GoTo恩恵、宿泊施設間に格差 お得感強い高級宿に人気集中、ビジネスホテルは閑古鳥

政府の観光支援事業「Go To トラベル」を巡って、宿泊施設の間に「格差」が生まれている。新型コロナウイルスで打撃を受けた観光業の支援策で7月22日に開始。旅行代金が35%割り引かれるとあって、お得感が強い高級宿への予約が集中する。一方、ビジネスホテルなど手頃な値段の宿は閑古鳥が鳴き、不満の声が上がる。 【グラフで見る】新型コロナウイルスの感染状況  山口県屈指の温泉街、湯田温泉の中心部にある維新志士ゆかりの老舗旅館「松田屋ホテル」は9月中はほぼ満室。杉山泰之支配人は「6月は静かだったけど、GoToが始まって遠方からのお客さんが増えた。料金が高い部屋に泊まられる人が多い」と話す。県が発行した額面5千円の宿泊券を半額の2500円で買える県内宿泊施設のプレミアム宿泊券も集客を後押ししている。  広島県廿日市市の宮島から近い温泉街・宮浜温泉の老舗旅館「石亭」の上野純一社長は「需要の方がずっと高い状態が続いている」と話す。年内の予約はほぼ埋まっているという。星野リゾート(長野県軽井沢町)が手掛ける高級旅館で山口県長門市の湯本温泉にある「界 長門」と島根県松江市の玉造温泉の「界 出雲」は年内の稼働率はほぼ100%。GoTo開始前から予約は埋まり始め、同社の界ブランドの金子恵子広報担当は「中にはキャンペーンを見越して予約した人もいるのでは」と推察する。  日本旅行業協会は大手旅行サイトを使った8月の行き先別予約人数を集計。32道府県で前年同月を上回った。中国地方では広島県が91・6%で前年割れだったが、他の4県は山口県の121・4%など前年を上回った。GoToの割引を受けるため、利用が増えたとみられる。さらに値引き額が大きくなる高級宿に人気が集中しているという。  一方、低価格帯の中小宿泊施設。特に出張が減ったビジネスホテルは閑古鳥が鳴いたままだ。湯田温泉のあるビジネスホテルの支配人は「ふたを開けてみれば1泊が3万、5万円台の宿は盛況だが、うちはまったくで泣きそうな状態だ。もっと行き渡る支援を」と嘆く。現在も宿泊客は1日5人程度にとどまり、これまでGoToの利用は3、4件のみ。ほかのホテルも同様の窮状を訴えた。  危機感は恩恵を受ける宿も持っている。政府は来年1月末まで事業を継続する方針だが、湯田温泉から少し離れた隠れ家的な温泉宿「山水園」の中野愛子代表は「8月は目に見えてお客さんが増えたが、当座しのぎの政策」と話す。「来年2月以降はどうなるか。いつまでも国が巨額のお金を投じることはできないでしょう」と懸念する。石亭の上野社長も「今は利用を控えている常連客が来年の2、3月に戻ってくるか不安はある」と明かす。  国は中小宿泊施設の利用が少ないまま予算を使い切ってしまう可能性があるため、既存の予算枠の中で中小向けの予算を確保する方針。ただ、旅行者側にどう中小の利用を促すかなど課題は絶えない。  <Go To トラベル> 新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光業界への国の振興策。関連予算は約1兆3500億円。国内宿泊、日帰りツアー代金の50%を支援する。35%分の代金割引から始まり、10月1日以降は残る15%分を地域共通クーポンとして受け取り、旅先や隣接都道府県にある飲食店、土産物店、観光施設などで使えるようになる。10月1日から対象に都民の旅行と都内への旅行が加わる。

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