30代を境にお金と時間の考え方が逆転

人気を集めるシェアサービスからは、それを支持する消費者の意識や価値観が読み取れるのではないか。ココナラ 代表取締役社長 の南章行氏に話を聞いた。

「ココナラ」のサービス画面。

スキルや知識を個人間で取引 累計の成立数は150万件

個人の知識やスキル、経験といった「得意」を売買するオンライン型フリーマーケット「ココナラ」。似顔絵や占い、恋愛相談、ファッション相談など「生活の悩みの解決」から、独立・企業の相談、キャッチフレーズや文章の執筆など「ビジネスシーン」まで、取引されているサービスは幅広い。

例えば、似顔絵のコーナーを見ると、オリジナルキャラクターやアイコンのデザインが500円から1万円で販売されている。ファッション相談は「骨格診断であなたに合ったファッションご提案します」「顔分析とパーソナルカラーでメイクのお悩み解決します」などが同程度の価格で出品されている。それぞれのサービスページ下部には、実際の利用者からの「真摯に対応してもらいました」「困ったときに、また相談させてもらいます」といった感謝の声が並ぶ。

「ココナラ」は2012年にサービスを開始。その後、着実にユーザー数を伸ばし、出品されているサービス数は約17万件で、これまでに成立した取引数は150万件にも及ぶ。2017年には、出品者と利用者を増やすためのテレビCMを放映。売上は非公開だが、直近3年間の成長率の高さから、監査法人トーマツの技術系ベンチャー企業を対象にしたランキング「日本テクノロジー Fast50」2017年版で1位にも選ばれている。

運営するココナラ 代表取締役社長の南章行氏は、「得意なスキルや趣味を誰もが簡単に出品して、必要な人に購入してもらえるサービスです。起業する前に、子どもやビジネスパーソンを支援するNPOを2団体設立した経験から、会社以外の場所で自分の得意分野で人の役に立つことが、多くの人にとって喜びになると気付きました。そうした経験をあまねく人に届けたいと思ったことが、サービスを始めたきっかけでした」と話す。

ココナラ 代表取締役社長
南章行氏

1999年慶応義塾大学を卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。2004年企業買収ファンドのアドバンテッジパートナーズに入社。2009年英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。帰国後、NPO法人ブラストビートの設立を主導した他、NPO法人にも参加。2011年アドバンテッジパートナーズを退社し、自ら代表としてココナラを設立。

Point 1

30代を境にしてお金と時間の考え方が変わる

「ココナラ」の仕組みは、シンプルだ。出品者は、自分の知識やスキルを500円から20万円までの間で自由に価格を設定して出品。サービスを利用したい人がサイト上の説明文や評価などを見て選び、クレジットカードや銀行振込などで支払う。オンライン上で出品者と購入者がメッセージなどでやり取りをして納品、完了すると、出品者に代金の75%がココナラから振り込まれるという流れだ。

現在のサービス利用者は、30代から40代が中心。出品者は30代前半が多く、購入者は30代半ばという年齢構成になる。一般的にシェアリングエコノミーのサービスの利用者は20代が多いと言われるが、それに対して南氏は「もちろんシェアリングエコノミー・サービスについて世代別の意識調査をすると、20代の若年層に抵抗感がないことがわかります。しかし実際のところ20代は収入がまだ少ないことが多く、スキルや知識といった無形のサービスに使える金額は少ないのです」と話す。

また、出品者よりも購入者の年齢が少し高い理由について、次のように分析する。「年をとるにつれて、時間とお金の価値観が入れ替わっていきます。若い頃は時間があるが、お金がないことが多い。一方で年齢が上がると、お金はあるけれど、時間がないに逆転します」。

さらに、利用者の価値観として、ネットへの向き合い方も挙げる。

「例えば、若い人たちは困ったことがあれば、すぐにTwitter上などで尋ねて、誰かから回答を得るということを一般的に行っています。ネットにいる人たちの力を結集して問題を解決していくスタイルに違和感がないことも、我々のサービスが利用されている背景のひとつです」。

Point 2

成長の背景は価格戦略と出品者が購入者に代わる転換率

「ココナラ」のような、個人の持つスキルをCtoC(個人間取引)で売買するサービスは、同社の創業当時からすでに大手企業の新規ビジネスやベンチャー企業などで複数、存在していたという。その中で、なぜ「ココナラ」がユーザー数を増やすことができたのか。

「その要因は、価格設定のルールを徐々に変更していったことにあります。開始当初は、どんなサービスであっても500円でしか販売できないように設定しました。その理由は、我々の商品が物理的なモノではなく、無形のサービスであるため、実際に購入するまで商品のクオリティが判断しづらいためです。価格を同一にすることで、サービスの購入者は説明文章を比較することで、自分に合ったサービスを選べるようになり、満足度が高まりました」。

その後、利用者からの評価が高い人から、高価格帯も設定できるようにした。現在は、利用者が定着してきたため、500円から20万円までで誰もが価格を自由に設定できるようにしている。

また、利用者を増やす上で、もうひとつ重要なポイントがあったという。「我々の思いである『人の役に立つためのサービス』であるというブランディングを一貫して行いました。誰かの役に立ちたいという思いで出品しようと思ったのに、Webサイトを見たら『小遣い稼ぎ』と記載してあれば、その人は絶対に出品しません。あくまで善意に基づいたサービスが集まるように心がけたのです」。

そのことで、出品者同士がサービスを利用し合うという効果が生まれた。出品者自身はそれなりのクオリティを500円で提供していると思っているため、他の出品されているサービスも同様に価格以上の価値を持っていると考えたのだ。

「シェアリングエコノミーで重要なのは、サービス提供者が購入者に変わっていくことです。そうなれば『自分の得意なことを売ろう』と伝えて、出品者を増やしていくだけで、自然と利用者も伸びていくのです。この転換率が成長スピードに大きく影響を与えていきます」。

これまではオンライン限定の個人間サービスに絞ってきたが、今後は対面でのサービス提供にも領域を広げていく予定。また、現在すでに弁護士のマッチングサービスを提供しているように、プロとの出会いの場も増やしていく考えだ。

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