【全文公開】現役タカラジェンヌいじめ死去事件の真相 陰口・密告でライバルを失脚させ…「醜い争い」が招いた悲劇

華やかで美しく荘厳な宝塚のステージは、タカラジェンヌたちの不断の努力のうえに成り立っている。だが、行きすぎた競争心は、足の引っぱり合いさえ辞さない歪な人間関係を作り、ついには「現役タカラジェンヌの自死」という、最悪の事態を招く──。

 阪急電鉄とJR福知山線が乗り入れる宝塚駅から宝塚大劇場へと続く遊歩道は、通称「花のみち」と呼ばれ、公演がある日には多くのヅカファンで賑わう。だが、現在は人通りはまばらで、稽古のために劇場を出入りするタカラジェンヌたちは、一様に俯いて硬い表情を浮かべ、歩き去っていく。宝塚歌劇団は、来年、創立110周年を迎える。その直前に起きた前代未聞の事態に、伝統ある“女の園”が揺れている。

宝塚大劇場は、兵庫県の都市部を北から南に流れる武庫川のほとりに建っている。その川の対岸にあるマンションに、けたたましいサイレンを鳴らした救急車とパトカーが駆けつけたのは、9月30日土曜日の早朝のことだった。マンション前にうつぶせの状態で倒れていたのは、現役のタカラジェンヌ。入団7年目で、宙組に所属する娘役の有愛きいさん(享年25)は、現場のマンションの17階の部屋に住んでいた。

 その朝、有愛さんはマンション屋上から転落したとみられている。今際で、目の端に捉えていたであろう宝塚大劇場は、彼女には“伏魔殿”に見えていたのかもしれない──。

 有愛さんは、京都府出身。実家は140年以上続く老舗の漬けもの店で、双子の姉妹の姉として生まれた。

「妹は、同じくタカラジェンヌの一禾あおさんです。娘役の有愛さんに対して、身長171cmと長身の一禾さんは男役。“イケメン”と評判でファンも多くついています。とても仲がよく、姉妹で父親が所有するそのマンションに住んでいました。ご両親とも熱心な宝塚ファンで、娘たちの活躍を心から願っていました」(宝塚関係者)

 だが、タカラジェンヌになるまでの道ですれ違う。

「中学卒業後に宝塚音楽学校を受験し、揃って合格しました。ですが、妹の一禾さんが2014年に102期生として入学した一方、有愛さんは入学直前にアキレス腱を痛める大けがに見舞われ、入学を1年遅らせざるを得なくなったんです。

 そのため、102期の妹に対して、自分は103期の“後輩”になってしまった。上下関係に厳しい音楽学校では、やはり“姉ながら下級生”という立場には、複雑な思いがあったようです。とはいえ、有愛さんはそういった逆境さえもバネにする、頑張り屋さんでした」(前出・宝塚関係者)

 音楽学校を卒業し、晴れてタカラジェンヌの仲間入りを果たした有愛さんは、歌唱力に定評のある娘役として人気を集めた。

「明るくて面倒見がよく、後輩からも慕われていました。責任感も強いので、先輩から言われたことを、真面目にこなすタイプでした。ただ、入学までの経緯もあり、“自分には足りない部分があるのかも”と、どこかで引け目を感じて、無理を重ねてしまっていたのかもしれません」(前出・宝塚関係者)

司法の場で裁かれたいじめ問題

 うら若き彼女が極端な選択をすることになった背景の1つには、8か月前の報道があったとみられている。『週刊文春』(2023年2月9日号)は、宙組所属の娘役・天彩峰里が、ヘアアイロンを押し当てて後輩の額をやけどさせたなどの「いじめ疑惑」を報じた。

「記事中では被害者は“Aさん”と匿名になっていましたが、それまでの公演の役どころなどから、“Aさん”が有愛さんだということは容易にわかる書き方でした」(別の宝塚関係者)

 内容は苛烈の一言だ。

《額にじゅくじゅくと水膨れになるほどのヤケドを負い、長い間、ミミズ腫れのような傷が残ってしまった》

 記事にはそう記述されていた。

「当初、歌劇団は《全くの事実無根》と否定しました。宝塚内部でも“ヘアアイロンではなくて、小さくて温度の低いホットビューラーだった”、“やけどではなく、まつげが少し焦げただけ”などといった話として伝わっていて、大半が“どこかで話が飛躍してしまった”と捉えていたようです」(前出・別の宝塚関係者)

 有愛さんの死去直後に発売された『週刊文春』(2023年10月12日号)は、Aさんが有愛さんであったことを明かしたうえで、彼女を自殺に追い込んだのは、歌劇団内にはびこる壮絶ないじめが原因だったと伝えた。また、2月の報道直後から始まった、執拗な“犯人捜し”に有愛さんは苦しめられていたという。

「有愛さんは“やけど事件”があった当初から、“大ごとにはしたくない”と学校側に被害を訴え出ることさえしていませんでした。ところが記事が出たことで、周囲から、被害者である有愛さんが“週刊誌にリークした犯人”という目でみられることで、さらに深刻に悩んでしまったようです。

 しかも、宝塚内部では“やけど事件は話が飛躍している”と捉えていた人も少なくなかったので、わざと大げさにリークしたのではないのか、という疑いの目まで向けられることになってしまった」(前出・別の宝塚関係者)

 有愛さんが亡くなった後の会見で歌劇団の理事長が、“故意ではないが当たったことはあると聞いている”という旨の発言をし、「やけど事件」が実際にあったことは認めたものの、そのやけどの程度がどれほどのものだったか、故意だったのかどうかは、いまでもはっきりしない。

『週刊文春』には有愛さんの自死後、宙組内の有愛さんに対するいじめを告発する声が十数人から寄せられたという。そうしたいじめを有愛さんが苦にした可能性は充分あるが、さらに有愛さんを追い詰める出来事が起きていた。

「有愛さんが亡くなったのは、新トップ娘役の春乃さくらの宝塚大劇場でのお披露目公演初日の翌日でした。

 実は、その公演でお披露目されるトップ娘の最有力候補は、天彩さんだったんです。ところがフタを開けてみれば、娘役に抜擢されたのは春乃さん。天彩さんは8か月前の“やけど事件”報道で、ヘアアイロンを押しつけたと報じられた当人だったので、周囲の多くが“だから選ばれなかったのでは”と理解しました。そればかりか、この9月には、12月25日付での天彩さんの月組への組替えが発表されました。

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 この人事には多くの関係者が動揺しました。特に有愛さんは、天彩さんがトップ娘役に就任できなかったのは“いじめ報道”が原因だったのではないかと、ずっと自分を責めていたんです」(前出・別の宝塚関係者)

 そして、春乃のお披露目のステージが始まった翌日、有愛さんはこの世を去った。かねて宝塚に「いじめ問題」が根深く燻っていたのは間違いない。音楽学校を首席で卒業した小柳ルミ子(71才)は、「“いじめ”というフレーズは、そのまま、宝塚音楽学校時代の思い出なんです」と、インタビューで明かしたことがある。

「1999年に月組のトップ娘役に抜擢された檀れいさん(52才)は、結果的に先輩のトップ娘役候補を追い落とした形になり、月組の中で孤立し、誰からも食事に誘われなくなったそうです」(宝塚OG)

「いじめ問題」が司法の場で裁かれたこともあった。音楽学校の第96期生のXさんが2009年、学校を相手取って裁判を起こした騒動だ。2008年4月に入学したXさんは、そのわずか半年後に万引き行為などを理由に退学を通告された。事実無根として退学の取り消しを申し立て、平行線を辿った議論が法廷に移って明らかになったのが、数々のいじめだった。

「Xさんの洗濯物がゴミ箱に捨てられていたり、学校内や寮での窃盗疑惑をかけられ、“死ねばいいのに”と罵詈雑言を浴びせられるなどの行為があったとされました。そればかりか、退学処分の直接の原因となった万引き行為さえも、同級生がデッチあげた、嘘の密告だったのです」(芸能関係者)

 もはや、「いじめ」という言葉では言い足りないほどだ。

《(音楽学校の1年生で)1番美人なのはXさん》

 驚くべきことに、きっかけはインターネット上のそんな些細な投稿だったという。

「舞台に立つ以上は、お客さまに最高のステージをお届けする。そんな大義名分のために、“どんな苦難にもみんなで立ち向かわないといけない”と思い込もうとするんです。ただ、そのせいで厳しい言葉や乱暴な物言いになることは日常茶飯事です。見方によっては、パワハラ、いじめ、集団リンチと受け取れるようなこともあります」(前出・宝塚OG)

年収は200万円

 あれほど華やかで、夢のある舞台を見せてくれる宝塚が、なぜそこまで殺伐とするのか。

「結局は、みんな『トップ』という1つの目標を目指すライバルなんです。その中で足の引っ張り合いや妬みが生まれていく。むしろ、そういう負けん気がないと上にはいけない」(現役のタカラジェンヌ)

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 前述したように、有愛さんの自死以降、『週刊文春』には宙組内でのいじめの惨状を告発する声が十数人から寄せられたという。

「そこで名指しで報じられたのは、いずれも宙組内で“幹部”にあたる、キャリアも序列も上のタカラジェンヌばかりでした。もちろん、大なり小なり、いじめと捉えられかねない厳しい指導はあったのかもしれません。それにしても、人気が上位の人ばかりが“ターゲット”にされていた印象を抱きました。彼女たちがいじめのスキャンダルでいなくなれば、それに代わって活躍できる人が出てくる。そういうことなんです」(前出・現役のタカラジェンヌ)

 また、『週刊文春』によると、当初の“やけど事件”報道の情報源は有愛さんではない。つまり、そもそも騒動を知る別の誰かが、トップ娘役の筆頭候補だった天彩の行為を取材に明かしたことになる。

「結局、これもいじめ体質の延長なんです。身内での流言や陰口はもちろん、告発してライバルが失脚してくれれば、自分がスターダムにのぼる日が近づく。2009年に裁判になったXさんの退学騒動も、結局そうです。同級生が、美人のXさんをねたんで虚偽の万引き行為を密告したから、冤罪でXさんは退学処分になった。

 有愛さんも、トップ娘役を逃した天彩さんも、告発が相次いだ宙組幹部も、醜い争いの犠牲者なのかもしれません。どこかに、ほくそ笑む密告犯が別にいるんです」(前出・現役のタカラジェンヌ)

 なぜ、そこまで不健全な競争が広がるのだろうか。そこには、タカラジェンヌの置かれた“牢獄”のような環境に理由がある。

「晴れてタカラジェンヌとなっても、実態は阪急電鉄の社員という扱いで、初任給は10万円台。年収は200万円ほどなのに、アルバイトも禁止です。キャリアを積めばCMや雑誌、テレビ、ディナーショーやイベントなどの仕事ができるようになりますが、当然“人気”がなければオファーは来ない。組内での序列を上げなければ、いつまでも苦しい生活のままなんです」(前出・現役のタカラジェンヌ)

 かつては、「元タカラジェンヌ」の肩書は大きな効果を発揮した。だが、現在では“再就職”にすら高いハードルがある。

「退団後に芸能界で活躍できる人はごく一部。トップを張った人でさえ、バラエティーで体を張ったりするようなことを求められるわけです。いかに“在籍時の序列”を上げておくかが重要なんです」(前出・現役のタカラジェンヌ)

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 音楽学校での厳しい教育は「花嫁修業」にも例えられた。ところがいまでは、“永久就職”にすら厳然と序列が影響を及ぼすという。

「在籍中から、あちこちの合コンに顔を出すタカラジェンヌは珍しくありません。有力な支援者が、若手実業家や外資系エリート、医師や弁護士などを紹介してくれるんですよ。ただ、よりハイスペックな男性を紹介してもらえるのは、トップに近い立場の人だけ。結局、ここでもものを言うのは序列の高さです。

 現役時代も、退団後も、なんならその後にまで響くんですから、“なりふり構っていられない”と思ってしまうのは、仕方ないことなのかもしれません」(前出・現役のタカラジェンヌ)

 宝塚には「すみれコード」という不文律が存在する。歌劇団の品格を損なうような言動、観客の夢を壊すような演出を行わない、という暗黙のルールだ。いつしかそのルールは、広く宝塚ファンに知られるところになり、タカラジェンヌたちを神聖化していった。だが絢爛な外面を維持しようとする前に、手を施すべきは、すさみ切った歌劇団内部の惨状なのではないか。

※女性セブン2023年11月2日号

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