公立高校の学校食堂(学食)が苦境に陥っている。各地で学食や給食事業などを運営してきた「ホーユー」(広島市)が業績不振で事業停止となって業界の現状に注目が集まったが、物価高やコロナ禍の直撃で事業から撤退する業者が現れている。学校側は生徒の利便性を守ろうと対応に追われている。(三浦孝仁、北瀬太一) 【グラフ】給食業者の6割以上が「業績悪化」している
150か所契約の「ホーユー」が破産手続き
ホーユーは、広島県や大阪府、京都府などの高校や特別支援学校を中心に学食や給食の運営を手がけていたが、契約する計約150施設で、9月上旬から次々と事業を停止。9月25日付で広島地裁から破産手続き開始決定を受けた。負債総額は約16億8000万円に上る。
そのうちの1校、広島市立沼田高校(生徒約940人)では9月1日以降、学食の休業が続く。敷地内にある寮の食事提供も滞り、寮生活を送る体育コースの生徒ら70人のうち希望者には、卒業生が経営する業者の協力で弁当を配達してもらっている。複数の業者から後継の申し出があり、契約元となる同校PTAが選定手続きを進めている。
ホーユーが学食を運営してきた大阪府立高13校でも大半で提供が滞った。
府立高の場合、学食業者との契約は学校が入札を経て結ぶ。だが、今回の事態を受け、13校中8校がホーユー社長の息子が経営する会社に、他の2校は別業者にそれぞれ随意契約で、年度末までの学食の運営を引き継ぐ見通しとなった。来年度以降の業者は改めて入札を実施して決める。
ホーユー関連会社と後継の契約を結んだ高校の担当者は「公募だと選定までに数か月かかり、生徒の利便性を考えるとやむを得ない選択だった」と話し、「当面はメニューや価格の変更はないと聞いて依頼したが、今後も値上げや撤退の不安は残る」と語った。
食堂施設の使用料・光熱費も業者が負担
高校には学食の設置義務はなく、1校もない県もある。生徒の福利厚生を目的に運営するところが多い中、近年は学食がなくなるケースが目立ち始めた。
大阪府立高約150校中、学食を営業していないのは9校。うち7校ではここ10年以内に閉鎖された。兵庫県立高には136校中106校にあるが、約10年前から6校減った。
学食運営は一般的に、食堂施設の使用料や光熱費まで業者が負担する。メニューは生徒の出費に配慮し、契約元となる学校やPTAなどと協議して安く設定され、業者の利益は少ない。
しかし、最近では肉や野菜などの生鮮食品で値上げが相次ぐ。学食から撤退したある業者は「仕入れ値はコロナ禍前と比べ、調理油で2倍以上、肉類で3~4割増えた」と明かす。別の業者は「ここ数年で、年間で数%あった利益がほぼゼロになった」とこぼす。
文部科学省によると、小中学校の学校給食費は20年前から15%ほど値上がりしており、食材費の一部を自治体が補助するケースがある。一方、義務教育ではない高校の学食では、大阪府立高の場合は業者への補助は原則ない。メニューの値上げで価格転嫁しようにも学校側の了承が必要だ。
さらに、コロナ禍での一斉休校や、感染予防策による席数削減などで利用が制限され、苦境が深まった。
帝国データバンクの2022年度の調査では、国内で学食や給食を手がける企業374社のうち3割強の127社が赤字。29・1%の109社が減益だった。
業者の撤退を機に、新たな業態に切り替えた学校もある。
大阪府立桜塚高(豊中市)では9月、6月末に閉鎖した学食の跡地に、コンビニエンスストア「ヤマザキショップ」が開店した。イートインスペースも設けた。別の学食業者と契約しても撤退リスクが残ることを勘案し、商品が多様で生徒の利用が見込めるコンビニを選んだという。
富山県立富山中部高(富山市)は4月から学食をなくし、昼食用の弁当をスマートフォンで注文できるサービスを導入した。1食500円で、当日朝までに注文すれば届けてもらえる。
学校給食などに詳しい藤本勇二・武庫川女子大准教授は「厳しい現状が続くと、学食が閉鎖する事態が各地で増えかねない。行政は食材費を抑えるための共同購入や施設使用料免除といった仕組みを作るなど、業者を支援する対策が求められる」と指摘する。