フライドチキンと聞いて、おそらく真っ先に思い浮かぶであろう日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)。そんなKFCが、10月12日より、「サンド」商品の名称を「バーガー」へと変更したことが広く話題となった。しかし、長年馴染んだ名称を変えるというのはユーザーの混乱を招きかねないし、どこか耳馴染みの悪さも否めない。例えば「チキンフィレサンド」が「チキンフィレバーガー」になったことで、何が変わるというのだろうか。そんな疑問も浮かぶが、この試行の結果、10月のバーガーの販売数も実施前から大きく増えているという。なぜ名称を変えただけでここまで販売数が伸びたのか。そもそも名称を変えた理由は? KFC担当者に話を聞いた。 【写真】かわいい!カーネル・サンダースに扮した綾瀬はるか
■名称変更の背景はオンラインオーダーのデジタル化「お客様がバーガーを検索した時、KFCが表示されにくい」
多くの記事、SNSなどで話題になったKFCの「サンド」から「バーガー」への名称の変更。ユーザーからは「サンドとかバーガーとか呼称の違いを気にしたことは一度もなかったので、そういった視点もあるのだと驚いた」という驚きの声が挙がったほか、「今更変えてもあんまり変わらない気もする」「サンドが正しい名称だし、ハンバーガーではないのになぜ」「サンドのほうが耳馴染みが良い」といった否定的なコメントもあった。だが、それこそがKFCの狙いでもあったという。 「名称変更に関して、様々な声が出るであろうことは想定済みでした。ですが、そもそもKFCの『サンド』を『バーガー』と認識されていた方も混在しており、さらには『KFCにバーガーがあったということを知らなかった』という声も。ポジティブな意見、ネガティブな意見両方が多く挙がり、それによりKFCの『バーガー』を知らない方にもアプローチができたことや、話題になること自体が販売数増加にもつながっておりますので、これらを含めて、今回の反響はよい方向へと転がったと考えています」 ポジティブネガティブ合わせて、多くの人に「バーガー」への名称変更への試行が届いた。もともとKFCといえば、オリジナルチキンの印象が強く、その認知度の低さを大きく改善できたことが今回の成功につながった。さらには、今の時代ならではの“悩み”の解消にもなったという。 「例えば宅配などで、お客さまがハンバーガーを頼みたいと思った際、『ハンバーガー』『バーガー』という検索では、KFCの『サンド』が表示されにくくなっていました。これを『バーガー』と名称変更することで、KFC商品も表示されやすくなった。『バーガー』を食べたい時の選択肢としてKFCも選ばれやすい環境を作りたかった。名称変更の狙いの1つはデジタル社会、また宅配業が確立された現代への対応でもあったのです」
■クリスマスなどイベントごとの“ハレ”の食事から普段使いへ…ケンタッキーが“日常の選択肢”となるための課題
店舗でもオンラインでも人気の新商品・辛口チキンフィレバーガー(画像提供:日本ケンタッキー・フライド・チキン)
発売から40周年のタイミングであったこともKFCの背中を押した。これまでは「チキンフィレサンド(現バーガー)」「和風チキンカツサンド(現バーガー)」の2種類しかなかったのだが、一気に「ダブルチキンフィレバーガー」「チーズチキンフィレバーガー」「辛口チキンフィレバーガー」と新商品を3つ投入。…逆に、なぜこれまで2種類しかなかったのか疑問も浮かぶ。 「店頭オペレーションの問題はありました。KFCの『バーガー』は手間をかけて調理しています。チキンフィレバーガーは成型肉ではなく鶏むねの一枚肉を用い、店舗で1枚1枚粉をつけて、揚げている。チキンに関してKFCはプライドを持っていますので、『バーガー』に使用するチキンも店舗でつくっています。ゆえに闇雲に種類を増やすと、相当な手間がかかってしまう。そうした店舗オペレーション面の調整、試行錯誤を繰り返し、発売40周年の節目に新商品の販売に踏み切りました」 2016年までKFCは、ファミリー層をターゲットに、クリスマスパーティーなど、“ハレ”の場でのオリジナルチキンを中心とした購買に力を入れていた。だが単身者の増加や少子高齢化などの社会情勢の変化を受け、生まれたキーワードが「普段使いのKFC」。核家族化や個食が増えている今、“ハレ”の場だけでなく、日常にKFCを選択肢に入れてもらおうとの施策の1つが2020年から定番メニューとなった「ケンタランチ」だ。 そうなると課題となるのは価格帯だ。他社では200円ぐらいからバーガーが食べられるのに対して、KFCのバーガーは390円~の価格帯になっている。店舗で1枚1枚粉をつけて揚げている、国内産鶏へのこだわり、など、「チキンのおいしさへのこだわりと、KFCならではの“価値”」を追求しているがゆえに、少なからずそれは値段に反映される。「今後も価格と“価値”のバランスを上手く取って、普段使いの選択肢としていただきたい」と話す。 そもそも、なぜKFCはこれまで「バーガー」ではなく「サンド」だったのか。「アメリカでは、あくまでもビーフをバンズで挟んでいるものが『ハンバーガー』であり、それ以外は『サンドイッチ』と呼称されていた。そのアメリカの流れが日本にそのまま入ってきたのが始まりです」と明かしてくれた。
■「普段使い」に至るには店舗数が足りない…テイクアウトに強いKFCならではの戦略
2020年から定番メニューとなった「ケンタランチ」和風チキンカツバーガーセット(画像提供:日本ケンタッキー・フライド・チキン)
「今日のランチはファストフードにしよう」「今日はバーガーが食べたい気分」…そういった消費者が、「KFCにもバーガーがあったよね」「毎日食べに行きたいよね」「家族やパーティ限定ではなく、一人でも気軽に利用できるよね」という流れになるのがKFCの目標。そうすることによって「ファストフード業界全体を盛り上げていきたい」という野心もある。 とは言え、KFCとしては現時点でバーガーにチキン以外を扱う予定はない。ハンバーガーと言えば、ビーフのイメージだが、KFCとしてはチキン一択。産地も国内産を使用しており、言い換えれば、日本の畜産・鶏産業の発展にもつながっている。 またKFCと競合他社の違いとして、イートインよりもテイクアウトの割合が圧倒的に高いこともある。これは外食産業に大ダメージを与えたコロナ禍にあって逆に追い風となり、コロナ禍でありながら、売上は成長し続けていた。「ケンタランチ」にしても同様、テイクアウトでの利用も多い。KFCの「普段使い」の目的は着々と広がりつつある。 しかし、そうなるとまた1つ問題が生まれる。「普段使い」される為には近所にあるということが必須だが、「普段使い」に至るには店舗数がもっと必要なのではないかという課題だ。これに関しては、テイクアウト専門の店舗を出す等の取組みも始めている。イートインスペースがなく、低投資で店舗を出せ、“ついで買い”にもピッタリ。テイクアウトに強いKFCならではの戦略で課題を次々と改善を行っている。 「価格面に関しては、国内産鶏といえども、その飼料や調理工程には輸入品も使用しているなど、現状の円安等の環境を勘案すると調整が難しい面が多くある。それでもKFCとしては、一から手づくり、カーネル秘伝の11種類のスパイス&ハーブもしっかりと味わえるバーガーづくりで、それに見合うKFCならではの“価値”を提供していきたい。またオリジナルチキンの一本柱だけではなく、バーガーをヒットさせ、二本目、三本目の柱を打ち立てて行きたい。『普段使い』も含め、いろんな方々に、いろんな機会で使っていただけるブランドを目指していきたいです」 (取材・文/衣輪晋一)