きょう29日も岩手で女性が襲われるなど過去最悪のペースで被害が増えています。この週末、対策を強化する自治体が相次ぐ中、クマを傷つけずに山へと追い返す活動が成果をあげています。
■クマの痕跡あちこち「笛が手離せない」住民恐怖
全国でクマによる人への被害が増える中、週末を迎え、各地でクマへの対策が行われていました。
(新潟県猟友会村上支部 菅原修副支部長)「きょうは3カ所(罠を)仕掛けているんですけど、その見回りをします」
新潟県関川村。紅葉の名所で知られるこの地域でもクマの捕獲件数が去年に比べ10倍近い数に増加。先月は住宅にクマが侵入。駆け付けた猟師がけがを負う被害も出ています。
Q.罠を見に行く時の心境は?
(菅原修副支部長)「(罠を)掛けた以上、掛かっていればいいような、掛かっていない方がいいような、複雑な気持ちですね」
今月に入り4頭のクマを捕獲しているという菅原さん。現場に到着すると、安全のため銃を携帯し檻に近づきます。
Q.罠に変化は見られる?
(菅原修副支部長)「何か来てますね」
見回りの結果、3つの罠にクマはかかっていませんでした。しかし、設置したセンサーカメラを確認すると…檻の入口に現れた動物。その正体はタヌキでした。クマへの恐怖で住民の生活にも変化が起きていました。
「ピー!ピー!」
自宅前で笛を吹く女性の姿が…
(住民 丹内優子さん(67))「そこの車庫に夕方行く時も(笛を)ピッピーとやっていきます。前にここを歩いたことがあって、クマが…」
(住民 今俊明さん(68))「やっぱり怖いですね、正直。いつ何時歩いていて後ろから(クマが)来ないとも限らないので」
村で頻繁に出没するクマは思いもよらない場所で発見されています。ごく普通にある街中の道路並木ですが…
(住民 今俊明さん)「正面にクマがいますよ!クマ!」
一見どこにいるか分かりませんが、木の枝に熊の姿が確認できます。街中でこうした認識しづらい状況での遭遇は事故の危険性が高まる可能性があります。
(菅原修副支部長)「これがクマが登った跡ですよ、傷痕。これは新しいやつですね」
多く残るクマの痕跡。今後もクマの出没は続くといいます。
(菅原修副支部長)「12月の中ごろまでは、エサがあれば(クマは)出てくると思う」
環境省によると、クマの被害に遭った人の数は、今年4月から9月末までに109人と過去最悪のペースとなっています。被害者の数は今月に入り、東北地方を中心にさらに増えている状況です。
■クマの見回りを安全に 最新テックで負担減
相次ぐクマの被害…IT技術を使い新たな対策を行う自治体も…
Q.これはクマが食べた跡ですか?
(猟友会 伊勢重信さん(71))「はい」
Q.最近ですか?
「きのうあたり」
宮城県加美町でもクマの目撃情報が相次ぎ、役場は最新の通信技術を使い対策を行っています。
(猟友会 伊勢重信さん)「この黄色いひもと、あそこに“ほかパト”ってあるんですけど、扉が落ちることによって、このひもで磁石が外れて(“ほかパト”が)反応するんですよ。携帯電話に連絡がいく」
“長距離無線式捕獲パトロールシステム”=“ほかパト”は、罠の扉が閉まったタイミングで装置につながったマグネットが外れ、登録された携帯電話に通報されるシステムです。捕獲情報をいち早く共有することが出来ます。
(猟友会 高橋照幸さん)「IT機器も何もない場合は現場に真っすぐに行って確認しなければ分からない。安全性の面についてはかなり助かっている」
■「ここに出て来ないで」吠えて教えるベアドッグ
一方、クマと共存するための取り組みで効果をあげている自治体もあります。
「ワン!!ワン!!!」
木の上にクマを追い立て、果敢に吠えたてる1匹の犬。クマ対策のために特殊な訓練を受けた『ベアドッグ』と呼ばれる犬です。このベアドッグと共に、およそ20年、軽井沢町のクマ対策に取り組んできたのが、田中純平さんです。
(クマの保護管理を行うNPO法人ピッキオ 田中純平さん)「トレーニングを積んで、クマを探し出したりとかパトロール業務を主に軽井沢でやっています」
日本を代表する高原リゾート、軽井沢。山あいに別荘や宿泊施設が立ち並び、クマにより、多くの被害を受けてきました。
しかし、2011年以降、人間の主な生活エリアで、クマによる人身事故は起きていません。その背景にあるのが、徹底的なクマの保護管理です。
(田中純平さん)「クマが人里であるとか住宅地に出てくる前に、夜の間にチェックしています」
まず、事前調査のためクマを捕獲。血液検査やタグをつけるなど、各個体の識別データを収集します。さらに、位置情報を得るため発信機を装着。その上で、町内をクマがいるべき“森林エリア”、森林と別荘地が交差する“別荘地エリア”、人間が多く住む“市街地エリア”に分けます。その境界線に近づいたクマを威嚇し、学習させ、森林エリアに誘導するのが、ベアドッグの役割です。
(田中純平さん)「ベアドッグで積極的に『今度はここに出てきちゃいけないよ』とか、私たち人間が暮している居住エリアの中からしっかり押し出すことで、熊に教えていくということですね」
人にもなつき、愛くるしい面がある一方、警戒心が強く吠える声が大きい、勇敢なこの犬種。
(田中純平さん)「5歳なので十分経験を積んできているベアドッグになります。きょうはレラで行きます」
5年前、厳しいテストを潜り抜け、次世代ベアドッグとして選ばれたメスの「レラ」と共にパトロール開始です。
午前4時。森林エリアの境界線付近に向かいます。アンテナをかざし、発信音を頼りに、クマの位置を探る田中さん。すると…
(田中純平さん)「けっこう“沢地形”の中にいるかもしれない。接近してみます。その現場まで100〜200mぐらいあるかもしれない」
何かを察知したのか、レラも反応します。
(取材班)「心なしかソワソワしている…」
クマがいるのでしょうか?安全のため、取材スタッフは待機。田中さんはレラと共に森の中へ向かいます。
(田中さんの指示)「準備はいいか?クマを探せ!」
人間の目では先が見えない闇の中…何かを確信したように進むレラ。
「ピッ!ピッ!ピッ!」
次第に音量を増す発信音。その時…
(田中さんの指示)「よし、見つけたね!」
「ワン!!」
(田中さんの指示)「見つけた!クマに吠えろ!吠えろ!」
立て続けに吠えたてるレラ。吠え続けることおよそ2分。
次第に弱まる発信音。クマが遠ざかったのです。
(田中さんの指示)「いい子だ、いいぞレラ!クマを見つけた、よくやった。クマは行ったよ、OK!離れよう」
きのう28日、境界線付近で確認されたクマは5頭。4時間ほどかけ、全てのクマを山奥に返すことが出来ました。
(田中純平さん)「クマ側にも常に教育をしながら、地域の方々にも状況を報告して知っていただきながら、両者に対して働きかけをしていくことで、ようやくすみ分けが出来ていく、それで共存が成り立っていくと思っています」
10月29日『サンデーステーション』より