“CD不況”はウソ! コンビニ、SA、生協…意外な場所でヒットが続出する理由

有名店が閉店したり、生産枚数がピーク時に比べて半減するなど、CD販売は明るい話題がないようにみえる。しかし、チャートに表れないヒット作が、ユーザーにより近い売り場で生まれている。
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 8月22日、大手CDチェーンHMVジャパンの旗艦店だった渋谷店(東京都渋谷区)が閉店した。同社は7月以降、店舗整理を加速させ、9月末までに全体の約3割に当たる17店を閉店させた。ネット販売ではアマゾンジャパンや楽天市場に次いでおり、今後はこちらに軸足を置くとみられる。
 CDの生産実績が、ここ10年間で半減しているというデータもある。大手チェーンの“音楽の聖地”からの撤退は、音楽流通がCD販売から配信へとシフトする象徴的な出来事として、大きく報道された。
 しかし、隠れたヒットCDが、CDショップ以外の場所で生まれていることはあまり知られていない。これらの大半は、ヒットチャートには反映されないが、数十万枚規模で売り上げている作品もあるのだ。
音楽ソフト生産規模は32年前の水準に
チャートに載らないヒット作
 08年にデビューした男性2組インストゥルメンタルユニットの「→Pia-no-jaC←(ピアノジャック)」は、演奏にピアノとカホンという打楽器のみを用い、オリジナル曲のほかクラシックの名曲をカバーした作品なども発表している異色アーティストだ。オリコンの週間チャートでの最高位は60位だが、これまでのアルバム4枚の合計は35万枚を超える。そのほとんどは、個性的な品ぞろえで定評のある雑貨・書籍チェーンのヴィレッジヴァンガードで売り上げた。
 彼らが所属するピースプロダクションの加藤圭一社長は、「ヴィレッジヴァンガードは宝探しに行くところ。人に教えたくなるような彼らの音楽は、来店客との相性が良いと考えた」と話す。
 ヒットの原動力となったのは、店頭で目を引く映像や販促ツールの作製と、インストアイベントでの直接販売だ。
 特に後者は、「呼ばれたら必ず行く」という姿勢を徹底。同チェーンが出店している郊外のショッピングモールなどでの無料ミニライブは、年間200回を超える。あえてメディアや一般CD店には売り込まず、同チェーンでの販売をメインに据え、アルバムを発売するごとに各地を回る。併せて、店頭では旧作品を含んだ長期的なプロモーションを実施し、ロングヒットにつなげた。
 CDアルバムには7曲程度を収録し、1枚2000円という価格設定にもこだわりがある。「ターゲットは音楽マニアではない人。店舗や無料ライブで耳にして気軽に買える金額を重視した」(加藤氏)。
雑貨店
新しもの好きの客が飛び付く
 全国約300店のヴィレッジヴァンガードでは、実際に曲やプロモーションビデオを流し、CDの脇に店員の推薦文が添えられる。インストアライブも積極的に開催し、売り場とライブの両面からCD購入を促す。
撮影協力/ヴィレッジヴァンガード下北沢店(東京都世田谷区)
 
ファッションブランドとコラボした“雑誌サイズCD”がヒット
 音楽業界の価格設定の慣習にとらわれず、雑誌サイズのCDという形で参入したのが宝島社。4月15日発売の「MY LITTLE LOVER×kitson ハーモニー」は、新曲を収録したCDにブックレット、ブランドのストラップまでが付いて1200円。書店やコンビニで初版20万部を発売し、好調のため 10万部を重版した。「想定されるユーザーの値ごろ感から価格を決めた」(宝島社編集3局の河上 晋氏)。
 雑誌の付録で実績のあるファッションブランドとのコラボレーションなど、音楽業界にはない発想で、パッケージ化を進めている。
書店
雑誌付録の実績をCD販売に
 宝島社が書店でのCD販売に参入。全国5万8000店の出版流通を使ったオリジナルCDの発表は業界で初めて。付録同梱雑誌のノウハウを生かし、A4サイズで製作。雑誌に近いイメージで表紙を作製している。
撮影協力/天牛堺書店光明池店(大阪府堺市)
 
コンビニ、サービスエリアも販路に
 一方、大手レコード会社も、CD店以外での販路を模索する。ユニバーサル ミュージックは6月、マイケル・ジャクソンなど海外有名アーティストの代表曲4曲を収録した「コンパクト・ベスト」シリーズを、1枚500円で発売。CD ショップのほか、全国のローソン500店舗でも販売した。
 また、ソニー・アソシエイテッドは、J-POPの代表曲をリミックスしたCDの販促時、実際のDJが、東名高速の海老名サービスエリアで“実演販売”する施策を行った。ドライブに最適とアピールしたのが功を奏し、シリーズ4作の累計は25万枚を超える。
コンビニ
500円で“ついで買い”を誘う
 ユニバーサルが6月、4曲入り500円の洋楽CDを全国500店舗のコンビニで販売。1万枚を超えるヒットとなった。ワンコインの手軽さを強調してライト層を狙う。
 
サービスエリア
ドライブ向けが局地的に売れる
 特販ルートと呼ばれる高速道路のサービスエリアでは、中高年男性層には懐メロの歌謡曲やフォーク系のオムニバス、若年層にはノンストップCDが売れ筋。
 
生協
割安価格で女性客が支持
 定価より5~10%安く、食品と一緒に注文できる手軽さで、主婦層に人気。クラシックやオムニバスがよく売れる。右奥写真は、パルシステム生活協同組合連合会のカタログ。
 
市場縮小のなか、店舗数伸ばすタワーレコード
 ユーザーにより近いチャネルでCDを売る動きは拡大傾向にある。ただ、そうしたルートで売れる作品は、ライトユーザーが購買層のメインになるため、すでに実績があるアーティストか、ヒット曲のオムニバス作品が多い。言い換えれば、新人アーティストを一から育てるには向いていない。
 音楽業界の活性化のためには、音楽の楽しさを伝え、アーティストのファンを増やす必要がある。その役割を担うのはやはりCD店だ。市場が縮小するなか、大手のタワーレコードは店舗数を増やすなど注目を集めている。
市場縮小下で拡大を続けるタワーレコード
大手らしからぬ手作り感
 タワーレコードの大きな特徴は、店員による売り場を埋め尽くすほどの自作のリコメンド文やオブジェだ。大手CDチェーンでは、本部が販促ツールを一括で作り、各店に配布する例が多い。しかしタワーレコードのポップには、レコード会社から配布される宣伝資料の複写ではなく、自分の耳で作品を聴いたうえでのお薦め情報がぎっしりと書き込まれている。
 「来店客にとって自分の意思とは関係なく、初めて聴くサウンドや新しい情報と出合えるのが、リアルショップの楽しいところ。その内容を信頼いただいているのでは」(タワーレコード)。
 レコード会社と協力して1枚500円の限定CDを販売するなど、新人アーティストの発掘にも力を入れる。「1枚から10枚に伸ばすほうが販売効率は良いが、最初の1枚を売ることにこそスタッフのモチベーションがある」(タワーレコード)。発見のある店舗づくりがタワーレコードの好調の秘密だ。
CD専門店は…
売り場づくりの工夫で本領発揮
店員独自の提案で、店舗ごとの独自陳列
 全国に83店舗を展開するタワーレコードは、他店に比べると旧譜の品ぞろえが圧倒的に豊富。各店独自の売り場づくりが店舗全体を活気づけている。コーナーごとに店員独自の視点で書かれたリコメンド文やオブジェのような販促ツールを置き、アーティストへの愛情があふれている。近年は、CD売上枚数の 47%を占める洋楽だけではなくアニメ、韓国ポップス、落語などにも力を入れている。
 
音楽需要は衰えず、“ライト層”の開拓に期待
 09年の音楽ソフト生産額は、ピンクレディーが大ヒットし、YMOがデビューした78年の水準。その規模でも当時の音楽市場は十分活気にあふれていた。 CDの登場で音楽を手軽に買えるようになり、“CDバブル”が生まれたが、現在はそれが崩壊しただけともいえる。街を歩く携帯音楽プレーヤーのユーザーの多さを見ても、音楽に対する需要は依然として多いはずだ。
 音楽流通が配信中心となる流れは止められないだろう。ただ、CD店以外の販売ルートには、配信と同様に、ライト層を開拓する役割が期待できる。音楽市場の拡大のためには、コアユーザーを満足させ、持続的な音楽ファンを育てなければならない。それには、アーティストや音楽自体の魅力が直接伝わるCD店の活用が不可欠だ。
(文/つのはず 誠・写真/加藤 康)

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