IPEF発足宣言 TPP、RCEPと何が違う? バイデン氏の狙い

訪日中のバイデン米大統領は23日、米国が主導する新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言した。IPEFは、アジア太平洋地域の既存の自由貿易協定である環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)と何が異なり、どのような影響を与えるのだろうか。 【写真】共同記者会見後、笑顔を見せるバイデン氏と岸田首相  ◇高水準のTPP、世界最大規模のRCEP  「TPPとは別だが、TPPが目指したものを包含する」。バイデン米大統領は21日、訪問先の韓国での記者会見で、IPEFの意義をこう強調した。  TPPは「21世紀型の高水準な貿易・投資ルール」をうたい、参加国が相互に関税を撤廃して貿易を活発にする「自由貿易協定」だ。日本、カナダ、豪州など太平洋周辺の11カ国が参加し、域内の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の約13%を占める。関税撤廃率は95%と高く、関税以外にも▽国境を越えたオンライン取引など電子商取引▽貿易を巡る労働・環境問題の対応▽国営企業の優遇措置の規制――など21分野で高水準のルールがあるのが特徴だ。  もともとTPPは米国がアジア太平洋地域で経済的影響力を強める中国をけん制する狙いがあり、米国主導で2010年から交渉を開始し、16年に12カ国が協定に署名した。ところが、「米国第一主義」を掲げるトランプ前政権が17年に離脱。米国を除く11カ国で18年12月に発効した経緯がある。  TPPは新規加入の仕組みを備えているのも特徴だ。21年2月に英国が加入申請したのに続き、9月には中国と台湾、12月には南米エクアドルが加入申請し、「拡大する自由貿易協定」として存在感を高めてきた。  もう一つの経済連携枠組みは、日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)、豪州など計15カ国が参加するRCEPだ。中国が交渉を主導し、22年1月に発効した。域内GDPは世界の約30%とTPPを上回る、世界最大規模の経済連携協定だ。  RCEPはできるだけ多くの国が参加することを優先したため、自由化の水準は低い。関税撤廃率は91%にとどまるほか、TPPにある「国有企業の優遇規制」「環境」「労働」に関する規定は、国有企業がインフラなど重要事業を担う中国や新興国には経済政策の足かせとなるため盛り込まれていない。  ◇対米関係優先ならTPPよりIPEFか  中国は米国のTPP離脱後、RCEP発効を主導し、TPPへの加入を申請するなどインド太平洋経済圏に着々と足場を広げている。一方、米国では中西部のさびついた工業地帯(ラストベルト)には自由貿易への抵抗感が根強く、バイデン政権は輸入関税を引き下げるTPP復帰など自由貿易協定には手を付けられない。  通商交渉で身動きが取れず、アジア太平洋地域で中国の後手に回ってきたバイデン政権がひねり出した代替策がIPEFだ。  IPEFは①公平で強靱(きょうじん)性のある貿易②供給網(サプライチェーン)の強化③インフラ、脱炭素④税、反汚職――の4本柱で構成される。貿易を巡る労働・環境問題への対応やデジタル貿易などTPPに盛り込まれたルールを取り込みつつ、半導体など重要物資や先端技術の供給網を強化することで「脱中国依存」を目指す枠組みだ。  IPEFには当初13カ国が参加する。RCEP交渉から離脱したインドや、TPPに加入していないASEANの盟主インドネシアが含まれており、参加国の顔ぶれはTPPやRCEPをしのぐ広がりを持つ。  そのIPEFがTPPやRCEPとは決定的に異なるのは、関税を相互に撤廃する「自由貿易協定」ではないこと。そして、参加国は一部の分野だけ加わることも可能ということだ。一部の分野だけ参加する国が多ければ、経済連携枠組みとしての効果はTPPやRCEPに及ばない可能性がある。  IPEFの登場は、TPP拡大に水を差す懸念もある。韓国は文在寅(ムンジェイン)前政権がTPP加入申請の準備を進めていたが、5月に発足した尹錫悦(ユンソンニョル)政権はIPEF参加を優先し、TPP加入申請は仕切り直しとなった。TPPに興味を示すタイやフィリピンもIPEFに参加しており、米国との関係強化を図るためにTPPよりIPEFを優先するという構図が生まれつつある。  米国のTPP復帰を求めている日本は、IPEFをどう評価しているのか。ある通商幹部は「関税引き下げを扱わず、米国市場への参入機会が得られないIPEFに東南アジアの新興国が加入するメリットが見えない」と効果を疑問視する。一方で「TPPやRCEPとは方法が異なるが、IPEFは米国が関与する形でアジア太平洋地域の経済秩序がどうあるべきかを示す意味がある。TPPとIPEFのどちらが優先という問題ではない」と、

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