岩手県の盛岡市は東京から新幹線で約2時間10分。街を訪れる外国人は年間約6万人と、それほど多くない。その盛岡市がニューヨークタイムズの「2023年に行くべき52カ所」に選ばれたのは1月12日のことである。
トラベルライターが言う。
「この記事は同紙が毎年行っている名物企画で、その場所の何が面白いかを簡潔に紹介しています。これまで日本では21年に北海道、22年には京都も登場しました。今年は福岡も選ばれていますが、意外だったのは、ロンドンに次ぐ2番目に盛岡が紹介されたことでした」
同紙にはこうある。
〈盛岡の市街地は非常に歩きやすい。街には西洋と東洋の建築美が融合した大正時代の建物がいっぱいで、近代的なホテルのほかに古い旅館もいくつかあり、流れる川は曲がりくねっています。城跡が公園になっているのも魅力の一つです〉
さらにドイツ製のヴィンテージ焙煎機を使ったコーヒーを出す喫茶店、40年以上続くジャズ喫茶、古典美術の本をそろえた書店や、わんこそばも紹介。いわく、盛岡は〈a walkable gem〉なのだとか。
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「中ぐらいの都市には面白いところが結構ある」
この記事に反応したのは、むしろ日本人の側で、1月18日の読売新聞は編集手帳で〈歩いて楽しめる秘境〉と訳して紹介。当の盛岡市も大喜びだ。
「記事が出てから観光案内所には問い合わせが殺到していると聞いています。市では08年から『街並み保存活用計画』というのを実施しておりまして、古い町家に対して建て替えの際に補助を出すなど景観の保存に努めてきました。そうした取り組みが評価されたのでしょうか」(盛岡市観光課)
そこで、記事を書いたクレイグ・モド氏に聞いてみた。モド氏は日本に20年以上住んでいる米国人作家・写真家だ。
「私は以前から日本各地を自分の足で訪ね歩いてきました。最近は大都市に若者が流れてしまい、シャッター街になっているところもありますが、中ぐらいの都市には面白いところが結構ある。山口市や松本市、尾道市もそう。昨年10月、ニューヨークタイムズから依頼が来て、いくつか推薦したら盛岡を取り上げることになったわけです」
ならば、と〈a walkable gem〉を日本語で表現してほしいと頼むと、
「秘境という訳も好きです。言うなれば、歩きやすくて、良いことが見つかる街ということです」(同)
盛岡に行きたくなってきた。
「週刊新潮」2023年2月2日号 掲載