「ビッグモーターの急成長は数々の不正の上に成り立ったものです。それにもかかわらず賠償しないまま逃げ延びることは、絶対に許さない」
こう憤りを露(あらわ)にするのは、群馬県の医薬品販売会社社長のAさん(50代)だ。
ビッグモーターの不正を巡る戦いが新局面を迎えた。Aさんが「水没車を偽って販売された」としてビッグモーターを相手に起こした裁判は、10月に判決が確定。前橋地裁太田支部はAさんの主張を全面的に認め、ビッグモーターに購入代金などを含む約290万円の賠償を命じた。
自身の裁判を終えたAさんだが、すでにほかの被害者のために動き出している。それが今まで存在しなかった「被害者の会」の設立だ。Aさんが語る。
「名前は『ビッグモーターの不正を告発する会』です。私のように事故車を購入させられたり、買い取り価格を不当に減額されたり、必要ない修理をさせられたり……。被害者は全国にすごい数いるはずです。本来であれば消費者庁などに対応してほしいですが、動いてくれない。そこで、自分でやろうと決意しました」
資金はクラウドファンディングで集める予定だといい、すでに審査は最終段階だ。運営開始は来年2月を予定している。適切な補償を受けられるよう、会の中で訴訟のサポートを行っていくという。
「訴訟というとやり方もわからなければ費用や手間もかかることから、怖気(おじけ)付いてしまう人が大半だと思います。まず考えているのは簡易裁判所への提訴を手軽にできる仕組み作りです。提出書類を誰でも簡単に作れるアプリや専用フォーマットを制作していきます。
弁護士や司法書士との交渉も進めており、簡単な裁判なら2万~3万円の費用と成功報酬でバックアップできるような体制を構築していく予定です。ゆくゆくは顧客だけでなく、不当解雇された元従業員など、ビッグモーターの犠牲になった方ならどんな被害者でも手助けできる仕組みを作りたいですね」(同前)
実現すれば、今まで泣き寝入りしていた被害者が一斉に立ち上がる可能性がある。Aさんのような数百万単位の高額な訴訟が続出すれば、ビッグモーターが支払う賠償金は簡単に億を超える。
さらにAさんは、前社長の兼重宏行氏(72)と息子で副社長だった宏一氏(35)の責任も追及していくつもりだと明かす。
「この問題は、兼重親子からの賠償がない限り真の終結はない。不正をやるように社員を追い込んだ張本人たちで、副社長自ら直接指示したケースもあるでしょう。二人には民事だけではなく、詐欺罪などの刑事責任も取ってもらわなければならないと考えています」
大詰めを迎える支援元の選定
10月24日、国土交通省はビッグモーター全工場の4分の1にあたる全国34の工場に対して、事業停止や民間車検場の指定取り消し処分を発表した。関東地区の店舗に勤務する現役社員が明かす。
「兼重親子が去り、利益至上主義はなくなりました。環境整備点検も行われなくなった。しかし現場の不安は消えていません。たとえば給料。店舗や部門により違いますが、私の場合、毎月5000円~1万円、給与が下がっています。補填が行われている部門もありますが、それもいつまで続くかわかりません」
経営再建に向け、本部は支援企業の選定を進めている。伊藤忠商事や住友商事、三井住友オートサービスなどの候補が上がるなか、協議は最終局面を迎えている。
「現在、本部は全国に250ヵ所ある店舗の整理に追われています。10月末を目途(めど)に、埼玉県や愛知県など全国各地で閉店や近隣店舗との統合が計画されています。
肝心の支援元ですが最有力といわれるオリックスに加え、同じ中古車販売大手2社に、外資系の通販会社も本命候補に浮上しています。すでに5社ほどに絞られており、大詰めを迎えています」(自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏)
ビッグモーターの責任を追及するために立ち上がったAさん。その活動は、多くの被害者の希望となるはずだ。