中国の「経済停滞」が意味する危険
中国経済が着実に力を失っていながら、習近平政権はこれと言った対策を打っていない。現状の中国経済は世界的には楽観視されているが、むしろそれこそが世界全体を巻き込んだ恐慌につながりかねない予兆ではないかと不安になることがある。
まずは、中国経済の現状から確認していこう。
抜本的な対策が打たれないままの中国経済 Photo/gettyimages© 現代ビジネス
中国の第3四半期の経済成長率は前年比4.9%増となり、伸び率は第2四半期の6.3%増から減速した。経済を巡る内外の環境が悪化し続けていることが主な要因だ。
中国政府は「今年第3四半期の貿易黒字(ドル建て)は前年比13%減の2262億ドル(約34兆円)に落ち込んだ」ことを明らかにした。減少率は新型コロナウイルス流行初期の2020年第1四半期以来、3年半ぶりの大きさだった。
対立の激化が災いして米国向け輸出が前年に比べて14%も落ち込んだことが痛かった。輸出の不振は長引く可能性が高いと言わざるを得ない。
中国政府がとりまとめた9月の製造業購買担当者景気指数(PMI)によれば、3~6ヵ月先の輸出を占うとされる海外からの新規受注は6ヵ月連続で好・不調の境目である50を割り込んでいるからだ。
泣きっ面に蜂
中国のデフレ・モードも濃厚になっている。
9月の消費者物価指数(CPI)は自動車やスマートフォンの下落幅が拡大したことが災いして前年比横ばいとなった。
CPIは7月に2年5ヵ月ぶりのマイナスとなり、8月は1.1%のプラスに戻ったが、その後、上昇が続かなかった。雇用や所得の改善が遅れ、家計の節約志向がますます深まっている感が強い。
中国の消費者のセンチメントの悪化を招く主な要因となっている不動産市場は復調の兆しを見せていない。米モルガンスタンレーは10日「中国の大部分の世帯は不動産規制緩和策にもかかわらず、依然として住宅購入に消極的だ」との調査結果を公表している。
「泣きっ面に蜂」ではないが、商業用不動産市場の苦境も明らかになっている。
中国の各地で不動産の空室率が問題になっている Photo/gettyimages© 現代ビジネス
英国系不動産サービス企業「サヴィルズ」によれば、中国の4大都市である北京、上海、広州、深圳の今年第2四半期のオフィスの空室率が前年に比べて軒並み悪化した。最も深刻なのは深圳で、空室率は27%に達しているという(10月5日付日本経済新聞)。
中国の不動産開発企業の経営破綻リスクは高まるばかりだ。
ついに「取り付け騒ぎ」が発生
不動産開発最大手「碧柱園」はすでに期日が到来した一部の債券の元本の支払いができない状態となっており、経営破綻は時間の問題だと言われ始めている。
不動産開発大手の破綻懸念が金融システムの動揺を招く「負の連鎖」も起きている。
経営再建中の不動産開発大手「中国恒大集団」の取引銀行で、14日までに取り付け騒ぎが発生したことが明らかになっている。
取り付け騒ぎが起きたのは河北省の地方銀行だが、「恒大に多額の融資をしている」との不確定情報がネットで広がり、預金者が支店に殺到した。
混乱を沈静化するため、一部の支店が札束を積み上げて「現金の壁」を築き、信用不安を打ち消そうとする様子がSNSで投稿されたが、その有様は戦前の日本の金融恐慌を彷彿とさせる。
関連するビデオ: 中国恒大がさらなる窮地に、新規債券の発行できず 25日の取引で株価25%超急落(字幕・26日) (Reuters)
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Reuters
中国恒大がさらなる窮地に、新規債券の発行できず 25日の取引で株価25%超急落(字幕・26日)
いつか見た「債務膨張」の恐ろしさ
中国の金融監督局は「中国の銀行セクター全体が抱える不良債権と不良化一歩手前の要注意債権の合計は7.4兆元(約150兆円)だが、銀行は十分な資本と貸し倒れ引当金などを備えているから問題はない」との見解だ(10月16日付日本経済新聞)。
しかし、1990年代の日本の経験に照らせば、楽観的すぎるのではないかと思えてならない。
中国の経済崩壊は、あまり創造したくない事態をもたらす懸念を筆者は持っている。もちろん、「台湾有事」である。習近平の意識はすでに台湾侵攻の一択へと向かっていないだろうか。
後編記事『習近平、崖っぷち…中国「経済崩壊」のウラで、いよいよ現実味を帯びてきた「台湾の武力統一」…そのとき、世界経済に起こること』では、仮に台湾有事が起きたら世界経済はどうなると考えられているのか、じっくり解説していこう。