新人にパワハラしていた先輩を通報した結果…“モンスター新人の教育係”がたどる不運な人生

「新人にパワハラしていた先輩を通報した結果」というネット投稿が注目を集めたのは記憶に新しいでしょう。内容はこうです。新人Aさんの教育担当Bさんがパワハラしている疑惑が問題となり、投稿者が会社に通報。結果、パワハラ疑惑のBさんが他部署へ異動。
 しかし、事実が明らかになるに従い、投稿者は苦しむことに。それは、新人Aさんが「モンスター新人」だったことが明るみになったから。後任の教育担当者がBさんと同じ苦悩を露わにしたので、それが発覚したというのです。

◆「モンスター新人」が現れる可能性は高い

 それも、1人や2人ではありません。新人Aさんの実態は、同じ質問を何度も繰り返すだけで学ばないし、できるようにならない。自分のミスを認めずに責任転嫁する。嘘をついて誤魔化すなど問題のある言動を繰り返すばかり。

 しかし、全く悪気はなく逆にやる気はあるので、後始末で仕事とストレスが増える状態。しかも、なぜか、上司やその上に新人Aさんは可愛がられ、悪いのは教育担当者になる。この投稿には「投稿者やBさんに同情するコメントや、似た体験をした・見聞きした」というコメントが多く寄せられました。

 それだけ、モンスター新人に悩まされる方々が多いということですが、これは対岸の火事ではありません。筆者は人事戦略コンサルタントとして600社以上の人事の裏を設計してきましたが、それだけ、あなたの職場に「モンスター新人」が現れる可能性が高いということです。

◆モンスター新人はあなたの未来をブチ壊す

 モンスター新人に関わったら最後、左遷されるまで苦悩が続きます。当然、上司やその上からは教育担当者のあなたが「新人育成できずにハラスメントを起こす人」と認定され、今まで築きあげた評価も、マイナスに書き換えられ、出世の道は閉ざされ、最後は左遷。

 メンタル面や業務負荷だけでなく、あなたのビジネスパーソンとしての未来もぶち壊しかねません。転職しようとしても、即戦力の場合、前職の評判を確かめる「リファレンス」を求められることが増えたからです。

 このリファレンスで「新人をパワハラして左遷された」と誰かに言われたら、転職話もパーになります。あなたが悪いわけではないのに、今まで重ねた職業人生をブチ壊されたらたまったものではありません。しかし、策はあるので解説します。

◆プログラムのバグと同じ前提で考える

 そもそも、なんでモンスター新人が現れるのか。ちゃんと採用活動をすれば見切られるはずだと考えることは、確かにその通りですが、半分正解で半分は間違いです。

 原因は2つ。1つは、空前の労働人口の目減りです。確かに、採用活動で、筆記試験、適正試験、グループやケース討議等の実習、面接を組み合わせ、多面的にアセスメントを行えば、モンスター新人を採用選考の中で弾けるかも知れませんが、採用は完全な売り手市場。

 それだけの採用プロセスを踏んでも、たくさん優秀で欲しい人材が集まる会社は極少数なのが実際です。いろいろアセスメントしている間に、他から内定がでたら、こちらは蹴られてしまう可能性が高くなります。

 しかも、今はネットで就活生が各社の採用プロセスや感想をガンガン書き込みます。それほど就活生の人気がない企業が細かく採用ステップを踏むと、就活生目線では、「採ってやるぞ感が強く、上から目線。入社したら大変そう」という印象に受け取られ、その評判が広まるリスクも出てきます。欲しい人材はどの会社も欲しいので、速く内定を出して他を受けないようにしたいと考えることは致し方ないことです。

◆モンスター新人が現れるもうひとつの理由 原因の2つ目は、採用面接者が採用した人の育成の責任を負わないことです。外資系は違いますが、日本企業は新人を人事がまとめてプールし、新人研修を行った後に、経営や人事主導で配属先を決めます。

 面接担当者の部署に面接した新人が配属されるとは限りません。採用面接に関わった「みんな」の総意で合否を決めるので、新人の育成責任までを考えず、なんとなくの印象で採用が決まってしまうリスクがあるのです。

 モンスター新人も20数年生きてきた処世術があります。逆に、モンスター新人こそ、目上の人に気にいられる術を身に着けているので、見抜けないのです。

◆「みんな」で育てることでモンスターを排除

 モンスター新人が紛れ込むのは致しかない前提と割り切りましょう。では、新人ロシアンルーレットで外れてモンスター新人が配属されてきてしまった時の対処方法を解説します。それは、新人を教育担当一人に任せるのではなく、「みんな」で育てるようにすればいいのです。教育担当を担う上司・先輩が複数いる場合、3か月ごとに新人の教育担当を変えるのです。

 半年~1年と長期間、新人と教育担当が同じままでは、新人教育が上手くいっていない場合、モンスター新人なのか、教育担当者の指導が下手なのか見抜きにくです。しかし、3か月単位で教育担当者を変えれば、課題が新人側か指導者側なのかがハッキリと見えます。

 全員が「NO」なら、モンスター新人でなくても、その職場で成長するのは難しいので、新人の配置換えをすればいいです。全員が「NO」ではなく、新人と教育担当の間で上手くいった指導方法のコツを他の教育担当に共有すれば、部署全体の育成力が上がる効果もでます。

◆社内SNSにクローズのグループを作る

 もうひとつの方法を解説します。今風に、社内SNSに新人と配属された部署全員、人事・役員を入れたクローズのグループを作ります。

 そして、新人の行動計画・振り返り・ネクストアクションをアップさせ、上司や先輩に留まらず、他部署や同期もコメントを書き込んでいいようにします。要は「みんな」でよってたかって新人育成をするのです。

 周りの目にさらされるので、誹謗中傷やハラスメント行為の抑制にもつながります。「言い訳」や「責任転換」には「悪いね」やフィードバックが集まるので、新人にありがちな悪気がない言動も、自分がズレていたと客観的に受け止めることができます。

◆実はモンスターではなく正義の味方?

 今の新人はSNSやネットの書き込み風なモノに慣れているので、逆にこちらのほうが受け入れやすかったりします。逆にいいアクションプランや指導には「いいね」が集まるので、モチベも上がります。いいノウハウは、それがある意味の正解なので、自然にマネするようになり、結果、組織全体の育成力もあがる効果もでてきます。

 日本企業は「みんな」で採用を決めるので、新人育成も「みんな」で行うことで、モンスター新人の悪気も屈託ない攻撃の被弾をさけることが可能になります。

 また、モンスターだと思われた新人も、実はモンスターではなく正義の味方の忍んだ姿である可能性もあり、みんなで多面的に指導・応援することで、脱皮させやすくなる効果もあるのでおすすめします。

<TEXT/松本利明>【松本利明】
人事・戦略コンサルタント。外資系や日系の大手企業から中堅企業まで24年間、600社以上の人事や働き方改革に従事。『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)はベストセラー

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