2012年6月7日に電気通信事業者協会(TCA)と携帯電話各社が発表した、2012年5月の事業者別携帯電話・PHS 契約数によると、KDDI は8か月連続でモバイルナンバーポータビリティ(MNP)による転入超過数でトップとなった。
既に携帯電話を利用しているユーザーが通信会社を乗り換える際に利用する MNP は、各キャリアに対する満足度を測る指標として重要な意味を持つもので、弊誌でもその動向に注目してきた。KDDI は、2位のソフトバンクモバイルに大差をつける月もあり、”乗り換えるなら、KDDI へ”というユーザーの動きはますます顕著になってきている。その背景にあるものとは、何なのだろうか。
● ラインナップの充実が”乗り換え”の牽引役に
KDDI が MNP で好調となっている理由の中でも特に大きいのが、スマートフォンのラインナップが幅広いことだ。KDDIは、Xperia、GALAXY などの Android 端末、Windows Phone、そして iPhone 4S と全方位的に機種ラインナップを揃えた。この”選べるラインナップ”のおかげで、解約率も低い。これに対し、同じく iPhone 4S を発売するソフトバンクは、iPhone の契約数でこそ au に勝っているが、解約率は過去から一貫して増加しており、獲得数も多いが流出数も多いのが現状だ。
この両社の差を裏付ける一因として、KDDI とソフトバンクにとって主力機種である iPhone 4S について、実際のユーザーの声をヒアリングした調査データがある。2012年6月8日にイードが発表した「『iPhone 4S』の通信会社選択に関する満足度調査」によると、購入後のユーザー満足度は、ソフトバンクでの購入者が49%であるのに対して、 KDDI からの購入者は61%と上回っているのだ。
調査結果からわかるのが、KDDI がソフトバンクの満足度を上回った大きな要因がその通信品質であるということだ。個別の満足度を見ると、「通信エリアの広さ」では KDDI が62.0%、ソフトバンクが19.0%、「ネットの繋がりやすさ」では KDDI が55.8%、ソフトバンクが25.6%と、通信品質に関する満足度に関して、それぞれで大きな差が生まれているのだ。
ソフトバンクは「月々料金の安さ」や「端末価格」など料金面に関する満足度においては KDDI を上回っている。しかし、キャリアを選ぶ際に、3G 回線の通信品質はユーザーにとって非常に重要な問題であり、この点における両社の満足度の差が MNP 転入数の動向にも影響を与えていると言えるのではないだろうか。
● 選べる料金プランや割引プランが MNP 利用数を後押し
料金に関しては、iPhone 専用プランを展開しているソフトバンクモバイル、ユーザーの利用シーンやニーズに合わせて自由に料金プランを組み合わせることができる KDDI と各社それぞれの施策を実施している。ただ、KDDI は家庭内ブロードバンド回線(FTTH や CATV)との組み合わせで割引を受けられる「au スマートバリュー」による割引も好調で、既に加入者が100万人を突破したほか、5月31日まで実施していた25歳以下の新規契約者を対象にした割引も MNP 利用数の増加を後押ししたものと思われる。
当然ながら、毎月支払う通信料金はできるだけシンプルでわかりやすく、そして割高感を感じさせない適切な価格設定でなければ顧客満足度は得られない。その点でソフトバンクも KDDI もユーザーの高い支持を得ていると言えよう。しかし一方で、新規に iPhone を契約する場合や、MNP を利用して通信会社を乗り換える際などには、ユーザーのモチベーションを高めるインパクトのある施策が不可欠となる。この点に関しては、両社とも熾烈なキャンペーン施策を展開しており、今後もその動向が注目される。
● まもなく始まる”プラチナバンド”はソフトバンクの命運を分ける存在に
このように、MNP 利用数を伸ばし続ける KDDI に対して、ソフトバンクモバイルは7月から900MHz 帯電波(いわゆるプラチナバンド)の運用開始で”繋がりにくいソフトバンク”の汚名返上を目指す。既に iPhone 4S もプラチナバンドに対応することを発表している。
ただ、長年の設備投資と運用の最適化で高い顧客満足度を獲得してきた NTT ドコモや KDDI に対して、ソフトバンクは今後どれほどのスピードでインフラの整備を進められるかが問われることになり、既存ユーザーに対して明確な”変化”を早期に提供することが求められる。ソフトバンクにとっては、今後の契約者の動向を左右する重要な施策となると言えよう。