消費の反動減は「前回ほどでない」は大ウソ!
「(増税に伴う消費の)駆け込み需要と反動減は前回ほどではなかったと見ているが、消費税率引き上げや新型コロナウイルス感染症が経済に与える影響を見極めていく」
2月17日、衆院予算委員会でこう述べたのは安倍晋三首相。前日に発表された’19年10~12月期GDP速報値を受けての答弁だ。
その発表内容は散々なものだった。物価変動の影響を除いた実質GDPは前期比1.6%減。年率換算では6.3%減となり、5四半期ぶりに大幅なマイナス成長を記録したのだ。振り返れば、’14年4月の消費増税後に発表された4~6月期GDPは1.9%減(年率換算7.4%減)だった。当時と比べれば、確かに今回の影響は小さい。だが、外面を比較したところで、事態の深刻さは見えてこないという。第一生命経済研究所の首席エコノミストである永濱利廣氏が解説する。
「GDP成長率は直前の四半期との比較ではじき出されます。消費税を3%引き上げた後の’14年4~6月期が年率換算で7.4%もの大幅減となったのは、直前に駆け込み需要が発生して1~3月期に4.1%のプラス成長を記録したから。しかし、’19年10月は2%の増税で、キャッシュレス決済のポイント還元サービスや軽減税率も導入されました。その影響で、駆け込み需要がほとんど発生しなかったため、直前の7~9月期実質GDPは0.5%増にとどまったのです。10~12月期の6.3%減という数字は、’14年の増税時と比べれば小さく見えますが、駆け込み需要という“貯金”をつくらずに、大きなマイナスを記録したという点で、より深刻です」
さらに、細かい数字を掘り下げると、粉飾疑惑まで垣間見えるという。経済ウオッチャーとして知られる闇株新聞氏が話す。
「内閣府は10~12月期の速報値の発表と一緒に、さりげなく7~9月期のGDP成長率を大幅に修正しています。昨年12月に発表された2次速報値では年率換算で1.8%増だったのに、0.5%増へと1.3ポイントも下方修正されているのです。当然のように、その理由は発表資料のなかで解説されていません。日本経済が成長し続けていることを前提に消費税を引き上げておきながら、このように成長率を修正するのは詐欺まがいと言っていいでしょう。さらに、GDPの算出方法にも不可解な点があります。実質GDPは、名目値にGDPデフレーターという物価動向の指標を掛け合わせてはじき出されるのですが、これが’19年7~9月期、10~12月期ともに0.4%とされているのです。その算定根拠は明らかにされていませんが、増税や円安に伴う物価上昇を考えると、10~12月期のGDPデフレーターはその2倍近くあってもおかしくない。そこから実質GDPを計算すると、’14年を上回る大幅なマイナス成長だった可能性が高い」
追い打ちとなった「新型コロナ」騒動
こうした状況に新型肺炎騒動が追い打ちをかけてきたのだから、お先真っ暗だ。東京商工リサーチの友田信男情報本部長は次のように話す。
「肺炎騒動が起きてから1か月以上たちますが、いまだに企業はその影響を測りかねています。東日本大震災のときは’11年3月末までに1324社もの上場企業が業績予想の下方修正などを発表しましたが、今回は300社しかリリースを出していません。いつ肺炎騒動が終息するかわからず、先行き見通しがたたないのです。足元ではインバウンド系の観光.宿泊関連サービスや小売業が大打撃を被り、2月25日には愛知県の旅館で初の”新型肺炎倒産”が発生しましたが、今後はさらに他業種に広まっていくことでしょう。中国国内の工場や事業所の一時閉鎖で製造業のサプライチェーンも乱れていることを考えると、どのような業種・業態にまで影響が及ぶのか想像もつきません」
新型コロナは経済成長率を0.6%下げる?
唯一はっきりしているのは、増税と肺炎騒動の合わせ技で日本がマイナス成長を続けることか。
「’03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動のときは、日本の経済成長率が0.2%以上押し下げられましたが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大はSARSを上回る規模。特に、防疫対策の遅れもあって日本の影響は深刻です。昨年のインバウンド消費は5兆円に迫る勢いでしたが、夏場まで肺炎騒動が終息しないようであれば、今年は1兆円以上減少するでしょう。日本の輸入品の4分の1近くを占める中国の生産停止で輸入物価(エネルギーを除く)が高騰し始めているうえに、国内で自粛ムードが広がっているため、個人消費は2兆円以上のマイナスになると試算しています。これを合わせるだけで、経済成長率は0.6%も押し下げられる。SARSのときと比較して3倍のインパクトです。ただし、当時と今とでは状況がまったく異なる。’03年度の中国GDPの世界シェアは4%でしたが、’19年度は18%まで拡大しています。中国の景気動向は、世界経済をも大きく左右する。2月に入ってから中国人民銀行は計1.6兆元(約25兆円)もの資金を金融市場に供給していますが、経済を立て直すためにさらなる財政出動に舵を切るようならば危険です。リーマンショック後の4兆元の景気対策が地方政府や国有企業の債務を急増させてチャイナショックを引き起こしたように、新たな信用不安を招きかねない」(永濱氏)
闇株新聞氏も「新型肺炎の影響で企業の業績下方修正が相次ぎ、設備投資が減少すれば、’20年1~3月期GDPは過去最悪の2桁のマイナス成長となる」と予想する。中国の生産ライン再開が遅れるようならば、
「中小の製造業が操業停止に追い込まれて、“万単位”の大量倒産が起きる」(友田氏)という声もあがる。
日本は増税と新型肺炎のWショックを克服することはできるのか? 最悪の事態に備えておくのが賢明かもしれない。
一日当たりの中国の感染者数が1000人割れに
2月19日、中国の保健当局は新たに感染した人の数が、前日から1300人も減少して394人にとどまったと発表。一日当たりの感染者数が1000人を下回ったのは1月26日以来。前日の1693人増からの大幅減で終息の兆しが見えてきたように思えるが、2月半ばには集計方法の変更で一日に1万5000人も増えただけに、情報の透明性には疑問符がつく。
<取材・文/週刊SPA!編集部>
※週刊SPA!2月25日発売号より