auがFirefoxスマホで思い描く世界

MozillaがFirefox OSの枠組みを発表し、それに賛同したキャリアが一堂に会したのが2013年の『Mobile World Congress』。日本からはKDDIが参画、端末の投入を予告していた。そこから約2年、ついにこのOSを搭載した『Fx0』が発表された。同社の田中孝司社長がかねてから「クリスマスプレゼント」と称していたように、発売日は12月25日となる。ただし、25日に発売されるのはauオンラインショップと直営店のみ。一般販売は1月6日から順次開始される。
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「商売抜き」auがFirefoxスマホで思い描く世界(石野純也氏寄稿)
写真:週アスPLUS
 端末やFirefox OSに関する取り組みは、田中孝司社長が直接行なった。田中氏は“ギーク”を自称し、ユーザーからも「田中プロ」の愛称で親しまれる変わりダネの社長。ゲストには、これまたギークで週アス本誌でもおなじみの女優、池澤あやかさんを抜擢。
 
 Firefox OSは、Mozillaが開発を主導するウェブOS。カーネル部分などはAndroidをベースにしているが、アプリケーションランタイムに“Gecko”を採用。その上で動くアプリケーションも根本的に異なり、すべてがHTML5やJavaスクリプトといったウェブの技術で作られる。
 
 MozillaのCTO アンドレアス・ガル氏が「すべて100%オープンテクノロジーゆえに、ディベロッパーは自分たちの意向でその中身を自由に修正できる」と述べているように、オープンソースでキャリア、メーカー、開発者が自由にカスタマイズできるのも特徴。それぞれの作成したプログラムは、コントリビューションを行なうことでOSの仕様に取り込まれる。実際、KDDIも「Web-castの機能はKDDIがコントリビューションした」(田中氏)。欧州キャリアはプライバシーに関する機能を実装するなど、水平分業の形でOSが作られているのもFirefox OSならではだ。
 
 性能の低いCPUでもそこそこ快適に動くことから、海外ではローエンド向けのOSとして採用されることが多く、ZTEやTCL、ファーウェイといった中国メーカーが多数の端末を開発している。
 
 このOSを採用したKDDI初の端末として登場するのが、LGエレクトロニクス製の『Fx0』。「オープン」を表現する、スケルトンのボディーを採用。チップセットに1.2GHz駆動のクアッドコアCPUを搭載する『Snapdragon 400』を、通信機能に下り最大150MbpsのLTEを採用するなど、海外で出ているFirefox OS端末よりは一段も二段も高いスペックになっている。
 
 現行のハイエンドモデルと比べれば見劣りする部分も多いが、実際に触ってみた限りではそこそこサクサク動く。文字入力には『iWnn IME for Firefox OS』を採用、フリック入力など今までスマホで親しまれてきた入力方法もそのままだ。また、『LINE』や『NAVITIME』といったアプリもプリインストールする。
 
 端末のデザインにはau desing projectで『MEDIA SKIN』、iidaで『X-RAY』を手がけてきた吉岡徳仁氏を起用。X-RAYと同じスケルトンボディーで、“中身”をデザインする手法も共通している。
 
 とは言え、田中氏自身が「ギークの皆様のためだけに、スマホを作った。ほとんど商売抜きでやり始めて、まったくビジネスのことは考えてない」と語っているように、端末の位置づけは非常に特殊で、万人受けを考えたものではない。発表会で出たアプリのマネタイズについての質問に対しても、「まったくビックリこいた質問」(田中氏)と返すなど、商売っ気のなさを隠さない。それでも、KDDIがFirefox OSを導入したのは、そこに“作る楽しみ”があったからだという。
 
 「なんとなく、既存のスマホに飽き足らなくなってきている。自分の若い頃を思い出すが、もっといじれたら楽しいんじゃないか。2011年ごろにFirefox OSを見て、おもしろいと思って導入を決めた次第で、ビジネス的にどうかは深く考えていない。au design projectもやってきたが、おもしろいことをやるのが、いわゆるファンに伝わればいいというノリ。自分のスマホはすごく身近なもので、みんなが同じものを持っているのはつまらないんじゃないか。それをデザインすることで、非常に身近な感じになるのがいい。その意味では、一般の方にも新しい時代が拓いていくことを教えていきたい」
 
 こうしたコンセプトの一環として、『Fx0』にはアプリを自由にデザインできる『Framin』をプリインストール。端末の傾きや照度などのイベントを検知して、さまざまな情報を表示することができる。いわば、誰もが簡単にプログラムを作れるということだ。
 
 KDDIはFirefox OSを採用した開発ボードの『Open Web Board』や、GUIを採用した開発ツールの『Gluin』を用意し、イベントなどで配布しているが、これも“作れる”を実現するための手段だ。
 
 もちろん、ビジネスは度外視していると言いながらも、「楽しくやろうというような想いが大きくなって、結果としてたまにはもうかったらいいと思っている」(田中氏)と、将来的な収益化はおぼろげながらも考えているようだ。
 
 端末は手が込んでいるが、本体価格は約5万円。近いスペックのAndroid端末が2万円台であることを考えれば、1台売るごとに大赤字ということにはならないだろう。
 
 また、開発者コミュニティが盛り上がり、結果としてHTML5ベースのアプリが増えれば、AndroidやiOSにとってもプラスになる。KDDIにとっても、新しさを打ち出せるのはメリットだ。このように考えると、KDDIのFirefox OSに対する取り組みは、すぐに儲けを出すというより、将来に向けた種まきをするプロジェクトと言えるだろう。
 
 「2台目で持つ方も多いと思うので、安い料金にさせていただいた」(田中氏)というように、料金も工夫した。“Fx0おトク割”を用意し、新規契約の場合は基本使用料が最大2年間無料になる。パケット定額サービスも“LTEフラットcp(f・2GB)”を選択でき、料金は3500円だ。
 
 とは言え、契約が必要になることに変わりはない。海のものとも山のものとも分からない新たなOSを採用した端末を、2年契約で持つのは勇気がいることだ。ギーク向けと位置づけるなら、チャレンジしやすいよう、単体でも端末を買えるようにしてほしかったところだ。
 
 KDDIの子会社が運営するMVNOの“UQ mobile”が始動し、2GBが980円でもてるようになった今だからこそ、どの回線を使うかはユーザーに委ねてもよかったのではないか。単体で販売すれば、既存のauユーザーがSIMカードを差し替えて気軽に使うこともできる。厳しい見方をすると、既存のビジネスの枠組みに縛られているとも言えるだろう。新しさを打ち出すのであれば、“売り方”にももうひと工夫ほしかったというのが、筆者の本音だ。

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