4月23日は「地ビールの日」。年1回の記念日に、造り手の苦労や探求心を知ってから飲む一杯も格別では。独自の製法でファンの味覚を刺激し続ける穀町ビール(仙台市若林区)を訪ね、一本一本に注ぎ込む情熱をこの目で確かめた。(せんだい情報部・伊藤卓哉)
[地ビールの日] 日本地ビール協会を中心とする「地ビールの日選考委員会」が1999年に制定。ビール大国のドイツで1516年4月23日、バイエルン公国のヴィルヘルム4世が原料を大麦、ホップ、水のみとする「ビール純粋令」を出したことに由来する。
夫婦で年間6000リットルを製造
芳醇(ほうじゅん)な香りが漂う醸造所で19日、代表の今野高広さん(54)が瓶詰めに追われていた。330ミリリットルの瓶を出来上がったばかりのビールで満たし、王冠で栓をする。妻奈央子さん(41)があうんの呼吸で、30本入るケースに手際よく収めていく。
穀町ビールは、3週間おきに約400リットルを仕込み、年間で6000リットル以上を2人で製造する。瓶詰めは1000本に及ぶ日もあり、ケースを運ぶのも重労働だ。今野さんは「何歳までできますかね」と笑う。
製造工程はまず、麦芽を粗びきにする。湯に浸し、でんぷんを糖化させ、こした麦汁を約1時間半、ずんどうの鍋で煮込む。
ホップは3回に分けて投入し、苦みや味わい、香りのバランスを調整する。20度まで冷やした麦汁を発酵タンクに移し、酵母を入れて仕込みは完了。瓶詰めまで約1カ月間、20~23度で管理し寝かせる。
地元の大麦を使った商品も開発
ビールは雑菌の侵入が最大の脅威だ。異臭などの原因となり、売り物にならなくなる。穀町ビールは、器具や床を熱湯やアルコールで徹底的に滅菌し、失敗は一度もないという。
今野さんは藩制時代に穀物問屋が並んだ穀町近くの自宅ガレージを改装し、2017年に広さ約15平方メートルの醸造所をスタートさせた。地元の原材料を活用した商品開発にも積極的で、23年にはJA仙台とタッグを組み、仙台産の大麦を使った「試験醸造零号ビール」を作った。
「ボディーがしっかりしながら、がぶがぶ飲める一杯」を追い求める今野さん。「生まれ育った地域の素材を生かしたビールづくりに励んでいきたい」と意気込む。
市内では今年1月、米国のクラフトビールメーカー「グレートデーンブリューイング」のレストランと醸造所が太白区秋保町にオープンした。
穀町ビールは現在、8種類のビールと2種類の蜂蜜酒を醸造する。味わいや香りはバラエティーに富む。
看板商品の「穀町エール(10)」はアルコール度数が10%と高めで、蜂蜜を加えて心地よい甘みと深いコクを生み出した一品。「穀町完熟梅エール」は、山形市の老舗和菓子店「乃し梅本舗 佐藤屋」の完熟梅ピューレを入れ、爽やかな風味に仕上げた。
穀町エール(10)を愛飲する利府町の病院検査技師阿部直樹さん(54)は「お湯で割って飲むとさらに香りが立っておいしい。味の変化を楽しめるのも魅力」と太鼓判を押す。
希望小売価格は330ミリリットル入りで700~1050円。若林区の及川酒造店と宮内屋酒店、市内の百貨店などでも取り扱う。連絡先は穀町ビール022(223)5860。