なんだか生きづらいと思ったら発達障害だった、ということがある。「それに気づいたのが親になってからだったら、子どもに与える影響は大きい」と精神科医でYouTuberとしても活動している益田裕介氏は言う。
アメリカでロングベストセラーとなっている『親といるとなぜか苦しい』(リンジー・C・ギブソン著)を題材に、「発達障害の親に育てられた子ども」に何が起きるのか、益田氏に解き明かしてもらった。
日本では表面化しづらい「未熟な親」問題
『親といるとなぜか苦しい』には、「未熟な親」という言葉が出てきます。共感性がとぼしく精神的なサポートができず鈍感で利己主義。こういった、子どもに不安をもたらす可能性がある「精神的に未熟な親」を4つのタイプに分けています。
【写真】『親といるとなぜか苦しい』は愛したいのに愛せない親を持つ人が「心の重荷」を降ろす方法を解説する
親といるとなんだか苦しいなと感じている人、生きづらさを感じている人のなかには、「自分の親に当てはまるな……」という人がいることでしょう。あるいは「自分が親として、当てはまる部分がありそうだ……」という人もいるかもしれません。
ただ日本では、親を表す言葉に「成熟」「未熟」を使うことはほとんどないと思います。親は「立派な存在」で「成熟した人格者」であることが前提となっているからです。ここに、日本ならではの問題が隠れている気がします。
1 感情的な親
感情のままに行動し、過干渉かと思えば急に突き放したりする。不安定で、突拍子もないことをしがちだ。不安に圧倒されると、他者を利用して自分を落ち着かせる。些細なことで大騒ぎし、相手を、自分を助けてくれるか見捨てるかのいずれかとしてみる。
2 がむしゃらな親
異様に目的志向が強く、やたらと忙しい。他者を含め、あらゆるものを完璧にしようとせずにはいられない。しっかりと時間をとって、子どもの心にきちんと寄り添うことはしないのに、子どもの人生のこととなると、コントロールしたり口出ししたりする。
3 受け身の親
放任主義で、不安をかき立てられるようなことには一切かかわらない。有害性は低いが、独自の弊害をおよぼす。支配的な相手には一も二もなく従い、虐待やネグレクトもみてみぬふりをする。問題を避けたり黙認したりすることで切り抜けているのだ。
4 拒む親
そもそもなぜ家庭を持ったのかと思うような行動をする。精神的な親密さをよしとせず、子どもにわずらわされるのを露骨にいやがる。他者の欲求への耐性はほぼ皆無。彼らにとっての交流とは、命令し、怒鳴りつけ、距離を置くことだ。多少おだやかなタイプであれば、家族ごっこはするかもしれないが、あくまでも表面的だ。もっぱら自分の殻にこもって好きなことをしたがる。
12人に1人はいる?発達障害グレーゾーン
先ほど挙げた未熟な親の4つのタイプは、発達障害的な特性と共通するところが多くあります。たとえば、衝動性が感情的で突拍子もない行動を引き起こしているとしたらタイプ1の未熟な親の分類に入るでしょうし、こだわりが子どもをコントロールすることにつながっていたらタイプ2になるかもしれません。
発達障害はグレーゾーンまで含めると7〜8%の割合で集団のなかにいると言われています。発達障害的な特性を持っているがゆえに「未熟な親」となってしまっているケースが、それなりの人数で存在するということをまず理解する必要があると私は思います。
私のクリニックに来る患者さんのなかには、東京大学を卒業し職場でも評価が高いだろうと想像される方が、どんな分野や内容でも親の言うことが絶対正しいという価値観に縛られているというようなことがあります。子は無条件で親を愛し尊敬しているから、親から愛情を与えられないのは自分が悪いのだと思ってしまう。知識も経験も身につけた自分のほうが正しい、親は勉強不足だなどとは思えないわけですね。
自分の気持ちをないがしろにして、親の言うことに従っている間に追い詰められていく。こういった状況におちいらないようにするには、「母親は発達障害的な特性を持っていたな。父親がいつもフォローに回っていたな」といったように、親自身を客観的な視点でとらえなおす必要があります。親であっても精神的に未熟な人もいる、親であっても成熟した人格者ではない普通の人なのだと考えられるようになることが大切です。
毒親話では問題は解決しない
未熟な親の別の呼び方として「毒親」という言葉が一般化しつつあります。この毒親という言葉が持つ攻撃性には注意が必要です。自分の親を世間の親とは違うもの、悪いものとして毒親話をしたところで、一時的な慰めにはなっても生きづらさの軽減にはつながらないからです。
親を憎めないから苦しいのに、愛してくれなかった、評価してくれなかった、無関心だった、ほかのきょうだいのほうがかわいがられたなど表面的な理解で毒親として切り捨てても問題は解決しません。親を客観的な視点でとらえるということは、「ひどい親だった」の一言で済ませることでもなく、逆に神格化しすぎることでもありません。一個人として長所や短所を冷静に見つめることが大事なのです。
精神医学的にいえば、「心」というものは存在しません。精神医学では、心の問題は「脳機能の問題」ととらえます。「私は心が弱い。もっと強くならなければダメだ」と自分を責めて苦しんでいる人がいたら、それは心が弱いのではなく不安障害など脳の機能に何らかの変性が起こったと解釈します。なぜ不安障害が起こったのか話を聞き、それにあわせて対処、治療していくのです。こういった知識は、親子の問題を考えるうえでも役立ちます。
親が片付けができない特性を持っていたから家のなかがゴミ屋敷のようになっている。他者に無関心な父親によって母親が寂しさをつのらせ子どもに依存したため、子どもは父親のグチや悪口、悩みごとまで話を聞かなければならない。こういった親の特性を観察し、脳科学的に理解するのです。感情的になるとただただ嫌な思いをするだけ。合理的に判断、行動することが問題解決につながります。
(構成:中原美絵子)
益田 裕介:精神科医