ゴールデンウィークが終わった。次の祝日は7月の海の日だ。それまでどうやって仕事のモチベーションを保てばいいのか。産業医の武神健之さんは「今のうちに『6月の有給取得日』を決めておくといい。「疲れる前」に休むことが大切だ。メリハリを付けて働くことで自律神経もととのえられる」という――。
■1年の中で一番長い「祝日がない期間」
今年のゴールデンウィーク(GW)が終わりました。次の祝日は7月の海の日(7月15日)で、実はこの間約2カ月間は1年の中で一番長い「祝日がない期間」となります。
今回は、GW明けでやる気が出ない人や五月病が心配な人たちのために、これからの2カ月間の長丁場を、モチベーションを高く保って働き続けるために効果的な“休暇”の取り方についてお話ししたいと思います。
私たちの多くは実感として、休暇は楽しく気分転換になることや休暇で心身がリフレッシュされることを知っています。また、休暇を計画している時間も楽しく、休暇が近くなると、ささいなことは気にならなくなる、つまり幸福度が上がることも経験済みでしょう。
オランダの研究者J. Nawijnらが休暇が幸福感に与える影響を調べた論文では、このように書かれています。
・休暇を計画している人々は1カ月以上も前から、非休暇者に比べて幸福感が高いことが分かりました。
・しかし、休暇後の幸福感は、休暇者と非休暇者の間で大きな違いはありませんでした。
・ただし、「とてもリラックスした」休暇を取った人々は、休暇後にも幸福感が2週間ほど高いことが示されました。
(Jeroen Nawijn, Miquelle A. Marchand, et al. Vacationers Happier, but Most not Happier After a Holiday, Appl Res Qual Life. 2010 Mar ;5(1): 35-47.)
■休暇日数と幸福度に相関はない
他にも休暇と幸福感の関係を調べた論文はいくつかあり、だいたい以下のようなことが言われています。
・休暇日数と幸福度に相関性はない(休暇が長くないと幸福度が高まらないというエビデンスは見当たりません)。
・休暇による幸福度や睡眠の質の改善は旅行後3~5週間で通常に戻る。
・1年に1回長い休暇を取るだけよりも、数回に分けて取ったほうが、年間の幸福度は上がる可能性がある。
これらのことから私がヒトの休暇と幸福度について推測するには、ヒトの幸福度は休暇そのものからも得られますが、休暇への期待が高まる休暇前からも高まっていると断言できるでしょう。
何をもって「とてもリラックスした」休暇とするかは人により違うでしょう。個人的には、「蓄積した疲労を癒やす=元気を取り戻す休暇」ではなく、「積極的な気分転換=喜びや楽しみや安らぎを味わう休暇」を指すのだと思います。そのために休暇中に何をやればいいのかという具体的な決まりはありません。自分の好きな過ごし方でいいのだと思います。大切なのは、疲労からの回復だけではなく、さまざまなポジティブ感情(うれしさ、楽しさ、気持ちよさ、誇らしさ、すがすがしさ)を味わえるかという点です。
そして、幸福度が必ずしも休暇の長さには関係ないのであれば、1~2カ月に1回は有給休暇を取得して、ちょっとした休暇を楽しむことは、多くの働く人のメンタルヘルスにポジティブな影響があると思われます。
■6月の有給取得日を決めて、労働時間を短く刻む
GWが終わり、夏休みまでの祝日のない2カ月間を元気に駆け抜けるため、私はこの時期、産業医として積極的な有給休暇の活用をクライエント社員たちに説いています。とくに休職を経て、4月に職場復帰した人たちには、あらかじめ6月に有給休暇の取得日を決めておくことで、2カ月間の労働期間を小さく刻み、心身の体調をととのえることをお願いしています。
昼間、働いているとき、私たちの身体は緊張状態にあります。自律神経で言えば、交感神経が優位な状態です。多くは仕事が終わると、この緊張が和らぎリラックスモードになります。これをオフタイムといい、自律神経的には副交感神経が優位になっている状態です。
自律神経は私たちの意志でコントロールできるものではありません。一般的には、睡眠中は副交感神経が最も優位で、心身が最もリラックスしています。そして、朝起きて出社すると次第に交感神経が優位になってくるという、無意識のサイクルでわれわれは日常を過ごしています。
写真=iStock.com/xavierarnau
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/xavierarnau
■「メリハリ」が自律神経をととのえるには重要
健康な時は、この交感神経と副交感神経のバランスが上手に取られています。しかし、この交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、自律神経がうまく機能しなくなってしまうのが、俗にいう自律神経失調症です。原因はさまざまですが、必ずしもストレスが原因とは限りません。明らかなストレス原因がなくても、交感神経の優位な状態が長く続きすぎる、つまり、長期間緊張しすぎる状態が続くと、次第に自律神経が疲弊してしまい、機能不調(不全)に陥ってしまうと考えられています。
そうならないためには、日常生活の中で、適度に緊張を緩めること、つまり、緊張状態とリラックス(弛緩(しかん))状態を適度に経験することが大切です。よくいう「メリハリ」ですね。緊張を積極的に緩めることで、私たちの体は再び緊張状態(仕事)に戻ることができるようになっているのです。毎日の仕事後のリラックスタイム、週末のリラックスタイムなどの時間は自律神経をととのえるためにも、とても大切なのです。
このメリハリの重要性はわかっていても、なかなか忙しい日常生活の中では、オンとオフの境目がわからない生活を送ってしまう人もいます。性格的に真面目すぎる人や責任感が強すぎる人などは、特にオフタイムにも仕事を引きずり、上手に緊張を和らげることができないでいます。
■「疲れる前」に休みを入れることで元気に働ける
そのような人たちも含めて、緊張を和らげるために簡単にできることがあります。それは、日常生活から空間的かつ時間的距離をとり、非日常的な空間に身をおくことです。休暇はこれに最適です。長い休暇を取れるのに越したことはありませんが、さまざまな論文によれば、短くても幸福度は上がるとのこと。だとすれば、頻度高く休暇を取るのがいいのかもしれませんね。
大切なのは、疲労がたまってからや自律神経のバランスが崩れてから休暇を取るのではなく、その前に休みを取り入れることです。定期的な休みで、緊張感を区切りましょう。マラソン選手は42キロを最速で走るために、喉が渇いてから水を飲むのではなく、あらかじめ給水場所やタイミングを決めています。仕事は短距離走ではなく、長距離走です。自分で給水場所、すなわち休暇を決めておくことで、自分に合ったペース配分で1年を通して走り続けることができるでしょう。適度な自己管理をしてこそ、長く元気に働き続け結果を出せるのだと思います。
写真=iStock.com/Pavel1964
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Pavel1964
どのようなペース配分がいいかわからない? それは、疲れる前に休むことです。休暇をとり蓄積した疲労を解消できれば、元気にはなれます。しかし、疲労が蓄積していない状態で休暇を取れれば、より積極的に楽しみや気分転換ができる休暇となるでしょう。きっと「とてもリラックス」でき、幸福度が上がるでしょう。
■金曜日や月曜日に休みを取るのもおすすめ
ですから、ぜひ今のうちに、6月の有給休暇を決めてしまいましょう。海の日、そして夏休みよりも前に、休暇取得をしましょう。長く続くように見えるGW明けの日々を少しでも前向きに過ごせるはずです。
私自身は、5月末関西への出張ついでに滋賀県と福井県で登山計画、そして、6月末には長野県へサウナ旅を計画しています。2つの休暇が終わる頃にはもう夏休みがすぐそこにありますから、きっと秋まで幸福度高く過ごせそうです。もちろん、秋も祝日を上手に使います。実は私は年末の休暇まで、すでに計画済み(予約済み)です。
ぜひ皆様も、海の日まで思いっきり働くためにこそ、間に適時、休暇を入れてみてください。金曜日や月曜日に取って、2泊3日等の長めの週末を過ごしてみてはいかがでしょうか。それ以上休めるのであれば、ぜひそれ以上もお休みください。
新型コロナ感染症が第5類に移行したのが昨年の5月8日でしたから、ようやく、アフターコロナも1年たったことになります。アフターコロナ2年目もいいスタートダッシュが切れるよう、今日の記事が少しでもお役に立てば光栄です。
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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)