EV人気を手放しで喜べない、バッテリー「リサイクル」「リユース」問題という名の、根深いジレンマ

EVビジネスの環境性能

 電気自動車(EV)をビジネスとして展開する上で、具体的に何が重要なのか。

【画像】中国の「EV墓場」を見る

・モーター出力

・バッテリーの容量

・クルマとしての総合性能

・快適性

・先進の安全装備

・コネクテッド機能も含めたソフトウェアの発展性

考えるべき要素は多岐にわたる。

 しかし、EVが誕生し、市場に普及した最も重要な動機を考えれば、

「環境性能」

は最も重要な要素であるはずだ。EVは排出ガスを出さない。しかし、EVが生産から廃棄までのすべての段階で環境性能に優れていなければ、本当の意味でのゼロエミッション、カーボンフリーとはいえない。

 EVの環境性能をフルに発揮させるための最大の障害は何か。それは、バッテリーをいかに経済的に効率よく製造し、廃棄するかということである。

 日本の自動車メーカーがEVを市場に導入したとき、これは将来の究極の課題であると認識した。その大きな特徴は、早い段階からバッテリーのリサイクル・リユース事業を立ち上げていたことだ。これはEVメーカーとしての

「責任ある判断」

だったといっていいだろう。

リサイクルとリユースの課題

合わないコストのイメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

 しかし、バッテリーのリサイクルとリユースには、今のところまだ大きな障害が立ちはだかっている。それは、

「コストが合わない」

という基本的な問題である。

 リサイクルとは、使用済みバッテリーを素材レベルまで解体し、新しいバッテリーを製造するための材料として利用するプロセスを指す。一方、リユースとは、完成品としての電池の形を残したまま、劣化の少ない電池を他の用途に転用することを指す、

 リサイクルは、リチウム、コバルト、ニッケル、黒鉛などの資源を節約する非常に有益な手段である。しかし実際には、最初から精製済の素材として流通するものに比べ、コスト面で及ばない。

 さらに、素材レベルでのリサイクルには、バッテリー自体の輸送、解体、選別、再精製に至るまで、すべてのプロセスにおいて深いノウハウが必要となる。また、リチウムやコバルトなどのレアメタルの価格は常に変動しており、リサイクル品といえども価格設定は非常に難しい。

リユースのビジネス展開

日産自動車「ポータブルバッテリー from LEAF」(画像:日産自動車)© Merkmal 提供

 一方、リユースはまだビジネスとして展開しやすく、実際、トヨタはJERA(東京都中央区)と共同で、EVやハイブリッド車(HEV)から回収した劣化の少ない使用済みバッテリーを使った産業用スイープ蓄電システムを商品化している。

 同様に日産もダイヘン(大阪市淀川区)と共同で、EVやHEVから回収したバッテリーを使った産業用蓄電システムを商品化している。これらのシステムはすべて2022年末までに完成した。

 EVの実用化で先行する日産は、こうした産業用蓄電池システムでのEVのリユースに加え、2023年9月にはフォーアールエナジー(神奈川県横浜市)、JVCケンウッド(同)と共同で一般家庭向けのポータブル蓄電池電源システムを発売した。商品名は「ポータブルバッテリー from LEAF」で、日産リーフのバッテリーを前面に押し出したリユースであることが特徴だ。ドル建て預金で円安に備える

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 このポータブルバッテリーの容量は633Wh、AC出力は100V×2で最大600W(瞬間最大1200W対応)、USB出力、シガーソケット出力を備えている。2000回の充電が可能で、災害時の非常用電源として極めて高い性能を持つ注目の製品だ。EV用リチウムイオンバッテリーは非常に高品質な素材を使用しているため、廃車になってもバッテリー自体の劣化は少なく、リユースする際にも大きな問題はない。

 ちなみに、ホンダは日本重化学工業(東京都中央区)と共同で、バッテリーの高度なリサイクルを可能にする手法を完成させている。そのほか、EVやHEVを手がける他の国内自動車メーカーも、車両から回収したバッテリーの取り扱いマニュアルを明確に定めている。

 素材レベルでリサイクルするのか。それともリユースして魅力的な商品として提供するのか。考え方はさまざまだ。しかし、ビジネスとして利益を目指す日本での対策はともかく、EV用バッテリーの最大の生産国であり消費国である中国での状況は芳しくない。

中国EV市場の変化

自動車の「墓場」イメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

 これは何を意味するのか。ここで、ある数字を挙げたい。それはEVバッテリーの年間廃棄量である。

 2021年、世界の廃車から9万6850tのリチウムイオンバッテリーが回収された。そのうち実に94%が中国で廃棄されたものだった。販売台数が多ければ廃車台数も多くなるのは当然である。これらのなかでリサイクル・リユースされた自動車の総数は、実は不明である。

 リサイクル・リユース事業の重要性は中国でも認識されている。しかし、その事業規模はまだ小さく、現実にはリサイクル品の再生処理能力が廃棄量に追いついていない。同様に、リユース品としてのリユースも大規模には行われていない。その結果、廃車から取り外された使用済みバッテリーの多くは、そのまま放置せざるを得ないのが中国の現実である。ドル建て預金で円安に備える

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 その一方で、これまで世界一のEV大国だった中国で、EV需要に大きな変化が現れ始めている。具体的には、2023年に入ってから、増加傾向が鈍化しているのだ。

 こうした市場の動きは、リチウムイオンバッテリーの生産に非常に大きな影響を与えている。フィナンシャル・タイムズの報道によると、供給過剰によりバッテリー素材価格が急激かつ顕著に下落しているという。

 具体的には、リチウムの市場価格は2023年初めから約70%下落し、ニッケルも同様に約40%下落、コバルトは同程度ではないものの、基本的に低価格で安定している。

 このため、バッテリーのリサイクルやリユースをビジネスとして展開することは、それに携わる企業にとって設備投資などの資本増強を回収するメリットが少ない。ビジネスとして展開すること自体が、企業にとって負担になりかねない。

 EV用のリチウムイオンバッテリーの需要減が原因なら、リサイクルが安定的な再販につながる保証はない。

求められる市場の見極め

リサイクル・リユースビジネスに取り組む日本のイメージ(画像:写真AC)© Merkmal 提供

 日本の状況をもう一度見てみよう。

 日本のリサイクル・リユースビジネスは、どこも採算ギリギリの状態だ。

 このような状況下で、中国のバッテリー原材料価格の下落が、ようやくビジネスとして軌道に乗り始めた日本のリサイクル・リユースビジネスに深刻な影響を与えない保証はない。

 今後、どうすればリサイクル・リユースビジネスを安定させることができるのか。経営陣には、市場動向を見極めながら慎重に舵取りをしていくことが求められる。

 最大の商品価値が環境性能の高さにあるとすれば、この点は絶対に譲れない。

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