32歳で独立した経営者が青ざめた…「優秀だけど、絶対に採用してはいけない人」を採ったばかりに組織崩壊

独立して事業が軌道に乗ると大きな収入と可能性を手に入れることができます。一方で独立には失敗のリスクが伴うため、そのリスクには十分備える必要があります。

独立の失敗というと、営業がうまくいかず仕事がとれない状況をイメージされる方も多いかと思います。しかし、営業がうまくいっても独立に失敗するケースもあります。

私は経営心理士として経営コンサルティングをすると共に、経営心理学を体系的に学ぶ経営心理士講座を主宰する中で、1200件以上の経営相談を受けてきました。その中で独立後、苦しい状況に陥っている人からも様々な相談を受けてきました。

その経験から、当記事では営業がうまくいっているのに独立に失敗している事例をご紹介したいと思います。まずは「優秀そうに見えたが、実際は問題社員だった」人物を採用し、組織が崩壊してしまった、ある経営者のエピソードです。

「能力の高さ」のみで採用した結果……

32歳でOA機器販売の仕事で独立したJ氏は、社交的な性格で営業もうまく、順調に仕事を獲得。そして、人手を増やそうと募集をかけたものの、なかなかよい応募がなく、苦戦が続きました。

そんな中、J氏より1歳下の男性N氏が応募してきました。

面接をしたところ、頭の回転が速く、アグレッシブで自信過剰なタイプで鼻につくところがありますが、それだけ優秀なのだろうと思い、他によい応募もないことから採用。

N氏は高いモチベーションで働き、任せた仕事を素早く終わらせ、「次、何かやることないですか?」と積極的に仕事を引き受けてくれます。

そういった状況が数カ月続いた後、徐々にN氏の要求が強くなってきました。

「もっと営業に力を入れていきましょう」

「もっと大きな案件も取りにいかないと事業拡大できないですよ」

「新たに人を採用しましょう」

J氏はN氏の提案を拒むことができず、言われるがままに仕事を増やし、新たに2名採用しました。N氏は新人の教育は自分が全部やりますと引き受け、新人の面倒を見るようになりました。

J氏、N氏、新人2名という体制で1年ほど業務を続けた頃から、J氏はN氏に対して強い嫌悪感を抱くようになります。それはN氏が新人2名を味方につけ、J氏に対抗するようになってきたからです。

N氏はこの会社は自分が仕切っていると言わんばかりに、J氏に対していろいろな要求をするようになり、その要求を断ると新人たちにJ氏の悪口を言う。それにより、新人もJ氏に対して不信感を持つようになります。

J氏はだんだんオフィスに居づらくなり、外回りに時間を割き、オフィスにほとんど行かなくなりました。その結果、オフィスはN氏の居城と化し、J氏が出社すると冷ややかな視線が飛んできます。

いま、人を採用するとN氏の子分を増やすようなものであるため、人を増やせない。しかし、人を増やせなければこれ以上、仕事を受けることも難しい。N氏は仕事には熱心に取り組んでいるので辞めてくれとも言えない。そんな状況が続いています。

「自分が会社を辞めたい」

J氏はそう打ち明けてくれました。

こんな人間は有能でも不採用にせよ

この「問題社員を採用し、統率がとれなくなった」という事例、どうすればこの事態を防げたのでしょうか?

人の採用は独立後、初めて経験する方も多いと思います。まだ先の見通しがつかない中で給料を払って人を雇うという決断は勇気がいることであり、独立したからこそ経験できることの一つです。

採用は経営を左右するほどに重要な意思決定であり、採用のミスは致命傷になることもあります。

私は採用のミスを2種類に分けています。

一つは採るべき人が採れなかったというミス。そしてもう一つが落とすべき人を採るというミスです。

前者のミスはまだ許されます。しかし、後者のミスは経営の致命傷となり得るものであり、許されないミスとなります。

ただ、人手不足の昨今、ほとんどの人は後者のミスを考慮せず、前者のミスがないように必死で人を採ろうとします。

その結果、後者のミスを犯し、組織の中を引っ掻き回されて、統率が取れなくなる。特に、人数が少ない独立直後の状況において後者のミスをすると致命的です。それがまさにJ氏の事例です。

私は採否の判断をするうえでは、人間性と能力の2つの要素に分けて判断するように指導しています。

よく問題になるのが、能力は高そうだが人間性がいまいちという人の採否の判断です。私は基本的にはどれだけ能力が高くても人間性がいまいちな人は不採用とすべきと考えています。

その理由は、これまで組織が内部崩壊した会社の事例をいくつも見てきましたが、その原因の多くは能力が高くて人間性がよくない社員に起因するものだったからです。

能力の高い社員というのは諸刃の剣となる恐れがあり、味方にすると頼もしいですが、敵に回すと極めて厄介な相手となるのです。

能力が高くて人間性がよくない社員を採用し、痛い目にあった経験がある経営者は、採用ではとにかく人間性を重視するようになります。そのため、ベテラン経営者ほど人間性を重視する人が多いです。

この点を考慮しながら面接で人間性を見抜き、採否を判断する必要があります。特に今は人が採れない時代だからこそ、すぐ飛びつきたくなるため、よく留意する必要があります。

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一方で、独立で失敗するパターンには「採用した社員が定着しない」というものもあります。くわしくは後編記事〈35歳で独立した経営者が絶句…「部下の仕事ぶり」に満足できず「これなら独立しないほうがよかった」〉でお伝えします。

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