SPA!が歩んだ30年の間に、日本は「一億総中流社会」から勝ち組と負け組が混在する「格差社会」へと変貌を遂げた。ウイルスのように増殖を続ける負け組たち。そこで今回は「自分は人生の負け組だと思う」と回答した50代の男性会社員を対象とした3000人にアンケートを実施。見えてきたのは「負け組」特有の意外な共通点だった!
◆50代の背中から見えてきたものとは?
「ゆっくり仕事をしても午後にはやる作業がなくなる。営業で現場を飛び回っていた頃が懐かしいです」
機械メーカーに勤める安原寛治さん(仮名・52歳)は現在、総務部で保養所施設の管理業務を担当。肩書はヒラ社員。年収740万円だが、同年代では最低レベルだ。安原さんが負け組50代に転落する契機は45歳のときだった。
「年下課長に噛みついたら、地方の営業所に左遷されました。今は東京本社勤務ですが、自宅は大阪なので、社宅に単身赴任。同じ社宅に住む上司の子供に『オジさんなのにペコペコしてる』と言われ、本当にツラくなりましたね」
12歳になる子供のため、会社を辞めるわけにもいかない。もはや「サラリーマンとして負け組かもしれない」と公園のベンチに座って話す安原さんの背中からは、物悲しい哀愁が漂っていた――。
年収740万円にもかかわらず、安原さんはなぜ「負け組」と感じてしまうのか。今回「負け組だと思う」と回答した50代サラリーマン3000人を対象にアンケートを実施。その結果から導き出されたのが下記の平均像だ。
◆<負け組50代男の平均値>
※従業員数50人以上の会社に勤務する50代サラリーマンで都市部在住の人を対象に「あなたは負け組だと思いますか?」という質問をぶつけた。その中から「負け組だと思う」と回答した3000人を抽出し、結果を算出
●一戸建て所有率 51.7%
●既婚率 79.3%
●子供の数 1.65人
●貯蓄額 325万円
●通勤時間 45.2分
●最終学歴 偏差値60未満の大卒
●平均年収 618万2000円
●負け組転落年齢 38.9歳
(20代以下…17.9% 30~34歳…17.0% 35~39歳…16.4% 40~44歳…20.9% 45~49歳…13.1% 50代…14.7%)
●負け組三大マインド
1位 低収入 43.9%
2位 低肩書 18.4%
3位 低貯蓄 14.7%
4位 独身&孤独 12.5%
5位 病気 4.9%
6位 非モテ 1.6%
平均年収は618万2000円で51.7%が一戸建てを持ち、8割近くが既婚。決して負け組とは言えない平均像が浮かび上がったが、実情は違う。経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう解説する。
「40代までは、がむしゃらに働いていた人ほど収入や肩書の相対的な低さは気にならない。むしろ『いつか出世してやる』という希望を持ち、積極的に生きていた。でも、50代になって上がり目がないことを認識したとき、他人に比べて低収入、低肩書、低貯蓄という現実が一気に重くのしかかり、一層の負け組感を増幅していきます」
◆収入、肩書、貯蓄……3つの“低い”が、負け組を決定づける
3000人のアンケート結果は、人生の敗北感を突きつける負け組マインドは家族や健康、モテではなく、低収入、低肩書、低貯蓄という3要素だと示す。そして、この“新・三低”とも呼ぶべきマインドが生まれる分岐点が平均38.9歳であることも判明した。この数字について、健康社会学者の河合薫氏は次のように指摘する。
「成果主義が浸透しつつあるとはいえ、日本企業は入社すれば立ち回り方次第で、本人の能力がイマイチでも出世して勝ち組になるチャンスが与えられます。だからこそ、アラフォーまでは誰もが夢を見られる。一方、それを境にいかんともしがたい現実が見え始める。年下上司が現れ、会社に居場所がなくなり、セカンドキャリアの研修会に強制参加。出世の夢から急速に醒めるのがこの年齢です」
来年結成30周年を迎える人気バンドのミスターチルドレンは「未来」という曲の中で「今僕の目の前に横たわる/先の知れた未来を/信じたくなくて/目を閉じて過ごしている♪」と歌う。
もはや先の知れた未来に目を背けず、どう生きるかが負け組50代にならないために必要なのかもしれない。<取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/高橋宏幸 モデル/古川 順>
【荻原博子】経済ジャーナリスト
経済事務所を経て独立。家計経済のパイオニアに。著書に『老前破産』(朝日新聞出版)、『投資なんか、おやめなさい』(新潮社)など
【河合 薫】健康社会学者
全日空、お天気キャスターを経て東京大学大学院博士課程修了。最新刊は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP研究所)