BBC報道で日本の「痴漢問題」が国際社会の俎上に 池袋駅で撮影された動画が中国で販売される現実

 治安がいいとされている日本で、性犯罪が商品として売られている──。イギリスのBBCが、今度は1年間にわたって「CHIKAN」を取材し、告発した。日本は国際社会から「異様な国」と見られていたのだ(*本文内に一部性的な表現を含みますので、ご注意ください)

【画像】白バックに写真などが並ぶ、BBCが告発した中国サイト。動画内容の一部は番組内でも取り上げられた

スカートや髪の毛に

 イギリスの公共放送・BBCが衝撃の映像とともに『痴漢動画の闇サイトを暴く 売られる性暴力』と題した番組を放送したのは、6月8日のこと。東京都内で撮影された痴漢動画を中国のサイトで売り捌くグループを追跡し、痴漢を「日本にはびこる病」と断じているのだ。

 BBCと言えば、3月にジャニーズの性加害問題を大々的に報じ日本を揺るがせた、イギリスの公共放送。その“BBC砲”が、今度は日本にはびこる痴漢という性犯罪に向けて炸裂した。

 英大手メディアで活動するフリージャーナリストのギャビン・ブレア氏は、海外での痴漢への注目度についてこう話す。

「日本の痴漢は、いまや世界で広く認知されています。#MeToo運動など欧米諸国で性犯罪に対する問題意識が高まる一方、いまだに日本で卑劣な行為がコンテンツとして売買されていることに、多くの海外メディアは驚いています」

 この番組は、BBC記者が1年近く日本で取材を重ね作られたという。記者は投資家を装ってサイト運営者(日本在住の中国人)と接触し、運営者の配下には15人の動画制作チームがいて、池袋駅など日本の主要駅や中国で毎月30~100本の痴漢動画を撮影していることを聞き出した。運営者は動画について「大事なのは、本物かどうか。本物じゃないとだめなんです」と力説している。サイトの有料会員は約1万人以上いて、1日の売り上げは10万~20万円だという。

 画質は粗く、接近しすぎていて構図がよくわからないものが多い。サイトページがうまく開かないケースも多く、サイト内に表示される「カスタマーセンター」に問い合わせたところ、26日時点で「ただ今メンテナンス中で、間もなく見られます」との返答が来た。BBCの報道があった今も、なおサイトは動き続けているのだ。

30秒の動画が5万円で

 BBCが告発した闇サイト運営のメインプレーヤーは中国人で、顧客も中国人が中心のようだ。一方で記事では、電車内を模した部屋で痴漢体験を楽しめる日本のイメクラ店にも取材がなされ、痴漢が“日本の文化”であるかのように印象づけられている。

 セクハラや性暴力の告発運動を行なっている「#WeToo Japan」による2019年のアンケート調査によれば、痴漢の被害にあった時に「駅員や警察へ通報した」と答えた割合は1割以下で、多くが「我慢する」「逃げる」という対処をしていたという。9割が泣き寝入りで、痴漢はほぼ野放しなのが現実だ。

 では、実際に痴漢の動画はどのように撮影されるのか。BBCが取材したサイトとは別の投稿サイトで痴漢動画を販売したことがあるという50代の日本人男性に話を聞いた。

「私は満員電車だけでなく、始発や終電で泥酔して眠っている女性も狙っていた。全身を映した後に顔、胸元、股間、女性が気づかなそうならブラの中まで、小型カメラで撮影していました。よく利用したのが山手線。駅間が短く、バレた時に逃げやすいからです。私は30秒ほどの動画をサイト運営者に5万円で売ったことがあります。今は多くの電車内に防犯カメラが設置されているので、盗撮のリスクは上がっています」

 別の痴漢グループに属していたという日本人男性(50代)にも話を聞いた。痴漢で二度の逮捕歴があり、今は「足を洗っている」と言う。

「歩いている時に目線がうつむき加減の子を狙っていた。手の甲に触れて、相手の反応を見て、お尻などを触わったり股間を押し当てたり。成果をアピールするために動画を撮ってサイト上に投稿することもありました。そういう時は3人くらいのグループで電車に乗り、見張りや撮影者などの担当を割り振って撮っていました」

 今回取材した痴漢常習者はみな、被害女性たちが負う精神的な傷については一切言及しなかった。こうした人々が日本社会に存在しているというのも認めざるを得ない事実である。

イギリス政府が渡航者に警告する日本の「通勤列車」

 こうした日本の恥部に世界が目を向けている。

 BBCの記事によれば、〈(痴漢は)あまりにあちこちで起きる犯罪なので、イギリス政府は日本への渡航者に対して、「通勤列車で女性客が不適切に触られるという報告は頻繁にある」と警告している〉とある。カナダ政府も同様の警告を出しているという。

 前出・ブレア氏は実際に、日本国内で痴漢の被害に遭う女性を目の当たりにしたことがあるという。

「都内の満員電車で、男性が明らかに身体を女性に押しつけていて、女性はうつむいて我慢をしている様子でした。これは絶対に変だと思って、私は服の襟を掴んで『痴漢野郎』と言い、次の駅でホームに放り出した。被害女性の『周りに知られてしまうのが恥ずかしい』という恐怖に、痴漢犯罪者はつけ込んでいるのかもしれない」

 海外の報道に詳しい国際ジャーナリストの山田敏弘氏はこう語る。

「日本の痴漢に関しては、5年ほど前にもドイツの公共放送で『グローピング』(英語で痴漢の意)と題した特集が組まれましたが、いまやそのまま『CHIKAN』で国際的に通じるようになってしまっている。

 日本は治安が良くて住みやすい国だと思われているので、痴漢という性犯罪が頻繁に起きていると聞くと、そのギャップに驚くのです」

 我々日本人は、痴漢という性犯罪を軽く見過ぎてきたのかもしれない。

 日本では、昔のポルノ映画から現代のAVまで、“痴漢モノ”と呼ばれるジャンルの作品が数多く作られてきた。『ルポ性暴力』の著者でノンフィクションライターの諸岡宏樹氏が語る。

「制作側は痴漢モノが顧客の欲求を発散させ、性犯罪の抑止に役立っているとしてきましたが、実際はそうではない。警察庁科学警察研究所が1997年から1998年に強姦や強制わいせつで逮捕された553人に行なった調査では、33.5%が『AVを見て自分も同じことをしてみたかった』と回答していて、少年に限ってはその数字は5割近くに跳ね上がっていた」

 BBCの番組内でも「痴漢を楽しめるイメクラ店」を紹介した上で、〈話は実は必ずしもそれほど単純ではない〉〈ほとんどの痴漢犯は、被害者を支配し、屈辱を与えるという、そのことに興奮するのだ〉と断じている。“ガス抜き”のような理論は国際社会には通用しないのだ。

「メーカーはその人気の高さから制作を続けていましたが、今回のBBCの告発でさすがに自主規制の取り組みが強まるでしょう。今後痴漢のような性犯罪を助長するAVは消えるかもしれない」(AV業界関係者)

 数年前から大手AVサイトでは、タイトルを「痴●」と伏せ字にして、「痴漢」というキーワードでは検索できないようになっていたり、“痴漢モノ”の作品を購入しようとすると、特定の電子決済が使えないようになっているという。決済事業者側が性犯罪を助長しているとの批判を避けるため、使用を禁止しているのだ。

 BBCによって国際社会の俎上に載せられた日本の痴漢問題。青少年の健全な育成を第一に据え、議論する必要があるだろう。

※週刊ポスト2023年7月14日号

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