40代には懐かしい?「ミニスカ」「ヘソ出し」「厚底」「ブーツ」が再び人気化Z世代に“Y2Kファッション”がウケる訳

昨年秋頃から復活の兆しを見せていた「Y2Kファッション」が、今シーズンはいっそうの盛り上がりを見せているようだ。Y2KファッションのY2KとはYear 2000、すなわち2000年を意味し、世紀が変わる頃に流行していたスタイルを指す。世紀末、2000年問題、ミレニアムなどに世間が翻弄されたり、浮かれていた時代の装いだ。 インスタでもY2Kファッションに身を包んだ人たちの写真が  具体的には、カラフルな色使いやミニスカート、短めのトップスやローライズパンツのヘソ出し(お腹見せ)スタイルに、厚底サンダル、ブーツなど。ブランドのロゴ入りバッグやアクセサリーも必須アイテムである。懐かしのギャル系ファッションにも通じる肌見せと過剰さが、コロナ禍ですっかりライフウェアしか着なくなったはずの世の中で再び注目されているのだ。

■高級ブランドもY2K路線へ転換  日本の若い女性だけでなく、欧米のセレブや韓国のK-POPアイドルも夢中になっており、韓国発のY2Kファッションブランドの人気も高まっているようだ。シャネルやヴァレンティノといったラグジュアリーブランドもY2Kを意識し、少し前まで主流だったロングスカートから一転して、ミニ丈のワンピースやスカートを打ち出している。  ピンク、イエロー、グリーン、ポップな色が溢れる2022年のランウェイは、長らく続くコロナ禍の閉塞感を打ち破るかのような明るさに満ち、新しい世紀への期待感に高揚していたあの時代を思わせる。

 制約だらけの自粛生活に辟易したからか。コスパと機能性と着心地のよさばかりを追求するファッションに対する反動なのか。いずれにせよ、パワーみなぎるY2Kファッションが20年以上の時を経て帰ってきたのである。  この世界的なY2Kファッションブームに火をつけたのは、Z世代と呼ばれる若者たちだ。これからの消費の動向を左右すると言われるZ世代は、1990年代半ばから2000年代に生まれたいわゆるデジタル・ネイティブ世代でもある。まさに、「Y2K」前後に生まれた世代が成人を迎え、自分たちが生まれた頃のY2Kファッションに惹かれているのだ。

 ちょうど彼らの親世代がかつてY2Kファッションの主役だったことも関係しているだろう。Z世代にとって、Y2Kファッションは「お母さんやお父さんの若い頃のファッション」であり、写真や映像で目にする機会も多かったはずだ。レトロファッションの中でも、もともと親しみがあったスタイルであることが復活の理由として挙げられる。 ■大人には懐かしく、若者には極めて新鮮  Y2Kファッションが復活したもう1つの理由としては、流行のサイクルが挙げられるだろう。一般にファッションのトレンドは20年周期といわれている。スカート丈もパンツのシルエットも眉の太さも口紅の色もだいたいそれぐらいで一周する。短くなったり長くなったり、太くなったり細くなったり。行き着くところまでいくと揺り戻しで元に戻るのが流行というものだ。

 それに20年経てば20代の若者も40代になる。世代もすっかり入れ替わり、前回の流行を担っていたギャルも立派な大人になる。その頃にはブームも過去の産物になり、たいていの人々は流行ったことも忘れているというわけだ。  というわけで、大人世代にとってはどこか懐かしく、その子ども世代である若者にとっては極めて新鮮に映るのがY2Kファッションなのである。   とはいえ、Z世代がY2Kファッションに惹かれる理由はそれだけではない。親世代の流行の再来が新鮮だったから、だけではないのだ。時代背景も含めて、もう少し分析してみよう。そもそもZ世代にとってのファッションとはどのようなものだったのだろうか。

 ユニクロのフリースがおじいちゃんから孫までに普及し、「国民服」と言われるほどブームになった頃に彼らは生まれた。物心ついた時にはファストファッションが流行語になり、「ほどほどに流行を取り入れた安い服」がどこででも手に入る環境で彼らは育つ。おしゃれをするのに、コストもエネルギーもそれほどいらない時代に彼らは思春期を迎えたのだ。  そのような中で東日本大震災が起こり、人々の価値観も大きく変化する。きらびやかに装うよりも、日々のくらしを充実させることが重要だ。当たり前の毎日をていねいに暮らすことが本当の幸せだとして、「ていねいな暮らし」ブームがやってくる。ファッションよりも食や住、ライフスタイルに人々の関心は移っていった。

 そうなるとむしろ、おしゃれを頑張りすぎることが恥ずかしくなっていく。服はもうユニクロで十分だ。いや、むしろユニクロがおしゃれなのだ。過剰にデザインされた服ではなく、シンプルな服を着こなすことがファッションの王道となる。もちろん、機能性と着心地のよさが最重要課題である。  所有からシェアへ。断捨離やミニマリズムの流行もそれを後押しする。おしゃれとは数少ないアイテムを厳選してロジカルにコーディネートすることと同義になっていく。

 何しろ、ファッション産業が環境にいちばん負荷をかけているのだ。次から次へと流行を追いかけて服を買うことほど環境破壊につながることはない。こうして、サステナブルファッションが当たり前となった時代に彼らはZ世代と呼ばれるようになった。  さらに追い討ちをかけるように世の中はコロナ禍に見舞われた。ステイホームに自粛生活。オンラインでキャンパスデビューした彼らにY2Kのようなおしゃれの入り込む余地はないはずだった。 

■コロナ禍が「ファッション観」を変えた  そんな彼らがなぜ、突然今までのファッションの対極にあるY2Kファッションに惹かれたのだろうか。Z世代がおしゃれに関心を持つようになってからは、頑張りすぎないエフォートレスな装いがずっと主流だった。  スニーカーにリュックサック、ユニクロのライフウェアが席巻する世の中で、Y2Kファッションにチャレンジするのはなかなか勇気がいるはずだ。ほとんど、コスプレに近いかもしれない。しかし、意外にもコロナ禍がプラスに作用した。結果的に今までの価値観をリセットする方向に働いたのだ。

 コロナ禍になってからのキャンパスライフで気付いたことがある。対面授業が復活しても以前のように、毎日キャンパスに通うわけではない。そのような状況下で週に1回会うゼミの学生のファッションにとても「気合い」が入っているのが窺えるのだ。  キャンパスに通うのが日常ではないからこそ、人と集いおしゃれをする場が減ったからこそ、人と対面で会う時には、装うことに力が入るのではないだろうか。あるいは自分の気分を上げるために好きな格好をするようになったのではないだろうか。

 よって、今までなら「派手すぎる」「頑張りすぎている」と敬遠されそうなY2Kファッションがすんなりと彼らに受け入れられたのではないか。装うことの楽しさを思い起こさせるY2Kファッションに惹かれたのではないか。 ■当時とは「違う」現代らしい要素  もちろん、Y2Kファッションと言っても、当時とまったく同じものがリバイバルしているのではない。ミニ丈、肌見せ、カラフルな色使い、アイコニックなブランドバッグというその要素が復活しているのであって、味付けはずいぶん「今風」になっている。あくまでも、ヘルシー、サステナブル、ジェンダーレスといった時代の気分を纏っての復活である。

 例えば、かつては決してありえなかったスニーカーを履くことや、コーディネートするアイテムは必ずしも新品でなくてもよいことにそれが現れている。   Z世代はヴィンテージや古着への関心も高く、Y2Kファッションも親世代のアイテムを効果的に使ってコーディネートしているようだ。その辺りのサステナブル感覚もY2Kファッションが支持された理由だろう。  新しいものだけがファッションではない。機能性と着心地のよさだけがファッションではない。Z世代がY2Kファッションを好む根底にはそんな想いが潜んでいるような気がする。

米澤 泉 :甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授

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