30年後、日本は「明るい廃墟モール」だらけ!?

成功するショッピングモールの作り方である。船場が手がけたイオンレイクタウンの年間客数は約5000万人。ディズニーリゾートの約3000万人を軽く上回る。モール作りの原理原則は、「お客様をモール全体に行き渡らせること。いかにストレスなく歩いて、楽しいと思わせ、気分を高揚させるか。回遊性を高める動線計画が重要です」(鈴木さん)。

まずは横の動線。客の流れによどみを生じさせないよう、行き止まりや回りにくい箇所を作らないようにする。通路の突き当たりはよどみやすいので、目的の明確な店舗「目的核」を配置する。家電量販店や書店、CDショップなどだ。

(撮影:尾形文繁)

通路はカーブにして、100メートル先ぐらいまで見渡せるようにする。少し歩くと先が見えて、また少し歩くと先が見える。いろいろな店に目が行き、気づいたら歩いてしまっているのがよい。

できれば店の入り口は狭くして奥行きを深くする。通路からたくさん店が並んでいるように見えたほうが、楽しくそぞろ歩きができる。

(撮影:尾形文繁)

それなら通路を直線にしてしまえば、ずっと先のほうまで見渡せるのではないか。

「先がかすんで見えないほど直線が長いと、歩くのが嫌になります(笑)。かすむほど先までは見せない。でも、カーブがきつすぎると、今度は突き当たり感が出て、先の見通しが立ちづらい。その微妙な加減を計算しています」(鈴木さん)。

(撮影:尾形文繁)

通路をカーブにして、ぐるっと回るサーキット型にすれば、往復で同じ通路を通らないので飽きない。それで今はサーキット型がモールのトレンドだ。

しかし、巨大モールをそぞろ歩きするのは楽しい反面、疲れる行為でもある。休憩スポットは細かく取る。

映画館、フードコートは上に、スーパーは下に

次に縦の動線。人は上に上がるのは面倒だと感じ、心理的障壁がある。そこで、歩きながら無理なく上階に上がれるように、エスカレーターやエレベーターを配置する。モールによくある解放的な吹き抜けとエスカレーターは、上への視認性を高め、上階へ誘導するためのものだ。

最上階には、映画館やフードコートなどの「目的核」を配置する。人は下へ降りるのは苦にならない。「シャワー効果」で客がモール全体を回遊しやすくなる。

(撮影:尾形文繁)

いちばん下の階には、スーパーを置く。これも日常的に行く「目的核」だ。

客は一般的に最後に食料品を買う。なぜなら、重いものや冷蔵が必要なものを持って、ほかの買い物をしたくないからである。スーパーは後回しにして、上階へ上がっていく。これを「噴水効果」と呼ぶ。

(撮影:尾形文繁)

最後にスーパーで買い物をしたら、すぐに車に運んで帰れるように、駐車場はスーパーの近くに設置するのが基本である。立体駐車場があるモールも多い。「投資が大きいですが、来店客が『シャワー効果』で下に降りやすく、各階への回遊性が高まります」(深井さん)。

こうした人間の自然な心理に沿った仕掛けや工夫がなされたモールに、人は何度も行ってしまうのである。

モール作りのプロが見て、原理原則をしっかり押さえていないショッピングモールは全国にあるという。「根本的に商圏人口が満たされていれば、多少は持ちこたえますが、同じ商圏にいい商業施設ができると、客はそちらに流れ、徐々に廃れていきます」(鈴木さん)。

全国のショッピングモール、総ピエリ化の恐れ

「商圏人口」と「回遊性」──。これがショッピングモールの成否を分ける。

おばあちゃんの原宿「巣鴨」には高齢者がたくさんいるが……

しかし、これからの日本は加速度的に少子高齢化が進み、人口が減少していく。つまり、日本という商圏に人がいなくなる。

急増する高齢者には、巨大モールをぐるぐる回遊するだけの体力、気力がないだろう。街で見かける、杖をついて歩くようなお年寄りは、巨大モールではほとんど見かけない。せいぜい子どもや孫とフードコートで食事をしている程度だ。

もともとショッピングモールの中心ターゲットは、20~30代のファミリー層であり、高齢者向けのテナントがほとんどないのも原因である。けれど も、今の20~30代はネットで買い物をすることに慣れているから、将来、年を取って足腰が弱くなったとき、ショッピングモールに行かなくなるかもしれな い。昨今、「ファミリー世帯」が減り、「単身世帯」も増えている。

となると、30年後、40年後、全国のショッピングモールが総ピエリ化し、日本中が「明るい廃墟」だらけになってしまう恐れがある!?

それを防ぐには、ショッピングモールを徐々に高齢者向けに変えていかねばならない。本来、単身高齢者こそ、1カ所ですべてが賄える店や日常的な娯楽を求めているはずだ。過疎化が進み、食料品や生活必需品の購入にすら困っている「買い物難民」も大勢いる。

一人暮らしのお年寄り (写真:読売新聞/アフロ)

高齢者の生活をサポートするロボット

そこで提案したい。ショッピングモールに高齢者向けのテナントを誘致したうえで、動く通路にする、電動車椅子で移動できるようにする、あるいはロボットに“乗って”、一緒におしゃべりしながら買い物できるようにする。

エスカレーターの昇降時は、高齢者が転倒しないように十分な注意が必要だが、適度な緊張と運動は心身の健康によさそうだ。万が一のときも、病院が併設されているモールなら安心だ。

いっそ最上階に高齢者用マンションや老人ホームを設置してはどうか。毎日が「いきいきパラダイス」になる。

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