「日雇い労働者のまち」として知られる大阪市西成区の釜ケ崎。市や大阪府警が力を入れる「西成特区構想」の治安対策の柱の一つが違法露店への対策だった。特区構想が始まって10年が経ち、改善傾向にはあるが、今も摘発が続く。日曜日の未明、記者が現場を歩いた。 【動画】「大阪一ディープな街」と呼ばれる西成・釜ケ崎。地元出身のラッパーに案内してもらった 午前3時から釜ケ崎の路上に露店が並びだした。広場やマンションがある一角で、100メートルほどの間にちらほら。午前5時には約20店に増えていた。 このうち半分ほどで、睡眠導入剤や抵不安薬のシートを置いていた。 医師の処方によらない無許可販売は、医薬品医療機器法違反などの罪に問われる。医師に処方された薬を露店商に売る行為も、露店商が客に売る行為も犯罪になる。 通りかかると、年配の男性から「薬を売りに来たの?」と呼び止められた。 露店を構える中年の男性に話しかけると、よく知られている睡眠導入剤の売値は「1シート(10錠入りの包装)1千円」という。 午前4時半になると客が増えてきた。 「これなら1錠でぐっすり寝られるよ」 別の売り手の中年男性にもちかけられ、若い女性が睡眠導入剤を手に取った。 男性に「あっという間に売れちゃうよ」と言われ、女性が2500円で1シートを買った。 女性は「○○もある?」と尋ねた。 服用後に脱力感があって乱用につながりやすいとして、販売中止になった睡眠導入剤だ。 横にいた売り手の仲間の男性が「2週間くらい待ってもらったら手に入る。東京から仕入れるから」と告げた。 警察の摘発を恐れてか、午前7時になると店は次々に撤収した。 元暴力団幹部で、現在は生活保護費で暮らす大阪市内の男性(65)は数年前、自らが処方してもらった睡眠導入剤を露店で売ったことがある、と明かす。最近は、路上に薬を並べず薬の受け渡しは車の中でするなど、売り手が摘発を警戒しているという。 かつて釜ケ崎の露店は年がら年中、日中に開かれていた。西成署によると、2009年までは多いときで約300店が並び、道をふさいでいた。 医師の処方が必要な薬、わいせつな裏DVDなど、違法な物品を売る店が多かった。賞味期限切れの弁当を売る店もあり、多くの売り手が地域外から来ていた。 西成署は釜ケ崎の露店に絡み、13~22年の10年間、123事件でのべ139人を摘発した。違法または無許可の商品を販売目的で所持・陳列したとする容疑だ。 商品の内訳は無修正のわいせつDVDが79事件82人、著作権を侵害するコピー商品(主にDVD)が37事件48人、医師の処方が必要な医薬品が7件9人だった。ほかに道路の無許可使用で22件を摘発した。 今年も7月までに2事件で3人を摘発。出店は目に見えて減っているが一掃はされていない。署によると、今も多い日で約50店が並ぶという。 違法露店に対し、地元の人も眉をひそめる。ある住民は「露店は散歩中の楽しみだから続いてほしいけど、睡眠薬の無許可販売とかはあかんよ。のみの市のように雑多な品が並び、売り手と交渉して安く買えるようになるといい」と話す。