30~40代港区「ホームパーティ男子」の憂鬱 「女性にモテた」かつての輝きは失いつつある

港区タワマンホームパーティに変化が起きている?

6月のある土曜日。眼下にきらびやかな夜景を見下ろす東京都港区の湾岸沿いにそびえ立つタワーマンションの35階にある一室で、夜7時半から宴が始まった。スペイン産の生ハムをつまみに、次々に開栓される高級スパークリングワイン。最初は10人程度だった参加者の数も、盛り上がりが最高潮に達する頃には20人近くに増えた。翌日が日曜なので、この時間帯にいちばん多く参加者が集まる。

女性参加者の年齢層は主に20代が中心。誰もが知っている女性ファッション誌の読者モデルを務める女性や、航空会社勤務のキャビンアテンダント(CA)、果てはミスコン候補生の女子大生までと、ルックスの良いきれいな女性の参加が目立つ。

「東京都港区のタワーマンションで開催されるホームパーティ」。それを切り盛りする主催者男性は、さぞかしすてきな女性とのつながりが多かろうと、同じ男としてうらやましく感じる人も少なくないかもしれない。ところが、こうした「港区ホームパーティ男子」の女性からの評判が近年は凋落(ちょうらく)しているという。

真相を確かめるべく、20年間にわたり2000回以上の合コンに参加した日本で唯一の「プロ合コンコーチ」である筆者が、その知られざる生態に迫った。筆者自身、プロ合コンコーチに転身する以前は、外資系証券会社に勤務し、港区白金に立つタワーマンションに居住し、ホームパーティを主催する30代の独身男性であった。その経験も踏まえて、港区ホームパーティ男子が直面する諸問題についてお伝えしよう。

「ここ数年、ホームパーティに参加する女の子を呼ぶのが、かなり大変になってきたよ。毎週毎週、何十人っていう女の子にLINEでお誘いのメッセージ送ってるから、腱鞘炎になりそう」

ため息交じりに語るのは、大手メディア企業に勤務する田所進氏(仮名、44)。15年前からホームパーティを楽しみ続け、参加回数は1000回を超えようという強者だ。

以前は開催案内のメールやメッセージを少し送れば、参加を希望する女性をすぐに確保することができたが、ここ数年急にそれが難しくなってきたという。「参加意欲を高めるために、『A5ランク和牛ステーキ』や『伊勢海老』などの高級食材で釣らないと来てくれなくなった」(田所氏)。

「港区ホームパーティ男子」の特徴

そもそも、「港区ホームパーティ男子」とは、どのようなタイプの男性なのだろうか。また、彼らはなぜ毎週のようにホームパーティを開くのか。本質をひもとくべく、まずは彼らに共通する特徴を知っておこう。

ざっと挙げると、ホームパーティの主催者には、

・港区に立つ20階建て以上のタワーマンションに居住
・ルックスは大してよくない、むしろ悪めであるケースが多い
・年収1000万~3000万円程度の小金持ち
・高学歴(東大、東工大、一橋大、早稲田、慶應など)
・職業は、弁護士・会計士・税理士などの士業、会社経営者、外資系証券マン、マスコミ等
・社会人になってから遊びを覚えた
・見えっ張りで、ステータスを気にする

などの特徴が見られる。

簡単に言うと、ルックスが良くないため学生時代に女性にモテなかった高学歴男性が、大学卒業後に努力して手に入れた自身の社会的地位と経済力を効果的に誇示して、今まで手の届かなかったハイクラスの女性と懇意になる手っ取り早い手段が、港区ホームパーティなのである。

繁華街にあるクラブに行けば、容姿端麗で魅力的な女性は多数存在している。しかし、そうした女性たちは、そこで活動している流行の最先端を行くファッショナブルかつ外見の良い男性に魅力を感じる傾向にある。いくら大金を稼いでいても、いくら見栄えの良い仕事に就いていても、外見が悪ければそこで勝ち目はない。だからこそ、彼らは自分たちが勝てる空間を設定する必要に駆られている。

実際、筆者が港区白金のタワーマンションに居住した理由もそうした動機に基づくところが大きかった。そして、筆者がタワーマンションに居住していた2006年から2011年にかけては、女性関係に関してそれなりの「実績」を重ねることもできた。その当時はまだ港区ホームパーティの威光は確かに存在していた。

なぜ、かつて隆盛を誇った港区ホームパーティの不人気化が進んでいるのか。その理由は3つある。

1つ目の理由は、「タワーマンションの棟数が劇的に増加した」ことだ。日本不動産研究所が発表している「超高層マンション市場動向」によれば、東京都区部の階高20階以上の超高層マンションは2007~2016年までの10年間で約250棟、約8.5万戸があらたに完成した。

10年ほど前は、タワーマンション自体が希少価値のある稀有な存在だったが、これだけタワーマンションの数が増えてくれば、それはもはや珍しいものではなくなり、価値の希薄化を引き起こしている。

女性からすると、ホームパーティの勧誘を受けても、

「タワーマンションのホームパーティ? あー、先週も行ったばかりだし、再来週もお誘いいただいているのよね。今週はお休みしまーす」

という返答になるのも無理はない。

女性にとってタワーマンションのホームパーティは、昔は滅多に参加することができない特別なイベントだった。しかし、いまや毎週至る所で開催されている街コンと同程度のレベルの催しに成り下がっている。

「非ゴージャス化」が進行

タワーマンションの数が増えたことによる影響がもう一点ある。それは、経済力レベルが相対的に低いホームパーティ主催者が増えたことだ。劇的に供給が増えたタワーマンションは、以前よりも相対的に安価なコストで入居できるようになった。

そうした人間が主催するホームパーティは、場所こそタワーマンションで開催されているものの、ドリンクが100円ショップで購入した紙コップで提供されたり、食べ物が安い出前のピザで済まされたりと、以前の港区ホームパーティでは考えられなかった「非ゴージャス化」が進行している。

そうした低質化したホームパーティに出席した女性は、

「タワマンのパーティだから、もっと豪華だと思ってたけど、意外とショボかったね」

という感想を持ち、その後タワーマンションで開催されるホームパーティにあえて参加する意欲を失ってしまうのである。

2つ目の理由は、「ホームパーティ主催者の高齢化」だ。

港区にある35階建てのタワーマンションの最上階に居住する会社経営者の浜口聡志氏(55、仮名)。25年以上にわたってホームパーティを楽しんできた大ベテランだ。大きな窓からはレインボーブリッジが見渡せる70平方メートルの部屋で、浜口氏は語る。

「もう俺たちも50代だから、若い女の子を引っ張りにくいっていうのはわかっているんだよ。30代くらいでガッツがある奴がステータスあるマンションに住んでホームパーティをやってくれればいいんだけど、なかなかそういうヤツが出てこないね」

稼げる男の絶対数が激減

2008年のリーマンショック以降、港区ホームパーティ主催の一翼を担っていた外資系証券マンのうちの多くはリストラに遭い、その数を大きく減らしてしまった。運よく残った外資系証券マンも給料が激減したケースがほとんどだ。マスコミの中では相対的に給料が高かった広告業界やテレビ業界も、残業代削減やボーナスの抑制傾向が強まるなど、以前より懐具合は寂しくなっているという。

つまり、若くしてタワーマンションに住むほど稼げる男の絶対数が、以前と比較すると激減している。

仮にそういう男性がいたとしても、「昔より、すぐ女にハマッちゃう男が多くなった」(浜口氏)という言葉どおり、先行き不透明な現代においては、経済力を持った男性ほど結婚を視野に入れた女性との真剣交際へと迅速に発展することが多いようだ。

ホームパーティは自宅を会場として提供する「家主」が存在しないと、実行できない。現在は、30代の若手ホームパーティ主催者が出現しにくい環境だ。その結果、10年前に30~40代だった主催者たちがそのまま持ち上がり、40~50代となった現在でも主催者として活動せざるをえない。

ホームパーティのメインゲストとして期待されている20代女性と主催者男性との年齢差は広がる一方。その結果、一般的に若い男性へのニーズが高い20代女性の要求を満たせなくなる。

「ホームパーティ? 行ってもオジサンばかりだしー」

という声に象徴されるように、女性は港区ホームパーティへの参加を躊躇するようになってしまうのだ。

3つ目の理由は、女性が持つ「ギラギラ男性に対する嫌悪感」である。

港区ホームパーティは、主催者自身の社会的地位と経済力とを効果的に女性に誇示して、女性の関心を引く機会だ。加えて、主催者は見えっ張りで、ステータスを見せつけることが好きだ。

そうすると、ついつい会話の内容が女性に対してアピールや自慢が多くなってしまうものだ。また、友達や知り合いに自慢できるような「かわいい女性や、第三者的評価が高い職業に就いている女性」を熱心に口説くといった行動を取る傾向がある。これこそが、女性に「ギラギラしている」と嫌悪される行動パターンなのだ。

ホームパーティの本質が見えてきてしまった

都内のIT広告会社で社長秘書を務める今岡幸恵さん(28、仮名)。女優の矢田亜希子に似た薄い茶髪がよく似合う目の大きな美しい女性だ。大学に入学した10年前から数多くの港区ホームパーティに参加してきたが、ここ数年は参加を控えているという。その理由を聞いてみた。

「一言でいうと、結婚相手にふさわしい男性はホームパーティにいないからです。確かにホームパーティに参加した若い頃は、お部屋に遊びに行くたびに『こんなすてきなところに住めるなんてすごい』と感動と尊敬の念を覚えました。でも、何度も参加を重ねるうちにホームパーティの本質が見えてきてしまったんです」

さらに幸恵さんは続ける。

「多くのホームパーティ主催男性を見てわかったことは、彼らはとにかくチャラい。女の子と遊ぶことしか考えていない人が多い。そもそもモテるためにタワーマンションに住むという発想がイヤ。『高いところから良い景色見せれば女は落ちるだろう』という安易な発想が透けて見えるのがイタい」

そうして、ホームパーティ参加への意義を失った幸恵さんは、それ以降友人からお誘いを受けても適当に理由をつけて断っている。

タワーマンションの棟数増加に伴って、そこで開催されるホームパーティの実施数も比例して増えた。その流れに呼応して、以前はそれほど出会うことのなかったホームパーティ主催者を女性が知る機会も劇的に増加した。その結果、ホームパーティ主催者のギラギラぶりが世の女性たちに広く知れ渡ることとなった。タワーマンションのホームパーティに対して警戒心を持った女性は、参加を躊躇するものだ。今、そうした女性が増えているのだ。

このように、女性から厳しい意見が増えつつある港区ホームパーティだが、今後も女性からの低評価路線を突き進むことになってしまうのか。実は、そうならないための方策が3点あると筆者は考えている。

低評価路線を突き進まないためのポイントとは?

そのポイントは、

・低層化

・少人数化

・目玉企画

の3つである。

残念ながらタワーマンションにはすでに女性から「ギラギラしている」「チャラい」などのネガティブなイメージが定着してしまった。となれば、あえてその逆の形式の建物に住めば、そのようなマイナスの印象を払拭することができる。それが「低層化」戦略である。

具体的には、10階建て未満の低層かつ高級感のあるマンションに住むことだ。そうすると自然と居住エリアは、高層マンションが立ち並ぶ賑々しいエリアから少し離れた閑静な住宅街の一角になるケースが多い。こうした居住エリアも落ち着いたポジティブな印象を女性に与えることができる大事な要素だ。

女性が持つ港区ホームパーティのイメージはとにかく大人数でザワザワとしていること。前出の幸恵さんも「大抵のホームパーティは男女合わせて20人以上いるカオスな状態。もうそれだけでチャラい」と不満を隠さない。

それであれば、参加人数を6~10人程度の必要最小限に絞って、顔見知り同士の落ち着いた雰囲気でホームパーティを催せばいいのだ。それは、大人数を連想するパーティというよりは、合コンに近いイメージだ。これが「少人数化」である。

そして何より女性はイベント好きだ。となれば、ホームパーティで供される食事も、いつもと違ったワンランク上のものを用意することを予め告知しておこう。たとえば、「下関産天然アンコウ鍋」や「名古屋コーチン鳥鍋」といった「目玉企画」を用意することによって、女性の参加意欲を高めることができる。

今挙げた3つのポイントを実践している人物がいる。都内でマーケティング会社を経営する40代前半の荒池哲司氏(仮名)だ。港区の中でも近くに大使館が点在する閑静な住宅街にある荒池氏の居住する部屋は7階建てのマンションの一室。購入すれば1億2000万円は下らない豪華ながらも低層の「億ション」だ。

月に1~2回程度のペースでホームパーティを定期的に開催する荒池氏のこだわりは、まずメンバー構成に表れる。

「人数ですが、大人数で開催するとうるさい感じになっちゃうんで、まずやりません。通常は3対3くらい。多くても5対5くらいでしょうか。男性メンバーも、原則として僕が知っている仲の良い友達しか呼びません。少人数でアットホームな雰囲気をつくると、女の子が安心して信頼してくれるんです」

いわゆる従来のタワーマンションでホームパーティを主催するようなギラギラ男性や下ネタ好きの男性は極力呼ばないように気をつけているという。まさにアットホームな少人数戦略を実践している。

目玉商品を用意して女性の心をつかむ

荒池氏はホームパーティを開催する度に、食材は全国各地の名物をインターネット通販で事前にお取り寄せして用意する。

「やっぱり目玉となる食べ物があると女性のテンションは上がりますね」

女性人気が最も高いのが、神戸牛や松阪牛といったブランド和牛だ。ステーキでもしゃぶしゃぶでも、肉人気はまだまだ高い。また、必要に応じて、「ペリエ・ジュエ」といったかわいいラベルが女性受けする高級シャンパンを用意するなど、ドリンクにも気を抜かないことも重要である。

「おもてなしの心で、女子に楽しんでもらう気持ちが大切」

と語る荒池氏の実践するパーティ形式こそ、今後港区ホームパーティに対する女性の評価を高めるために主流となるスタイルであろう。

一見華やかに見えるタワーマンションに生息する港区ホームパーティ男子が失いつつある輝き。2020年の東京オリンピック開催に向かって、東京の街もさらに大きな変貌を遂げる。その変化に合わせて港区ホームパーティ男子も柔軟にそのスタイルを変えない限り、彼らの憂鬱は続くのである。

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