年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。
10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。
誰かの役に立つことに価値を見出す
「意外と知らない『50代で仕事の意義を見失う』という現実」で触れた、6つの価値観について改めて考えてみよう。
70〜80歳まで「働くことが当たり前」の社会で重要なのは「価値観の転換」だった© 現代ビジネス
まず、「他者への貢献」である。この価値観は、「人の役に立てること」「社会の役に立つこと」などで構成されている。仕事で直接やり取りをする顧客に限らず、社内外問わず、身近な他者に対して貢献したいという思いを持つ人は、定年後に増える。
人の役に立つという考え方は、まさに仕事の本質となる考え方である。たとえば、仕事を通じて能力を高めることは好ましいことである。
しかし、仮に誰もが羨むようなすばらしいキャリアを歩んでいる人がいたとしても、その仕事が人の役に立たないものであれば、その仕事には趣味の一環としての意義があったとしても、仕事としての意味はないと思う。
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逆に、たとえ人に見向きもされないような仕事であっても、それが確かに誰かの役に立っているのであれば、私はその仕事にスポットライトを当てたい。
仕事とは本来、誰かのためになる行為のはずである。
しかし、定年前の人にとって、そうした意識は低い。よりよいキャリアを築きたい。高い収入を得て家族に良い思いをさせたい。定年前の人は自分や家族のために働いているという意識が強い。もちろん、それ自体は悪いことではない。そうした意識を通じて結果的に社会に貢献できているのであればそれはそれでいいだろう。
これに対し、定年後の就業者の多くは、直接的に誰かのために働くということを大事にしている傾向がある。仕事を通じて人や社会に貢献し、彼らを喜ばせ幸福にする。歳を重ねた就業者は、自らの経験からこうした仕事本来の意義づけ、意味づけを自然に行うことができるようになっている。
多様な価値観と年齢の関係
一方で、「生活との調和」はワークライフバランスを保ちながら、生活に必要な収入が得られることを重視する価値観であり、仕事は生活の手段という意味合いが強い。この価値観は年齢ごとの変化が少なく、概ねいずれの年代においても必要とされている。
「仕事からの体験」の因子得点は、20代で高い値を記録した後、中年にかけて低下するが、定年後しばらくたつと20代の水準まで回復する。
これは「わくわくするような体験をすること」「様々な人と交流する機会があること」「いろいろな種類の活動をすること」など、仕事を通じた体験を日々楽しむことを重視する価値観である。
多くの人が、若い頃には仕事で新しいことを体験することを楽しみにしていたはずであるが、長い会社員人生の中でこうした感覚は徐々に失われていく。人は職業人生において、中高年のときに忘れていた価値観を定年後に取り戻すという経験をする。
仕事を通じて「体を動かすこと」も高年齢者にとって重要な価値観である。体を使う仕事に対する偏見を持つホワイトカラーは少なくないが、年齢を重ねるにつれて仕事を通じて「体を動かすこと」に価値があることに気づく。閉じた空間から出て、適度に体を使う仕事に就くことは日々の生活を規則正しく保つ運動にもなってくれる。
Photo by iStock© 現代ビジネス
そして「能力の発揮」を目指す価値観である。高齢になっても、自ら学び直すことなどによって、自身の専門性を高め続けるキャリアを選択できることはすばらしい。
学ぶことを苦にしない人であれば、平均的には能力が低下する時期にあっても、それを維持し、向上させることができる。実際に、対人能力、対自己能力は高齢になっても伸び続けると感じている人も多い。
こうした能力をいかに高めるかは、仕事をする上で必要なだけではなく、定年後の幸せな生活を営むための重要な要素になる。低下する体力や気力や思考力などと向き合いながらも、持てる能力を発揮し、また向上させる働き方も可能なのである。
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一方で注意すべきは、この価値観は「高い収入や栄誉」を目指す働き方とは無関係ということである。後者は収入や地位の向上そのものが目的なので、能力の発揮は目的達成のための手段にすぎなくなる。
人生100年時代に必要となる就労観の転換
最後に、定年後の幸せな働き方と切っても切れない関係にあるのが、「高い収入や栄誉」を目指す就労観である。
20代を含む若い世代では、多くの人がこの価値観を重要だと感じている。多かれ少なかれこのような考え方は若い時には誰しもが持っているものである。そして、先述のように、仕事を通じて他者と切磋琢磨し、キャリアの頂点を目指したいと思う気持ちは、パフォーマンス高く仕事を行うための原動力となる大切な考え方でもある。
Photo by iStock© 現代ビジネス
しかし、年齢を重ねるにつれて、こうした考え方の重要度は著しく下がっていく。
組織における出世争いは熾烈である。数少ないポストを多くの人が争うことから、勝ち残れる人はごくわずか。大多数はどこかの段階で出世レースからふるい落とされることになる。
若い頃、組織において重要な役割を任されたいと考えていた人であっても、その願いを完全にかなえられる人はほとんどおらず、またそれをかなえられた少数派にとってもどこかの段階でキャリアの階段を下る局面は必ず訪れる。
だからといって、壮年期においてキャリアの途中で競争から降りるわけにもなかなかいかない。現役時代にはそれぞれが自身の守るべき生活があって、仕事における競争から完全に距離を置くことは現実問題として許されないからである。定年前には、多くが競争社会のなかで一定の役割を果たさなければならず、仕事における競争から無縁でいられる人は多くない。
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しかし、定年を迎える頃になると、個々人をとりまく状況は大きく変化する。自身の能力の限界を感じ、仕事の負荷が小さくなっていくと同時に、稼ぐべき収入額が急速に低下していくのである。
人生100年時代となり、人々のキャリアが長期化するなか、成長だけを追い求め続ける働き方はどこかの段階で必ず立ち行かなくなる。そのタイミングで、これまで仕事において大事にしていた考え方を捨て去ることができなければ、こだわりはむしろ精神的な重荷になってしまうだろう。
50代で仕事に意義を見失う理由
なぜ人は50代で仕事に対して意義を失い、迷う経験をするのか。
これはつまるところ、定年を前にして「高い収入や栄誉」を追い求め続けるキャリアから転換しなければいけないという事実に、多くの人が直面しているからだと考えられる。
他者との競争に打ち勝ち、キャリアの高みを目指したいという考え方をどのようにして諦めることができるか。それが、定年後に幸せな生活を送れるかどうかを大きく左右するのである。
人生100年時代という概念は、現代において着実に世の中に浸透してきている。将来的には、70歳や80歳になっても働くことが当たり前の社会が訪れるだろう。就業の長期化が進む現代においては、自身の成長だけを考えていれば済むような単線型のキャリアを許してはくれない。
従来のままの自分ではいられないと気づいたとき、これまで培ってきた就労観をいかに転換することができるか。ここに失敗してしまい、過去の仕事における地位や役職に恋々とすることで、新しい仕事に前向きに取り組むことができないシニアも一定数存在する。しかし、そのような人は実は多数派ではない。
就労観の転換は難しいことであるが、それにもかかわらず、現に多くの人々がこの難題に真摯に向き合い、うまく乗り越えていることもまた事実だということが、データからはわかるのである。
つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。