ここ数年、「企業理念」を新たにつくろうとする動きが強まっています。というのも、単なる利益の最大化だけでなく、「社会的意義がある活動をしているか」という評価基準が、消費者・パートナー企業・投資家・従業員にとって重要になってきているからです。
これからの時代は、事業の社会的価値を示せない会社は存続することが難しく、会社全体で目指す方向性を言語化した「企業理念」を中心に据えた経営が不可避になっていきます。
そこで今回は、企業理念のつくり方・活かし方を網羅的に解き明かし、「新時代の経営本の決定版」「この本はすごすぎる」と話題の『理念経営2.0』の著者・佐宗邦威氏にご登壇いただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)で寄せられた質問への、佐宗氏の回答を公開します。(構成/根本隼)
Photo:Adobe Stock© ダイヤモンド・オンライン
Q. 理念を「自分ごと」にしてもらうには?
読者からの質問 従業員たちが企業理念を理解し、「自分ごと」として捉えられるような研修を設計したいと考えています。座学だけでは不十分だと感じているのですが、どのような研修を行なえばよいでしょうか?
佐宗邦威(以下、佐宗) 「研修」という形をとると、どうしても「あらかじめ決まっている答え」へと誘導するようなアプローチになりがちです。しかし、企業理念の実装において重要なのは、社員自らが考え、理解していくプロセスです。上から教え諭すことではありません。
そこで大事なのが、『理念経営2.0』でも紹介した「ナラティブ」という概念です。これは、「どこから来て、どこに向かっているのか? だから、いま何をするのか?」という問いに対する答えであり、過去-未来-現在をつなぐ主観の語りです。
会社の場合は、「その会社がなぜ生まれたのか、将来何を実現したいのか、だからいまをやるのか」という問いへの答えが、組織のナラティブになります。
感情のこもった語りであるナラティブには、聞いた人を触発して、心を動かす力があります。なので、研修やワークショップでは、企業理念を「組織のナラティブ」として社員に語ることを、「自分ごと」にしてもらうための出発点にするケースが多いです。
そして、それを聞いた社員たちがそれぞれの経験を振り返って、理念を体現していると感じた過去の取り組みを選び、それを「個人のナラティブ」として語り直してもらうことが次のステップです。
最後に、周りのメンバーのナラティブを聞いて思ったこと、学んだこと、自ら行動したいと思ったことなどをグループで共有し合いましょう。そうすると、初めは遠い存在に感じられた企業理念が、最終的には「自分の次の行動」にまで落とし込めるんです。
優秀な人ほど「魅力的な理念」に惹かれる
佐宗 ビジネスの現場で、客観的な情報ではない「主観的な考え」を語る場面はほとんどありません。しかし、企業理念をつくったり、実装したりする現場では、その人にとっての主観の語り=ナラティブを共有し合うシーンをあえて設けることが非常に重要です。
伝わっていない理念に意味はありませんが、このようなプロセスを通じて理念が社員の心に響いて伝播していけば、組織を引っ張る大きな原動力になりますよ。
逆に、理念が「絵に描いた餅」に終わって形骸化している組織では、社員のモチベーションが上がりませんし、優秀な人ほど「魅力的な理念」を掲げる他社へと移っていってしまいます。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『理念経営2.0』刊行記念セミナーで寄せられた質問への、著者・佐宗邦威氏の回答です)