国内外で「5G(第5世代移動体通信システム)」の商用化に向けた動きが活発になっている。米国と韓国では4月に、イギリスでも今月(5月)に5Gの商用規格「5G NR(New Radio)」に準拠する商用サービスが始まった。日本では各キャリアが9月からプレサービスを、2020年春から夏にかけて本格的な商用サービスを始める見通しだ。
5Gは「超高速・大容量」「超低遅延」「超多接続」の3つが特徴。3G(W-CDMA/CDMA2000)に対する4G(LTE)がそうであったように、5Gサービスの開始当初は超高速・大容量を生かす展開になるものと思われる。
しかし、規格上の理論値であれば4Gでも下り最大1Gbps超を実現できる。速度だけを見れば「4Gでも十分じゃない?」と思わなくもない。実際、筆者もそういう声をよく耳にする。
それでもあえて5Gを導入するメリットはどこにあるのか。5G端末向けのモデム(通信プロセッサ)やアンテナなどを手がける米Qualcomm(クアルコム)で4G/5G担当のシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるドゥルガ・マラーディ(Durga Malladi)氏が、日本の報道関係者に改めて説明した。
●同じ「1Gbps」でも“質”が違う
先述の通り、通信速度だけ見れば4Gでも1Gbps超の速度は実現できる。マラーディ氏も「4Gでもギガビットに達しているのに、なぜ5Gが良いのか?」という質問を受けることが多いという。
それに対する答えとして、同氏はシミュレーションとフィールドテストの結果を挙げる。その結果によると、動画のダウンロードにおいて5Gはレイテンシ(遅延)で3~20倍、ダウンロード速度で3~10倍の改善効果を持つという。4K(3840×2160ピクセル)動画のストリーミング再生の比較では、最高ビットレートで見られる確率が4Gでは4%だったのに対し、5Gでは95%まで改善したという。
セルエッジ(基地局のカバー範囲の端部)における品質改善も行っていることと合わせて考えると、同じ「ギガビット」でも、5Gを使えば平均的な「ユーザー体験は革新的に向上する」(マラーディ氏)というのだ。
●事業者視点でもメリットはある
マラーディ氏は、キャリアからも「なぜ5Gをやらなきゃいけないのだ?」という質問を受けることがあるという。
先述の通り、5Gでは4G比でレイテンシが少なく、ダウンロード速度も高い。つまり「スループット」(単位時間あたりの処理性能)が高い。さらに、5Gでは4Gよりも広い周波数帯の電波を利用することを想定している。そのため、5Gを導入することでキャリアのネットワークのキャパシティ(許容量)を向上できる。
キャパシティが向上すれば、ビット(データ量)あたりの単価(コスト)も下げられる。そのこともあり、マラーディ氏は「5G時代には、通信無制限のデータプランが普及することを期待している」という。
5Gの普及を通して気軽に大容量通信ができるようになれば、「ユーザーの(通信の)使い方も変わる」(マラーディ氏)可能性がある。
ただ、通信がいくら速く効率的になっても、バックエンドを支えるインフラ(光ファイバー回線など)やコンテンツサーバなど、それに付随するものも“高速化”しないと、そのメリットを生かしたサービスは登場しないだろう。
そう考えると、5Gはさまざまな産業を「アップデート」するきっかけになるかもしれない。少なくとも2020年代前半は、そういう意味で見逃せない期間となりそうだ。