FBIに超能力捜査官なんていない! 「ズバリ的中」のカラクリと「超能力」がテレビから消えた理由

超能力捜査官」って、本当にFBIにいるの? そういえば、昔ほど「超能力特集!」みたいなテレビ番組を見なくなったよね? 超常現象取材歴30年の専門家に、「超能力」の裏話を聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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「超能力捜査官」なんてもんはない

超能力から、ネッシー、ツチノコ、死後の世界、生まれ変わり、水素水、ホメオパシーまで。超常現象かいわいのテーマを30年間取材し続けている、専門家です。超常現象に興味津々な若者たちを前に、語ってもらいます。

若者)テレビ番組で「超能力捜査官が迷宮入りの事件を解決!」みたいなものがよくありましたけど、あれって、本当のところはどうなんでしょう?

皆神さん)ありましたねえ。「FBI超能力捜査官」とうたってましたよね。まず第1に、アメリカのFBIには「超能力捜査官」なんてもんはないんです。

若者)いきなり全否定ですね(笑)

皆神さん)「超能力捜査官」として番組に出ていた人たちも、アメリカ国内では自らを「FBIに委託された捜査官だ」とは名乗ってないはずですよ。アメリカ国内で、ありもしない公務員の肩書を勝手に名乗るのは、やはりまずいでしょ。「FBI超能力捜査官」というのは、日本のテレビ局がもっともらしく作った肩書です。

透視、実は「全部外れ」

若者)じゃあなんで、そんなテレビ番組ができたんでしょう。

皆神さん)私が最初にみて驚いたのは、2002年3月2日に日本テレビ系列で流された「緊急来日!? FBI超能力捜査官 未解決事件に今夜迫る」という番組でした。この番組には、超能力で犯人の顔を見抜いて、その似顔絵を描くという「マダム・モンタージュ」こと、ナンシー・マイヤーという女性が出ていました。

若者)マダム・モンタージュ……

皆神さん)彼女は、番組内で2001年5月に青森県弘前市で起きた武富士弘前支店放火殺人事件の犯人を透視したんです。そうしたら急転直下、番組放映の2日後に犯人が逮捕されるという劇的なことが起きました。

若者)えっ!? ナンシーさんの透視のおかげだったんですか?

皆神さん)いえ、違います。彼女の透視と犯人逮捕の時期が非常に近かったので、透視内容と犯人の犯行時の実際の行動などがとても比べやすかったです。録画していた番組内でのナンシーの発言と逮捕後の新聞記事などをよ~く比べてみたら、ナンシーの透視は全部間違っていたことが分かりました。

若者)間違いって!

皆神さん)例えば彼女は、放火に使ったガソリンはプラスチックタンクに入れていたと言っていたのに、実際は金属缶だったり、動機は親の借金だと言っていたのに、実際は自分が競輪ですってしまっただけだったし、犯人は農園を経営しているはずだったのに、実際はタクシー運転手でした。

若者)全然ダメじゃん(笑)

逮捕にはなんの役にも立ちませんでした

皆神さん)でも、その半年後に放送された「FBI超能力捜査官」の続編ではナンシーは、武富士放火事件の犯人を「ずばり透視してみせた凄腕の超能力者」として紹介されていたんです。

若者)ええ! だって外れていたんじゃなかったんですか?

皆神さん)彼女は「マダム・モンタージュ」と呼ばれているといったでしょ。彼女が番組内で描いてみせた犯人の似顔絵が、実際の犯人の顔と割と似ていたんですよ。続編の番組ではそのことだけを取り上げ、彼女がいろいろ他に語っていた間違った透視内容のほうは、なかったことにされちゃいました。

若者)でも、似顔絵がそっくりだったら、それだけでもすごくないですか?

皆神さん)ただねぇ、日本の警察は事件直後に犯人の似顔絵を公開しているんです。ナンシーが犯人の似顔絵を描くよりずっと前。その警察の似顔絵と、ナンシーが後から描いた絵がよく似ているんですよ。警察の似顔絵は、3億枚以上配られていました。

若者)3億枚……

皆神さん)ですので、ナンシーが警察による似顔絵をどこかで見ていて、それに似せて自分のモンタージュを描いた、という可能性が否定できないんです。どっちにしても彼女の透視は、犯人逮捕にはなんの役にも立ちませんでした。

アメリカ陸軍の超能力戦士

若者)「FBI超能力捜査官」って、ひとりじゃなくて、何人かいましたよね?

皆神さん)一番有名な「FBI超能力捜査官」はマクモニーグルですね。

若者)ああ、それです! あの人はなんだったんですか?

皆神さん)実は、アメリカ陸軍は昔、超能力戦士をつくろうとしていたことがあるんですよ。

若者)ええええ!? 本気ですか!?

「透視が的中」のカラクリ

皆神さん)でも、ご想像通り、結局はうまくいかなくて解散したんですけど。その時に見いだされたのが、マクモニーグルでした。でもね、彼が出ていた「超能力捜査」のテレビ番組は、透視がいかにも当たったかのように、都合良く話をねじ曲げて作られていたフシがあるんです。

若者)ねじ曲げる?

皆神さん)たとえば、「超能力捜査官」がアメリカから日本を透視して、「ここに川があって、線路があって、三角の屋根があって」とかいいながら行方不明者が隠れているはずの家までの道順の絵を描くとしますよね。テレビ局スタッフは、その絵に似ている場所を、日本国内で必死になって探すわけです。

若者)探します。はい。

皆神さん)ですが番組内では、彼が描いた道順では行き着けないはずの、全く違うところにある行方不明者の自宅に、番組スタッフがなぜかちゃんと行き着いてしまって「見事に透視は当たった」などとオンエアされたりしていたんです。

若者)それって、事件のご遺族とか、関係者がかわいそうです。

皆神さん)超能力によって本当に事件を解決したと公式に認められている事件は、自分の知る限り1件もありません。「超能力捜査」を調べている学者が米国にもいるんですが、米国の警察署にアンケートを採ったところ、「超能力によって事件が解決された」と公に認めている例はなかったそうです。

テレビから「超能力」が消えたのはオウムのせい?

若者)そういえば最近、あまり自称「超能力者」を聞かない気がします。減ったんでしょうか?

皆神さん)いまも、自称超能力者の方々がいなくなったわけじゃないですよ。ただ、あまり話題にはならないですね。

若者)話題にならなくなったのって、オウム真理教の事件と関係ありますか?オウムって「空中浮揚」とか超能力がある的なことを言ってましたよね。高学歴のエリートがたくさん信じて入団して、あんな事件を起こしてしまって。

皆神さん)そうですね。オウム事件の当時は、超常現象関連番組が一斉に消えましたよね。事件前には、たとえば「矢追純一UFOスペシャル」みたいなTV番組は、そのメチャクチャぶりが大変に面白かったんですが、オウム事件の後は、視聴者から批判がくることを考えて、テレビ局側が自己規制するようになりました。いま、日本のテレビ局で超常現象専門番組を、定期的にシリーズで流しているのは、唯一NHKだけじゃないかと思います。

若者)えー!? 意外! 一番やらないと思ってました。

皆神さん)2013年からBSでやってる「幻解!超常ファイル」という番組です。懐疑的な視点で超常現象を検証していて大変に面白いですよ。ちなみに私も時々出させていただいております。

若者)宣伝だった(笑)

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