4の波」の本質ではなかろうか。
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高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。———-
(経済ジャーナリスト 高井 尚之 写真=iStock.com)