2021年に最も数多く売れたクルマはトヨタの「ヤリス」でした。年間で約19万6000台以上(1~11月までの累計)を売って、軽自動車の不動の王者ホンダ「N-BOX」の約17万5000台を抑え、さらに登録車の2位となるトヨタ「ルーミー」の約12万5000台に大きな差を付けています。まさに、今年は「ヤリス」の年だったと言えるでしょう。 【画像】1-11月のモデル別販売台数ランキング(日本自動車販売協会) では、今年のトレンドは何だったのでしょうか? 表面的に見えるのはSUVです。販売ランキング1位を獲得したヤリスも、その販売数にはSUVである「ヤリスクロス」が含まれており、その存在がなければベストセラーの座を獲得することはできませんでした。 また、9月にトヨタは「カローラ」にSUVの「カローラクロス」を追加しました。「カローラ」は11月になると単月の販売ランキング1位を獲得しています。「カローラクロス」の販売は好調なのでしょう。さらにホンダから投入されたSUVの「ヴェゼル」も大きな話題を集めています。そして、19年暮れに投入された小型SUVのトヨタ「ライズ」・ダイハツ「ロッキー」の兄弟車もヒット中です。昨年から数多くのSUVが登場しており、そのどれもが大きな注目を集めているのです。
SUVではない、実際に売れたクルマ
とはいえ、実際に売れているクルマを並べてみると、また違ったトレンドが見えてきました。 まず、登録車でいえば年間販売ランキング(11月までの累計)でトヨタのコンパクトカー「ルーミー」が2位となっています。そして4位に約9万台を売ったトヨタの「アルファード」がランクイン。軽自動車に目を移せば、トップはホンダの「N-BOX」、2位はスズキの「スペーシア」で約12万3000台、3位はダイハツの「タント」の約10万6000台となります。 ここで名前が挙がったクルマの共通点は何でしょうか? それは、どれもが箱型のボディにスライドドアを備えていることです。 特に軽自動車では、箱型ボディ&スライドドアはトップ・セールの必須スタイルとなっています。 実際にスズキは8月に「ワゴンRスマイル」というスライドドアを備えた新型モデルを投入。これは、16年に投入されたダイハツのスライドドア付きの「ムーヴ・キャンバス」がヒットしているのを追撃するのが目的です。 また、登録車の販売ランキング上位に食い込んできた「ルーミー」も「アルファード」も、すでに発売されてから何年も過ぎた、正直、古いモデルです。「ルーミー」のデビューは16年、「アルファード」はもっと古くて15年。もう5年も前に出たモデルが販売ランキング上位に顔を出すなんて、製品の魅力というよりも、世のトレンドが理由としか考えられません。 ちなみに20年の「ルーミー」は年間販売が約8万7000台でランキングは6位、「アルファード」は約9万台で5位。この数字は12カ月分です。つまり、今年のまだ発表されていない12月分をプラスすれば、どちらも昨年よりも今年の方がたくさん売れているのです。 つまり、軽自動車も登録車も「箱型&スライドドア」のクルマが非常にたくさん売れたのが21年だったのです。
箱型&スライドドアは、何がよい?
では、箱型&スライドドアは、何がよいのでしょうか? 特徴としていえるのは、ボディが箱型なので室内空間が広いということ。スライドドアは開口部が大きいので乗り降りも楽。居住性という点では、クルマの数あるスタイルの中でトップといえます。ですから、昔から多人数を乗せるミニバンに採用されているスタイルです。そして、子育てファミリーにも強く支持されていました。 一方でデメリットもあります。箱型でボディが大きいので、空気抵抗も大きく、さらに重量もかさみます。背が高いので重心も高くなります。その結果、走行面は苦手。遅いし、カーブでもフラフラしがち。燃費性能的にも不利です。 居住性はいいけど、走りは苦手というのが箱型&スライドドアの特徴です。そんなクルマが売れるようになったのは、もしかしたらコロナ禍の影響も大きいのかもしれません。「公共交通が怖いから、外出にクルマを使うことが増えている」というアンケート結果は、JAFをはじめ、いくつかの調査で見ることができています。 そのクルマでの外出に、家族一緒に出掛けるというのであれば、やはり走行性能よりも居住性のよい箱型&スライドドアが選ばれるのも当然のことかもしれません。そもそも県をまたいでの遠出は避けるという雰囲気もありますから、走行距離が短くなって、走行性能の重要度も下がっているのでしょう。 そういう意味で、コロナ禍が納まるまでは、箱型&スライドドアの人気は続くのかもしれません。