NASA、ペンタゴンも…米国の「UAP(未確認空中現象)情報公開」で中国当局は動き出すのか

「米政府は過去数十年に亘り、墜落、不時着したUFOを回収。構造を分析し、再構築する『リバース・エンジニアリング』を極秘裏に進めてきた。(生物学的に人間とは異なる)搭乗員の遺体も保持している」──。2023年7月、米下院の「UAP(UFOを含む未確認空中現象)」を巡る公聴会で、驚くべき発言が飛び出した。

 証言に立ったのは、元米空軍情報将校のデビッド・グルーシュ氏。ペンタゴン(米国防総省)でUAP解析の共同責任者を務めていた人物でもある。

 公聴会で証言をしたのは同氏のほか2名。元米海軍パイロットらは、飛行中に遭遇したUAPについて「物体に回転翼や翼はなく、ピンポン玉のように激しく動いていた」「われわれのテクノロジーをはるかに凌駕していた」と口々に語った。

 もっとも、グルーシュ氏の証言は「公務の中で知り得た情報や伝聞に基づくもの」で、自身はUAPの残骸や搭乗員の遺体を見たことはないという。公聴会出席議員の突っ込んだ質問に「公の場では話せない」と言葉を濁す場面もあった。

 現時点で同氏の話を鵜呑みにはできないが、2020年以降、米当局がUAPの調査・情報公開を積極的に進めてきたのは事実だ。

 ペンタゴンは2022年8月、省内に「全領域異常対策室(AARO)」を設置。米軍機が撮影したUAP映像などの解析に当たり、650件に及ぶ調査事例の半数が「正体不明の異常な事例」だと認めている。今年8月末には、機密解除された動画の一般公開も始まった。

 これまで、SFや都市伝説として扱われてきたUAP問題に、米当局が踏み込んだのはなぜか。科学問題研究家の竹本良氏が語る。

「2020年末にトランプ前大統領が『UAPに関する報告書の開示』を求める法案に署名し、情報開示の動きが進みました。過去に米当局が公表した調査報告は、軍事上の機密等を理由に肝心な部分が黒塗りされ、国民や議会から『情報開示が不十分』と批判を浴びた。

 だが、今やSNSやネットで瞬時に目撃情報や写真・動画が拡散される時代。下手に隠してあらぬ憶測を呼ぶより、『国防上の脅威となり得る正体不明の飛翔体』が存在する事実を認め、調査・情報公開する方針に転換したのでしょう」

中国で光線を照射したUAP

 UAPの正体については現在も「エイリアン・クラフト(異星人の乗り物)説」をはじめ「秘密兵器説」や「タイムマシン説」、「自然現象説」など侃々諤々の論争が続いている。冒頭のグルーシュ氏の証言のように、「米当局は宇宙人の存在を知りながら隠蔽している」とセンセーショナルな話題が注目を集めることもあるが、UAP問題に関心を持つのは米国だけではないと前出・竹本氏が指摘する。

「米露やEU諸国はもちろん、中国も膨大なUAP関連データを蓄積しているはず。日本ではあまり伝えられませんが、中国でもUAP事件は頻発しています」

 その中でも中国当局を震撼させたのが、98年に河北省滄州市で発生した事件と言われる。現地報道等によると、同年10月19日の午後11時ごろ、同市上空に「飛行と静止を繰り返しながら、地上に光線を照射する」麦わら帽型の飛行物体が出現。中国軍機がスクランブル発進し追跡したが、撃墜寸前で「一瞬のうちに高度1500mから2万mに上昇し飛び去った」というのだ。

 事態を重く見た中国当局はこれを機に、通常のスクランブル発進とは別の対UAP専用マニュアルを作成。これまでに収集されたデータは、習近平・国家主席以下ごく限られた幹部にアクセス権を限定し、最高機密として扱われているという。

「月面有人探査や宇宙ステーション計画を推進し、一帯一路構想を宇宙に拡大せんとする中国にとって、UAP問題の解明は国家の最重要課題とも言える。米国に主導権を取られないよう、今後、虚実ないまぜのUAP情報を公表し、米国に揺さぶりをかけることも考えられます」(竹本氏)

 米国ではペンタゴンに続き、NASA(米航空宇宙局)もUAP調査への参戦を表明。はたして、現代科学で謎は解明されるのか。グルーシュ氏の証言どおり、米当局は異星人の存在を把握しているのか。

「米当局は『UAPが異星人の乗り物だと考える根拠はない』との立場を一貫していますが、否定していないのも興味深い。もし異星人来訪が事実なら、われわれの価値観は一瞬で崩壊し、国家、社会の秩序は保てなくなるでしょう」(同前)

※週刊ポスト2023年10月20日号

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