ツキノワグマによる人身被害が東北各地で頻発している。秋田、岩手両県では既に過去最多を更新し、福島県も増加傾向にある。岩手県八幡平市では19日に70代の女性が襲われて死亡した。専門家は「いつ、どこでもクマに遭遇する可能性がある」と注意を呼びかける。
東北で相次ぐ被害 冬眠前なお警戒を
秋田県北秋田市で19日、10~80代の男女計6人が相次いでクマに引っかかれたり、かまれたりして、頭や顔にけがをした。24日は仙北市、鹿角市、秋田県羽後町で70代の男女計4人が襲われ、顔や腕をけがした。
秋田県全体のクマの人身被害は24日時点で49件57人に上る。1979年の統計開始から最多の人数で、既に前年度1年間の6件6人を大幅に上回った。
目撃件数も2197件あり、前年度の約3倍に上る。秋田県自然保護課の担当者は「北秋田の街中での出没はこれまでほぼなかった」と説明する。
岩手、福島両県も人身被害は増えている。岩手は19日現在、前年度の23件24人を既に上回る35件38人で、秋田と同様、過去最多となった。福島も20日現在、13件13人が被害に遭い、前年度(7件7人)を上回るペースで推移する。
宮城県の人身被害は2日現在、2件2人(前年度5件7人)と少ないが、本年度の目撃情報は20日現在で766件と前年同期より261件も多い。県は23日、県内全域に期間を11月6日までとする「クマ出没警報」を出した。
東北森林管理局(秋田市)は、福島を除く東北5県の本年度のブナの結実状況について、全県で「大凶作」だったと公表した。5県全てが大凶作になるのは2019年度以来という。
岩手と宮城は調査地点のほとんどで「非結実」だった。ほかの3県も実りの豊かさを示す指数が0・1。5県の調査地点計135カ所のうち、124カ所は非結実となり、「一部結実」は11カ所にとどまった。
ブナの実は冬眠前のツキノワグマの餌の一つ。東北野生動物保護管理センター(仙台市青葉区)の宇野壮春代表は「山間部で餌が不足し、人里に出没した。民家などのカキやクリは栄養価が高い。冬眠前に栄養を確保しようと、今後も人里に出て被害が増える可能性がある」と話す。
駆除や捕獲費を東北3県などに緊急支援へ
東北などでクマによる人身被害が過去最悪のペースで増えていることを受け、環境省は24日、駆除や捕獲、生息調査といった対策を実施している自治体の経費を補助する緊急支援を行うと発表した。北海道、青森、岩手、秋田の4道県を念頭に置き、要望があれば他県も加える方針。
支援対象となる事業は自治体の要望を受けて詰める予定だが、駆除や捕獲に必要なわなや網の購入費、侵入防止の電気柵の設置費用などを想定する。秋田県は駆除を担う猟友会員らの弾丸購入費を負担する考えで、そうした経費も認めるかどうか調整する。
クマの生息区域や冬眠場所、市街地への侵入経路を把握するための調査費用も補助する。少子高齢化などで猟友会員らが減少している状況を踏まえ、ハンターの派遣も検討している。
環境省によると、クマによる人身被害は9月末現在、全国で105件109人。統計を取り始めた2006年以降最悪のペースで増えており、今月も被害が相次いでいる。
伊藤信太郎環境相は24日の閣議後記者会見で、人身被害防止に向けた談話を発表し「遭遇した際は落ち着いて距離を取ってほしい。クマを誘引する果実や農作物の管理、生ごみの処理もお願いする」と呼びかけた。