LTE「つながりやすさ」は誰が決めるのか

新型 iPhone の発売以来、同じ端末を販売するという意味で横一直線に並んだ通信キャリア大手3社は、これまで以上に自社の LTE 網の訴求を推し進めている。これは各社のテレビ CM についても同様で、特に印象的なのが、俳優の堺雅人さんが出演しているソフトバンクモバイル(SBM)の CM だ。
同社が現在放送している堺さん出演 CM 3種類 は、いずれも“つながりやすさ”をストレートに表現したものとなっている。堺さんの演技は「半沢直樹」のようでもあり、見応え十分だ。しかし、それら CM の一つ「タクシー」篇における、ソフトバンク社員と思しき男性に扮した堺さんのセリフに腑に落ちない点がある。
CM 内で堺さん(の演じる役)は、“例のスマホ”おそらく iPhone が、3キャリアで三つ巴状態にあり、さらに各社でサービス内容がほぼ同じであるとし、「この状態で SBM が『スマホつながりやすさ No.1』だと伝えきれてないのが痛い」と独りごちる。そして「宣伝部は一体何をやっているんだ?」と電話を掛けようとするが、「いや、俺はまだ動く時期じゃない」と堪え、苦渋に満ちた表情のまま CM を終える。
多少邪推するような格好になるかもしれないが、これは、そもそもユーザー間で疑問視されている SBM の「つながりやすさ No.1」を既成事実化しようとしているように受け取れないだろうか。
本来、“つながりやすさ”という事実は宣伝で伝えるものではなく、ユーザーが実感として認識するものだ。しかし同 CM は、宣伝を通して無理やり“つながりやすさ”を印象付けようとしている。実際、CMを見たソフトバンクユーザーの中には内容に違和感を抱いた人も少なくはなかっただろう。
一方、同じく LTE を訴求する CM としてドコモが展開中の「Strong. 村田さんと謙さん」篇は、俳優の渡辺謙さんとプロボクシング選手の村田諒太さんの共演により、SBM とは趣向の異なる内容に仕上がっている。
ドコモのネットワーク面に関して、特にネットユーザーの間では「(ドコモの)LTE は改善の余地あり」という認識が広まっていることは事実。ドコモはこれを真摯に受け止めているのか、CM内で「つながりやすい」とは主張していない。CM 中の“Strong. すべては強いLTEのために。”というキーワードや、渡辺謙さんの指導によって村田諒太さんが成長を続けていく演出を通じて、前向きに品質向上を目指す意図が感じ取れる。
また au(KDDI)も、「au 4G LTE」を押し出した CM でネットワーク面を訴求している。こちらは、剛力彩芽さん、井川遥さん、大島美幸さん(森三中)がそれぞれ出演し、3人の私生活や“素”の部分を見ているかのような演出が施されており、SBM とドコモのような強いメッセージ性はないが、「ツナガルチカラ」というユーザー目線のテーマで“つながりやすさ”をアピールしている。
ちなみに、調査・コンサルティング会社 J.D. パワー アジア・パシフィックが10月30日に発表した「2013年日本携帯電話サービス顧客満足度調査」の結果では、通信品質・エリアを5段階で評価した項目で、ドコモが最も良い「5」、au が「3」、SBM は「2」とされている。これを踏まえても、SBM がテレビ CM で「つながりやすさ No.1」を喧伝しているのはやはり腑に落ちない。
(CM では)「つながりやすい」と確信し、宣伝によって認知を広めようとする SBM。「つながりやすさ」のさらなる向上に取り組む姿勢を訴えるドコモ。ユーザーの目線から「つながりやすさ」を訴求する au。意外とこういう部分にこそ、企業の考え方・姿勢の本質が如実に表れるのかもしれない。

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