ソフトバンク孫正義社長が店頭セレモニーに参加する姿は、iPhone発売の恒例行事と言っても良いだろう。その孫社長が、重要な会議のためにカンザスシティに向かったということで、今年は店頭セレモニーに参加しなかった。
孫社長にとって、docomoが初参戦する今回のiPhone発売以上に重要な会議とはどんなものか。通常であれば、万難を排してセレモニーを優先するはずだ。
かつて、ビットバレーと呼ばれたネットベンチャー創世記時代。六本木のヴェルファーレで行われたイベントに、孫社長はヨーロッパから3000万円かけて飛行機をチャーターして駆けつけた。私もその場に居合わせたのだが、重要な時には必ず自分がいるべきだという孫社長の情熱や姿勢は、その後も常に変わっていないように思う。
そう考えると、今回のiPhone発売イベントの欠席は、孫社長の戦術であると考える方が自然だ。
今回のdocomo参戦により、iPhoneと言えばソフトバンクというポジションを築き上げて来た先行者利益は薄れてしまう危険性が大いにある。ここ最近、ソフトバンクが必死になってイメージと実態で改善を続けている”繋がりやすさ”というポイントも、おそらくdocomoの参戦が現実味を帯びて来たことを把握してのことだったのだろう。その優位性があっという間に覆されてしまうのだ。
実際に、今日は東京と大阪でiPhone発売の様子を実際に見た。大阪では、docomoのiPhone購入待ちが圧倒的に多く、続いてソフトバンクだった。auに関しては、在庫があるという状況をコンパニオンや店員が必死になって訴えている様子が印象的だった。エリアや店によって、状況に差異はあるだろうが、これが大方の縮図だろう。
ソフトバンクは、くしくも前日付のプレゼンテーションで、auとの繋がりやすさの違いや、料金に関するキャンペーンの発表を孫社長自ら行っている。満を持して参戦したdocomoには現状ではかなわないが、auには負けていないということをあえて強調したかったのだろう。
負け戦が濃厚な状況で、孫社長が登場しても、docomoの勝利は変わらない。変わらないどころか、孫社長が出て来て負けたということであれば、今まで頑張ってきたイメージ戦略は台無しだ。また、次の手が打ちにくくなる。それであれば、じっと待ち、機が熟したところで、一気に登場しようということなのだろう。だから、あれほど重視していたTwitterも20日程度、休んでいる。今はあえて出ないようにしているのだ。
かつてチャレンジャーだった頃ならば、当たって砕けろとばかり、docomoに立ち向かっていたのだろうが、iPhone販売においてはソフトバンクはマーケットリーダーだ。砕けるのが分かっていて当たりにいくことのメリットは少ない。
appleは販売方法も、プロモーション方法も、世界的に統一したルールを持っている。ソフトバンクであれ、docomoであれ、iPhoneの広告も販売手法も自由に出来ないのだ。
”繋がりやすさ”アピールも、docomoの参戦によって、これから厳しい戦いになる。ソフトバンクがやるべき戦略は、現ユーザーの囲い込みという方向性中心にひとまず落ち着くのではないだろうか。つまり基本料2年間タダのようなキャンペーンを4年間タダのようなド派手な期間延長を行うような方向性だ。
やるならば、ド派手にやるのが孫社長の手法だ。docomoに一矢報いるために、どんな手法をいつやるのかが楽しみだ。