50~60代男性が直面する「中年の危機」 弱音を吐けない昭和の価値観も要因に

5月3日には俳優の渡辺裕之さん(享年66)が、11日には、ダチョウ倶楽部の上島竜兵さん(享年61)が亡くなった。誰からも愛される著名人の突然の訃報に、日本中が衝撃を受けた。

 2人が亡くなった理由は知るよしもない。だが、いまの日本社会において、この年代の男性の多くが、誰にも言えない苦しみを抱えている。時に妻だけでなく本人すら、思い悩んでいることに気づけていないという。

 日本人の8割が50~60代に差し掛かると「ミッドライフクライシス」、つまり「中年の危機」に直面するといわれる。定年退職や子供の独立など、それまでの生きがいがなくなることで“自分の人生はこれでいいのか”と考えて、心の葛藤や無気力を感じる。精神科医の樺沢紫苑さんが解説する。

「女性の場合は『空の巣症候群』といって、子供が自立する50才前後に“自分の役割が終わった”と感じ、強い空虚感や喪失感に襲われます。

 一方、この世代の男性の生きがいは仕事であることが多い。50代になると、若い頃のように思い切り働く体力がなくなり、それ以上出世することも難しくなり、定年退職も近づきます。すると“おれの人生は、この程度だったのか”と、人生の目標を失う。自殺者数の統計は女性は70代が最多なのに対して、男性は50代がもっとも多いのは、ミッドライフクライシスが関係していると考えられます」

 立命館大学産業社会学部教授で家族社会学者の筒井淳也さんは、中高年男性の生きづらさの原因は人それぞれあり、非常に複雑だと話す。

「50代になると、いくら健康で体力がある人でも、精神的には落ち込みやすくなる。たとえ、社会的地位があり傍目には順風満帆な人生に見えても、それまでの成功体験やプライドから、老いていく自分の将来への不安や焦りを覚えることもある。ミッドライフクライシスにシンプルな診断基準はないので、何度もカウンセリングをしないと本当の原因がわからないこともあります」(筒井さん・以下同)

 さらに、趣味や友人とのつながりが希薄なことも関係している。女性は年齢を重ねても、趣味などを通じて新たなコミュニティーに飛び込んだり、新たな人間関係を築くことができる人が多いが、男性はそうではないことの方が多い。

「この世代の男性は、職場という“お膳立てされた人間関係”の中だけで生きてきた人が多いのが特徴です。“会社員”“上司”といった立場で人間関係を築いてきたほか、若い頃から仕事を生きがいにまい進してきたため、もともとの趣味や友人もあまり持っておらず、家庭内でも居場所がないケースもある。年齢を重ねて出世するほどプライドがじゃまをして、会社での地位から離れて裸一貫で新たな友人をつくることが難しく、退職後に孤立しやすいのです」

平均寿命が延びて退職後の人生が長くなったことも、男性が生きづらくなった原因の1つと考えられる。これは決して、本人だけに落ち度があるわけではない。「男は仕事、女は家庭」という価値観で育ち、男性であることを理由に弱音を吐くことをよしとしない、昭和の“空気感”のせいでもある。

「いまの50~60代には、現代からすると古い男女観が刷り込まれている人がまだいます。そのため、ほかでもない男性自身が“男らしさ”を最重要視してしまいやすい。いつまでも男らしくあろうとするあまり、年を重ねても頑張ってしまう。女性は不満や悩みを夫や友人に話して発散できますが、男性は自分の中に抱えたまま、ため込んでしまう人が多いのです」

 中高年男性の生きづらさは、本人からも見えにくいのだ。

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