AIでシラス漁獲量予測 目標は正答率90% 徳島の高専が開発中

徳島県はシラス漁が盛んだ。徳島発祥といわれる「バッチ網漁」は、同県沖の紀伊水道で主に行われている漁法で、漁船が袋状の網を引いて3隻1組でシラスを漁獲する。さらに効率的に漁獲するため、阿南工業高等専門学校(同県阿南市)の岡本浩行教授(情報専攻)が、人工知能(AI)を活用して漁獲量を予測するシステムの開発を進めている。

 シラスはカタクチイワシの稚魚で、チリメンの原料として年間を通して漁獲される。県発行の冊子「県ブランド水産物もの知り図鑑 ちりめん」によると、県沖の紀伊水道では吉野川など多くの河川から窒素やリンなどの栄養分が流れ込み、シラスのエサとなる動植物性プランクトンがよく育つ。1番人気の米ドル定期

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 県内のシラス漁獲量は、最盛期の1985年に年間8988トン。農林水産統計年報によると、兵庫、静岡、愛知に続いて全国4位だった。しかし、2022年には2500トンとピーク時の4分の1近くまで減少。全国6位に後退した。

 徳島県の特産「和田島ちりめん」で有名な同県小松島市和田島町の漁協は、紀伊水道を主な漁場としており、県内の漁獲量の6~7割を占める。バッチ網漁の船は漁業者の高齢化と後継者不足で年々減少。県によると、1996年に44組(132隻)だったが、2019年には25組(75隻)に減った。

 そこで県は、少ない船数で効率的に出漁するため、阿南高専にAIを活用した漁獲量予測のためのシステム開発を委託した。同高専は20年度から研究を進めている。

 漁獲量の予測にAIが使えるかどうか、まずは海水面近くにいる水温に敏感なシリヤケイカで試してみた。

 県が中国に食用で輸出しているシリヤケイカは、4~5月に水温20度くらいの兵庫県播磨灘沖でふ化し、夏場は播磨灘沖に生息する。12度が生存の限界と言われ、冬になり海水温が下がると紀伊水道を南下して沼島(兵庫県南あわじ市)から伊島(阿南市沖)の間の水温12~14度の海域で越冬する。

 岡本教授は、県から提供を受けた14~21年冬の紀伊水道の水温画像308枚をAIに学習させた。その上で、漁船1隻当たりの1日のシリヤケイカの平均漁獲量が20キロ以上か20キロ未満のどちらになるか予測を試みた。実際の漁獲量と照らし合わせた結果、AIで導いた計算式の正答率は79%だった。岡本教授は「水温に敏感なシリヤケイカは80%近くも予測できたので、水温と漁獲量の相関はほぼ計算できた」とAIの有用性に自信を持つ。

 一方、シラスはシリヤケイカと違って水温に鈍感。308枚の水温画像データのうち、漁獲があった日の112枚分を学習させた結果、正答率は60%と低かった。画像の他に07~22年の紀伊水道の水温数値データや、シラスの元になるカタクチイワシの卵数をまとめた数値を変数に加えたところ、正答率は80・2%まで上昇した。岡本教授によると、海中は水温や潮流、日照、水深など影響を与える変数が無数にあるため、状況を予測することが難しいという。「さらに昔のデータや、降雨量などのデータも変数に加えて正答率が上がる組み合わせを見つけたい」と話す。

 正答率を90%まで引き上げることができれば、実用に向けて大きく前進する。県水産研究課の担当者は「漁獲量予測は、実用では精度の観点から1カ月先までが限界だが、現場の漁師にとっては出漁の目安になる。漁師個人の腕や経験によるところが大きく、技術の継承が難しい漁業の世界で効果が期待できる」と話している。【山本芳博】

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