マンション市場に停滞感が広がっている。価格の高騰からか首都圏でも近畿圏でも新築マンションの売れ残りが多くなっている。こういう市場環境では、一般のエンドユーザーがマンション選びに失敗しやすくなる。つまり、買ってはいけないタイプのマンションを、相場よりも高く買ってしまう確率が高くなるのだ。

では、そういった失敗を避けるにはどうしたらよいのか? 住宅ジャーナリストの榊淳司氏に、マンション購入でやってはいけない「10か条」を挙げてもらった。

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(1)完成在庫を値引きなしに買う

建物が完成しているのに依然として販売が続いているマンションが完成在庫だ。デベロッパーとしては早く売り切ってしまいたいと考える。

だから、完成在庫ならば値引きが行われるのは当たり前。しかし、値引きしないで売れるものなら売りたい、というのも本音。だから、客から値引きを求められないと交渉に応じないケースが多い。

完成在庫の購入を検討しているのなら、必ず値引き交渉を仕掛けるべきだ。値引き幅は最低ラインが100万円。完成在庫である時期が長ければ長いほど値引き幅は広がる。1年以上完成在庫になっているのなら1割以上の値引きを目標にすべきである。

ただ、デベロッパーの中でも大手財閥系の1社と新興カタカナ系の1社は、値引きをかたくなに拒否する。市場価格に合わせることをしないわけであるから、こうした会社からは基本的に買ってはいけないということだ。

(2)借地権物件を買う

マンションの敷地は、通常は「区分所有者の共有」である。つまりは所有権。しかし、まれに敷地が「借地権」とか「定期借地権」となっているマンションもある。そういう物件は基本的に避けるべきだ。なぜなら、資産価値が不安定だから。つまり、中古マンションとして売却する場合に、所有権でないことを嫌がられるので売りにくくなる。

借地権には普通の「借地権」の他に「定期借地権」や「旧法借地権」がある。他に「地上権」というのもあって少々複雑。これら権利の強さに多少の違いはあるが、所有権でない場合はすべて避けるべきだ。

(3)駅徒歩11分以上を買う

「駅徒歩10分」と「駅徒歩11分」の差は「1分」ではない。そこには刑務所の塀くらいの壁があると理解すべきだ。理由は「駅徒歩10分」は「徒歩10分以内」の検索範囲内だが、「駅徒歩11分」は範囲外。

中古マンションを探している人の中で、今なら「駅徒歩15分以内」まで広げてくれる方は全体の何割かいる。しかし5年後あるいは10年後、「駅徒歩15分以内」まで広げてくれる人の割合は急減するはず。

その理由は、住宅の余剰感が深まるので希望にかなう物件は「徒歩10分以内」で見つかってしまうから。そうなれば「徒歩11分」の物件は中古市場で存在しないのと同じである。

(4)郊外のバス便を買う

同じ理由から、郊外のバス便は論外となる。今でもバス便の中古マンションを探している人は稀。よほど売出し価格を安く設定しないと買い手が見つからないのが郊外のバス便物件。10年後は買い手すら現れない可能性が大と考えるべきだ。

(5)湾岸埋立地のタワーマンションを買う

今はタワーマンションブームと言っていい状況。ただ、ここ数年はタワーマンションの住民間で起こっている階層的な軋轢をテーマにしたテレビドラマや小説が注目された。タワーマンションを否定的に捉える見方も広がっている。

ヨーロッパにはほとんど超高層な住宅はない。イギリスに一部あるが、上流の人々には嫌われている。日本でも、昔から「○○と煙は高いところに昇りたがる」という価値観が主流だった。何代にもわたって富裕層である人々で、タワーマンションを好む方は少ない。どちらかというと「下品」だと見做される。日本でも、社会が成熟すればヨーロッパ的な大人の価値観が戻ってくるはずだ。

また、タワーマンションには超高層なるが故の欠点がいろいろある。

・外壁修繕に莫大な費用と通常の倍以上の時間がかかる
・最終的に取り壊せない恐れがある
・戸境壁が乾式なので隣戸との音漏れがある
・いざという時に救急隊員の到着が遅れて生存率が低くなる

この他にもいろいろあるが、ここではこのくらいにしておこう。タワーマンションの中でも、湾岸の埋立地にあるものはさらにリスキーだ。東京はまだ、タワーマンションが建ち始めてから震度7以上の地震を経験していない。実際にそれがやって来た時に、埋立地のタワーマンションがどうなるのか、確かなことは誰にも分からないのだ。

(6)竣工引渡しが1年半以上先の物件を買う

日本の住宅は長らく「売り手市場」、「貸し手市場」が続いてきた。その結果、様々に奇妙な商習慣が生まれ、定着してしまった。

例えば、賃貸契約における「礼金」や「更新料」。これらには何の法的根拠もない。そのような判例もある。しかし今でも続いている。

新築住宅の「青田売り」というのも、考えてみれば売り手のみに有利な取引である。その住宅が竣工する前に手付金を取って売買契約を結んでしまうのだから。買い手が解約しようとすると、手付金を放棄しなければならない。買い手はまだ売買の対象となる住宅を確認することなく何千万円、あるいは1億円以上の住宅の購入契約を締結してしまうのだ。

仮に、その購入に住宅ローンを使う場合、適用金利は実行時のものになる。引渡しが2020年の5月なら、2年先の金利でローンを借りなければならない。2年先のローン金利について、確かなことが分かっている人がいるのか?

アメリカはすでに金融引締めに入って金利は上がっている。日米の長期金利の差は3%に迫っていることはあまり注目されていない。現状、日本の長期金利は日銀が0%に誘導している。これは日本の金融史上かつてない異様な状態。2年先もこれが続いているとは、誰も言えないはず。

この先、金利が上がることはあっても下がることはない。今ほど「青田買い」が危険な時期はない。先が読めるのはせいぜい1年未満。1年半以上引渡しが先の物件は避けるべきだ。現金の用意がある場合は別だが。

(7)広告にタレントや有名キャラクターを使っている物件を買う

私は20年ほどマンションの広告を作ってきた。その経験上で言えることは、ウリがない物件ほど広告表現はイメージに走る。あるいは、強力なデメリットを抱えている物件ほど、そこから目を反らせるための何かを起用する。分かりやすいのはタレントやアニメキャラクター。

特に郊外型の大規模マンションでタレントやキャラクターを起用している場合はかなり要注意。「駅から遠い」とか「価格が割高」といった、大きなデメリットが潜んでいる場合がほとんどだ。

(8)オフィシャルページがよく分からない物件を買う

新築マンションの購入を検討する場合は、必ずオフィシャルページをチェックすべきだ。その作り方で売主(デベロッパー)の考え方が分かる。

例えば、最も重要な情報である「現地案内図」へのアクセスを複雑にしている物件は、客に現地を見て欲しくないのだ。「ロケーション」の項目に有用な情報が入っていない場合は、まわりには魅力ある施設がない、ということ。

逆に、売主が言いたいことは最も目立つようになっている。しかし、それがその物件の資産価値を直接高めるものかどうかは分からない。

誰でも分かることがある。それはそのオフィシャルページが見やすいかどうか。欲しい情報が分かりやすく整理されてアクセスしやすくなっているかどうか。

実のところ、それは売主の事業担当者がクレバーなのかそうでないのかを反映している。ものすごく見にくいオフィシャルページは、事業担当者が勘違いをしているかクレバーでないのかのどちらか。そういう人間が企画したマンションは要注意だ。

(9)ここ30年以内に開通した鉄道の沿線で買う

昔から繁栄している街には、きちんとした繁栄している理由がある。便利で暮らしやすいのだ。逆に、最近開発された街は昔の人が「あそこは不便だから住みたくない」と考えていたところだ。だから鉄道の路線が開通するのも遅かった。

日本の住宅は1980年代には量の面で十分に行き渡った。それ以降に開発された路線や街は、さほど必要ではないのに開発側の都合で無理矢理に出来てしまったと考えていい。だから、人口減少と少子高齢化が進むこれからの日本では、急激に不要感が強まるはずだ。首都圏なら千葉ニュータウンやつくばエクスプレスの沿線は、かなり危うい未来が待っていそうだ。

(10)商談コーナーで複数回、外国語が聞こえた物件を買う

ここ数年、東京や大阪の住宅市場では外国人のプレゼンスが目立つ。いっときの爆買いは収まったが、今でも「住むため」という実需で一定数が買われている。

彼らが日本の住宅文化の中に溶け込んでくれている限りは、何ら支障はない。問題は、彼らが管理組合の中で一定の勢力であると自覚して、自分たち流にルールを変えようとした場合だ。

東京の湾岸エリアでは、商談コーナーで聞こえてくる言語がほとんど中国語だった、という物件も見られるようになった。彼らは荒涼とした埋立地に住むことに何の躊躇もない。また、豪華設備がたくさんある派手なマンションが大好きだ。

商談コーナーで外国語が飛び交うようなマンションは、そういった将来のコミュニティリスクがあると考えるべきだろう。

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