福井1区で立民から出馬するスピリチュアル系「女性候補」 Xに下品過ぎる投稿で大荒れ 本人は拡散に「感謝と感動と敬意」

日本初の国政選挙は1890(明治23)年7月に行われた第1回衆議院議員選挙。爾来、130年を超える歳月が流れ、次の衆院選は第50回を迎える。この間、数多の立候補者が有権者に政策を訴え、支持を求めてきた。しかし、“ヒーラー”の肩書を報じられた女性が国政選挙に出馬するのは、恐らく日本の憲政史上初めてだろう。

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【写真7枚】「ウソでしょ?そりゃ炎上するよ」あまりに下品で問題になった“ヒーラー立候補者”の実際の投稿

 福井新聞は9月27日の朝刊に「立民衆院福井1区 西山氏の公認決定」との記事を掲載した。立憲民主党が次の衆院選の福井1区の公認候補として《新人でサロン兼民泊施設経営の西山理恵氏(47)》の擁立を決めたという内容だ。

西山理恵氏(立憲民主党の公式サイトより)

 ちなみに、福井1区は自民党現職の稲田朋美元防衛相(64)が7選を目指しているほか、共産党の県書記長を務める金元幸枝氏(65)も立候補を表明している。

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 西山氏は今年1月の福井県議選にも勝山市選挙区から立候補している。その際、中日新聞の福井版は、西山氏の肩書を《ヒーラー(治療師)》と伝えた(註1)。

 ヒーラーとは何か。Googleで検索すると、「ヒーラーとセラピストはどう違う?ヒーリングにかかわる仕事やヒーラーの資格について紹介」との記事が表示される(註2)。

 この記事によると、ヒーラーとは《治癒を意味する英単語である「ヒーリング」から派生した言葉で、宇宙のエネルギー・生命のエネルギーを活用しながら、お客様をいやす職業》という。

 宇宙のエネルギーとは《自然の中を散歩している時などに感じるスピリチュアルなエネルギー》、生命のエネルギーとは《体内の器官を循環させるエネルギーのことをさすことが多い》そうだ。

Xの投稿内容に批判

 ヒーラー問題については後で詳述するが、西山氏の衆院選出馬表明に関して「ヒーラー」という肩書を使った新聞記事は確認できなかった。各紙の報道を見ると、「マッサージサロン」と「民泊」を経営していると伝えたようだ。

 西山氏の出馬が報じられると、X(旧Twitter)は大騒ぎになった。《どうゆう方向性でこうなったのか》、《立憲民主党ってのはココまで人材不足だったんだ》、《立憲の身辺調査ガバガバ過ぎる》──という具合だ。一体、何があったのか、担当記者が言う。

「西山さんは10月中旬、自身に寄せられた様々な質問にXで回答しました。そもそも西山さんに対しては、Xのポストに関する批判が散見されていたのです。例えば、絵文字が非常に多用されており、それ自体はもちろん個人の自由なのですが、やはり国政を目指す人物の投稿には見えません。数々の批判に西山さんは反論しようと考えたのでしょう。西山さんは疑問の声をリポストなどで引用するのではなく、自分で《何で絵文字いぱい使うの?下品や》などと要約して引用し、《下品て見えるに使った貴方の物差しはどこから来たのかしら》と自分で回答したのです」

 絵文字の多用もそうだが、《いぱい》《下品て見える》《使った貴方の物差し》といった独特の表現も興味深い。

問題投稿に騒然

「さらに《なんでSNS沢山出すの?》という質問も自分で記述し、自分で《出すんやなくて出ちゃうの》《愛やから》《あたいの御出産》《男でいうSEX絶頂精子出ちゃうやろ 同じ事象や》と回答したのです。10月19日現在、この投稿は削除されているようですが、今でもキャプチャーされた画像が拡散され続けています。もちろん西山氏のXには、表現が下品ではないかと問題視する意見が殺到しました」(同・記者)

 西山氏が投稿したQ&Aには《どやたらそんな動けるの?》という質問項目もある。なかなか意味を汲み取りにくいが、多分、「なぜ出馬したのか? なぜ立候補者として選挙区内を走り回っているのか?」というニュアンスのようだ。

 その回答は、《伝えたくなた政治が希望やてんなてわたしたちが希望やてんなてみちゃたんキラキラやうちら》となっている。こうなると暗号に等しく、判読は難しい。

 もちろん新聞社が西山氏の発言をそのまま伝えることはない。仮にも立憲民主党における衆院選の公認候補だ。例えば、毎日新聞の福井県版は、以下のように報じた(註3)。

《会見では「福井から今の社会をひっくり返したい」と語り、重点政策として、インボイス制度の廃止や農林水産業の振興などを挙げた》

レイキヒーリング

 福井1区を騒がせている西山氏とは一体どのような人物なのか。立憲民主党の公式サイトには、1976年1月生まれなどのプロフィールが記載されている。

「公式サイトによると、福井市の短大を卒業後、英会話講師やメガネ用品の関連会社で海外営業などの仕事を経て、地元の勝山市役所に勤めたとあります。西山さんはブログなども精力的に更新しており、結婚して子供が4人産まれたことや、離婚して市役所を辞め、シングルマザーとしてお子さんと共にドイツに移り住んだことなども綴られています」(同・記者)

 西山氏が経営するマッサージサロンと民泊施設は、今も公式サイトが公開されている。その中には自身の経歴として《UCSD カリフォルニア大学で国際英語教授法修了》との一文があるほか、ドイツで通訳などをしながら《国際タイマッサージ学校で1年間学びタイ古式マッサージ国際教授法修了》したことなどが紹介されている。

「公式サイトには、マッサージによって《「身体」「精神」「エネルギー」を刺激》するとの記述があるほか、《レイキヒーリング》の施術も行うとあります。このレイキヒーリングについてウィキペディアは《手をかざす、または直接相手の体に手を置いて、生命エネルギー「レイキ」を流し込むという考え方・実践》と説明しています。日本国憲法は思想および良心の自由を保障しています。国政選挙の立候補者がヒーリングを信じていても問題はないでしょうが、『オカルトで非科学的だ』と思う有権者も相当な数に上るのではないでしょうか」(同・記者)

超保守王国・福井県

 実は立憲民主党の内部からも「西山さんを擁立して大丈夫なのか?」と不安視する声は出ていたという。党関係者が明かす。

「党の公認候補の決定がどれほど重要かは言うまでもなく、選考はきちんとしたプロセスを踏みます。経歴を精査し、党幹部が面接を行うなどして擁立を決定します。その過程で西山さんに対する異論は出ていましたから、今の状況も予想の範囲内だと言えます。ただ、福井県は全国屈指の保守王国として知られ、2022年の参院選比例代表では、自民党の得票率が45・33%に達しました」

 全国で見ると、自民党の得票率は34・43%。最も高かったのは山口県で48・88%。2位は石川県で46・02%。そして3位が福井県だった。

「福井1区の歴史を振り返ると、2000年から8回の衆議院選挙が行われ、全て自民党の候補が勝利しています。次点候補の比例復活ですら05年と09年の2回しかなく、稲田さんは12年から連続4回、次点候補の比例復活を許していません。前回21年の選挙では稲田さんが約13万6000票を獲得したのに対し、次点の立憲民主党の候補は約7万1000票しか獲得できませんでした。そのため立民は、いつも候補者探しに苦労しています」(同・関係者)

ご本人に取材

 ご本人に連絡して取材を申請すると、電話で快諾してくれた。電話取材を経て、編集部が内容を文書としてコメント化。それに西山氏が修正を加えたものを以下に掲載する。

 まずは問題視されたXのポストについて訊くと、自身による投稿と削除を認めた。

「今の政治には隠しごとが多く、情報を隠すようなことが頻繁に起こっています。そのため、有権者が政治に不信感を持ったり、無関心になりやすい土壌をわたしたちが作ってきました。投票率が半分に陥っているのも、そこに原因があると考えています。政治不信を解決するには、情報公開が大切だと思っています」

「私個人も自分の想いを素直に伝えることが大切だと考え、InstagramやFacebook、XといったSNSで隠しごとなく発信して参りました。問題となったXのポストをなぜ削除したのかについてですが、党より直接的すぎる表現で、過度であるという指導を頂き、私はそれを受け入れ削除致しました。私が削除した後も今なお、私のポストをネット上で皆様に拡散頂き、民主主義が正常に、健全に、まっとうに、機能されている現状を確認出来ております。感謝と感動と敬意を心から表します」(西山氏)

 オカルト色が強いと感じる有権者がいるのではないかという指摘については、「統一教会の問題がやっと浮上した今、有権者は不安を抱きやすい状況かもしれません」と言う。

「ヒーリングは『気』を扱います。元気の『気』であり、昔、お母さんがお腹が痛い時に手をあててくれた、手当てで治すイメージに近いです。気は目に見えません。そのため非科学的、オカルト的と批判する方もおられるでしょう。しかし私は、目に見えないものの価値こそ大切にしたいと考えています。日本人は古くから、目に見えない『自然と人間の結びつき』を重んじ、野山や海川の自然を慈しんできました。毎日の食べ物に深い感謝を捧げるのも同じ想いからです。私の経歴や主張に不安を感じる有権者の皆さんには、丁寧な説明や対話を通じて懸念を払拭していきたいです」(西山氏)

立憲民主党が“一本釣り”

 統一教会の問題については、「統一教会に依存させるよう仕向けるシステムが問題です」と力説する。

「多額の献金が問題視されたように、信者を依存させ、全てを捧げることを求めています。宗教そのものに問題があるのではなく、統一教会の献金のやり方、在り方、そして違法な献金が政治に流れ、特別待遇を受け続ける癒着構造がある政治と宗教の関係性の問題とみています。ヒーリングの世界は心と身体のバランスを重視しています。依存から脱却できるようバランスを整えます。支障をきたしている生活基盤を立て直すための癒しのひとつにすぎません」(西山氏)

 西山氏の地元である勝山市では、県議選で無投票当選が長く続いてきた。西山氏は「参政権が行使されないのはおかしい」と訴えて1月に立候補。12年ぶりの選挙戦を実現させた。投開票は4月に行われ、結果は現職が約6800票で当選。西山氏は約2400票で落選した。

 一定の存在感を発揮したことから、勝山市議選での立候補を考えていたが、立憲民主党から「福井1区で衆院選に出馬しませんか」と打診されたという。

「立候補表明する以前の私が、自分の思いを吐いても、見てくださる方は限られていました。ですが、今回、立憲福井1区総支部長に就任した事で、沢山の方々の目にとまり、声が繋がりやすい状態になりました。各地での街頭演説を通じ、有権者の声なき声を丁寧に拾い繋ぎます。これからも、変化や波を作り、投票という形で、本来のわたしたちの政治を取り戻していけるよう根治治療目指して邁進して参ります」(西山氏)

註1:県議選勝山市区に西山さん出馬意向 元市職員(中日新聞福井版:2023年1月14日朝刊)

註2:ヒーラーとセラピストはどう違う?ヒーリングにかかわる仕事やヒーラーの資格について紹介(モアリジョブ:2023年1月4日)

註3:次期衆院選:次期衆院選福井1区 立憲・西山氏出馬表明(毎日新聞福井版:2023年9月29日)

デイリー新潮編集部

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