3億円の宝くじが当たったら、あなたは何に使うか…脳科学者が「この人は運がいいな」と感じた人の答え

運のいい人とは、どんな人のことを指すのか。脳科学者の中野信子さんは「『運』とは生まれつき備わっているものではなく、その人の考え方と行動によって変わる。例えば『宝くじで3億円が当たったら何に使うか?』という質問で、その人が運を掴めるかがわかる」という――。

※本稿は、中野信子『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/malerapaso

■運のいい人は、品もいい

常日ごろ、品のある行動を心がけること――。これが「ここぞ」という勝負のときに効いてくる場合があります。

たとえばドアの開け閉めを静かに行う。
お店で支払いをするとき、ていねいにお金を扱う。
やむをえず車のクラクションを鳴らすとき、何度もしつこく押さないようにする。
親しい人にもていねいな言葉遣いで話す。

このような、日常生活のあらゆる所作に品があるかどうかを意識するのです。というのは、品のある行動がよい結果を生む場合が少なくないからです。

それを証明したのが、ゲーム理論の「しっぺ返し戦略」です。

ゲーム理論とは、価格競争や交渉など、複数の当事者(意思決定者)が参加する状況(ゲーム)で、各当事者は自分の利益や効用を得るためにどのような行動をとるのか、またはとるべきかを数理的に分析したもの。20世紀半ばに数学者のフォン・ノイマンと経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンが基礎をつくりました。

現在では、政策決定やビジネスの現場で、ベストな選択を行うための指針を導き出すために応用されるなどしています。

■大きな利益を得るためにはバランスが大切

たとえば商品を仕入れるA社と商品を納入するB社が価格交渉を行ったとしましょう。基本は、A社はできるだけ安く仕入れたいと考え、B社はできるだけ高く納入したいと考えます。一回限りの取引なら、A社は最低価格をB社は最高価格を狙うでしょう。

しかし今後の取引のことを考えると、それは得策ではありません。A社とB社の関係や状況をふまえ、お互いが利益を追求するもっともバランスのよい価格、というのがあるはずで、ゲーム理論ではこれを数式で導き出すのです。

このゲーム理論の中にしっぺ返し戦略というものがあります。

しっぺ返し戦略は、ゲームを行う際に「基本は相手と協調路線をとり、相手が裏切ったときには裏切り返す、しかし相手が協調に戻ったらすぐに協調する」という方法で戦うともっともお互いの利益が大きくなる、というもの。

たとえばふたりの人が、ジャンケンで点数争いをするとしましょう。

ただし出せるのはグーとパーのみ。自分と相手が出すグーとパーの組み合わせによって、次のように得られる得点(カッコ内)が決まっているとします。

【パターン1】グー(2) 対 グー(2)
【パターン2】グー(0) 対 パー(3)
【パターン3】パー(3) 対 グー(0)
【パターン4】パー(1) 対 パー(1)

■先手を打つより、一歩後を行くほうが成功しやすい

この場合、ただ単に勝ちを狙うなら、パーを出しつづけるのがよいです。しかし、なるべく高い得点をお互いがとることを考えると、よい方法ではないのです。

そこで協調路線をとります。この場合、協調路線は最初にグーを出すこと。

ゲームが始まったらまずはグーを出します。相手もグーを出すかぎり、こちらもグーを出しつづける。しかし相手がパーを出したら、次はパーを出します。相手がパーを出すかぎり、こちらもパーを出し、相手がグーに戻ったらこちらもグーに戻る。この方法がもっとも高得点を得られるのです。

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つまり、先手を打って勝とうとするのでなく、相手の一歩後を行く。えげつない戦い方をするのではなく、社会性のある品のいい戦い方をするのです。それが結局はお互いの利益につながります。

この戦い方は、私たちの日常にも十分に応用できます。

たとえば部下に仕事を頼むとき。上司に休暇願いを出すとき。夫に家事の分担を頼むとき。隣家の騒音に困り、やめてほしいとお願いするとき。

自分が有利になるように先手を打って勝とうとするのではなく、社会性のある品のよい行動で最終的なお互いの利益を狙うのです。

突然、隣家の人が「うるさい!」と怒鳴り込んできたら、何だかよくわからずともこちらもカッとなりそうですが、「すみませんが、実は音が気になりまして……」とていねいに言われたら聞いてみようという気になります。

粗野な振る舞いよりも、品のある行動のほうが人の心を動かすのです。

■「もし宝くじが当たったら?」運のいい人は何と答えるか

ある日、宝くじで3億円が当たったとしましょう。あなたはこの3億円を何に使いますか?

ちなみに、「とりあえずためておく」という答えはナシです。

さて、あなたはとっさに答えることができたでしょうか。

もしできたとしたら、あなたは運のいい人といえます。

自分の夢が叶うかどうか、幸運の矢をキャッチできるかどうかは、実はここがポイントです。

夢を叶える人、セレンディピティーを発揮できる人というのは、常に頭のどこかで自分の目標や夢について考えています。目標や夢が叶った状態を、いつも思い描いているのです。

お金では買えない目標や夢は多いと思いますが、目標や夢の実現のためにお金が役立つことは少なくないでしょう。目標や夢について常に考えている人は、思いがけず当たった3億円を、即、目標や夢の実現のために使おう、と考えるはずです。つまり、先ほどの「運のいい人」をもう少し正確にいうなら、「3億円を目標や夢の実現のために使うと答えた人は運のいい人」となるのです。

流れ星にお願いごとをすると願いが叶う、といわれているのも同じですね。これは星が願いを叶えてくれるのではなく、「いつも頭のどこかで目標や夢について考えている状態」が自分を目標や夢の実現へと近づけているのです。

■「志望大学に入りたい」「痩せたい」は、願い事とはいえない

そこで、まずは自分の目標や夢をはっきりとさせましょう。

このとき大事なのは、自分なりの「しあわせのものさし」で測った目標や夢を設定すること。一般的な価値観や他人の意見を鵜呑みにした夢や目標になっていないかを確認しましょう。

また、その目標や夢を現実的なものに落とし込むことも大切です。

目標や夢が非現実的なものであると、脳はこのことに反応します。あまりに非現実的なものであると、うまく動機づけできなくなってしまい「やる気」が起こらなくなってしまうのです。

よってあまりに非現実的な目標や夢は、少し現実的なものへとレベルダウンさせましょう。

たとえば「江戸時代に行きたい」という夢は非現実的ですが、「江戸時代と同じような食生活がしたい」「江戸時代の書物に囲まれて暮らしたい」などの願いは現実的です。

また、手段と目的を間違えないようにすることも大事です。

「宝くじが当たりますように」「志望大学に入れますように」「もっと痩せますように」などは、願いごとの王道といえるかもしれませんが、実はこれらは願いごととはいえません。お金や学歴、スタイルは目標や夢を叶えるための手段にすぎないのです。考えるべきはその先です。何のために宝くじを当てたいのか、何のためにその大学に入りたいのか、何のために痩せたいのか。そこをはっきりさせるのです。

目標や夢が明確になったら、それを常に頭のどこかで意識しておきます。

といっても、脳は「忘れやすい」性質があるので、忘れないためにも「紙に書いておく」という方法も有効です。

■人は「報酬を期待しているとき」に快を感じる

よく、目標や夢は紙に書いておくと実現しやすい、といわれます。手に入れたいものがあったら、その写真や絵を身近なところに貼っておくといい、ともいわれます。

ここにも実は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが関係しています。ドーパミンは、人がしあわせや喜びを感じると分泌されます。

目標や夢を書いた紙や、欲しいモノの写真を眺めるとき、人の脳は自然とその目標や夢が実現したとき、欲しいモノが手に入ったときのことをイメージします。

たとえば新しい洋服が欲しいと思いながらファッション雑誌を眺めているとき、自分好みの洋服が載っているページがあると心が浮き立つ感じがあります。これは、脳がその洋服を手に入れたときのことをイメージして、喜びを感じているのです。

実は脳には、報酬を期待しているときこそ快を感じる、という性質があります。その快感は、報酬が実際に得られたときと同等か、それ以上になります。そしてその快感が人を動かすのです。

紙に書いた目標や夢を見たときも同じで、脳が実現後をイメージすると快を感じてドーパミンが分泌されます。そして「やる気」にかかわるドーパミンは、目標や夢の達成のための行動を促すのです。

目標や夢を紙に書いたら、頻繁にその紙を眺めるようにしましょう。紙を見なくても、自然と目標や夢の実現後をイメージできるような状態になるまで眺めつづけるのです。

これである日突然、宝くじが当たっても安心です。使い道はすでに決まっているのですから……。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。
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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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