伸びる中小企業はどこが違うのか。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「従業員が『お客さま第一』の姿勢をもっている企業は強い。一部の中小企業があいさつや掃除を徹底させるのは、そこに『従業員の基礎力』が出ることを知っているからだろう」という――。(第1回)
※本稿は、小宮一慶『だから、会社が倒産する』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
「お客さま第一」の会社かどうかを判断する基準
当社の若いコンサルタントたちには、会社に行って何を見ればいいか分からなければ、とにかく「お客さま第一」の会社かどうか、外部志向かどうかだけを見てくるようにいっています。
具体的に何を見るのかというと、2段階あります。1段階目は、商品やサービスです。お客さまが買うのは商品やサービスであり、商品やサービスにしか接しないことがほとんどだからです。「私たちは満足を売っています」という経営者もいるのですが、そういわれたとき、私は少し意地悪ですが、「『満足』という名前の饅頭でも売っているのですか?」と尋ねます。
満足を売っているというのは、確かにその通りでしょう。反論はできません。しかし、満足は、商品やサービスを通じて売っているのです。商品やサービスに注目しないと、何をやるべきか、焦点がぼけてしまいます。商品やサービスを見るときのポイントは、競合と比べて、QPS(Quality・Price・Service)の組み合わせが適切かどうかです。
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たとえば冷蔵庫であれば、家電量販店に行けばさまざまなメーカーの商品が並んでいます。それらを見比べることで、どのくらいの性能だとどのくらいの価格が適正なのかが分かります。同等の性能なのに価格が違えば、それがブランド力です。
私たちは、それを踏まえて、お客さまの会社の商品やサービスのQPSが適切かどうかを見ています。具体的には、QとPとSのそれぞれについて細かく項目を分けて、競合と比較した一覧表をつくったりしています。
ただ、これは、その気になればお客さまが自分たちでできることです。コンサルタントという、社外の人間だからこそ気がつくポイントは、次の2段階目です。
商品が良くても会社が内向きでは成功できない
「お客さま第一」の会社かどうかを見るときの2段階目は、働いている人たちの姿勢や考え方です。独自のQPSで業績を上げても、お客さまを素直に、謙虚に見続けなければ、一時的に終わってしまいます。
25年ほど前のことになりますが、ある電機メーカーの組織改革についての新聞記事を読んだことがあります。それは、そのメーカーの商品を販売している街の電気店からの注文を、白物家電なら白物家電、テレビならテレビというように、それぞれの事業部で受け付けるようにする、というものでした。従来はどの商品でもまとめて受け付けていたので、これでは街の電気店の手間が増えてしまいます。しかし、メーカーとしては、このほうが合理的だというわけです。
これは、一番のお客さまの利便性を無視した、内向きの発想です。これでは、いくら商品自体が優れていても、いくら優秀な人材がいても、好調は続きません。ドラッカーは「企業の一義的価値は企業外部にしかない」といっています。その通りで、お客さまに認められない限り、企業は成り立ちません。しかし、歴史があればあるほど、規模が大きくなればなるほど、会社は内向きになりがちです。
来客があっても声をかけない従業員たち
では、私たちはお客さまの会社を訪ねたとき、どこを見て、その姿勢や考え方を判断しているのかというと、掃除やあいさつができているか、です。
たとえば、受付に電話機が置いてあるだけの会社が増えています。それはいいのですが、その電話機の前に来客がいるのを見かけても、従業員が声をかけない、あいさつをしない会社があります。そうした会社が、本当にお客さま第一でいられるでしょうか。掃除の行き届いていないオフィスでは、来客はもちろん、働く仲間も居心地がよくないでしょう。それで平気な人たちが、お客さま第一をできるでしょうか。
もちろん、掃除やあいさつをしているからといって、業績が上がるわけではありません。繰り返しますが、お客さまが買うのは、あくまで商品やサービスです。実際、大企業のほとんどは、掃除を業者に任せています。しかし、それは大企業の従業員はもともと「基礎力」が高いからです。
あとで述べるように、掃除やあいさつを徹底することは、従業員の基礎力を上げることにつながります。基礎力とは、「思考力」と「実行力」です。基礎力が高まれば、お客さまに対する気づきを多く得るようになり、また、お客さまのために行なう活動の実行力も高まるのです。
アンケートを取ることはお客さまにとって迷惑
お客さま第一というと、お客さまにアンケートを取ろうと考える方も多いでしょうが、そういうことではありません。経営コンサルタントの一倉定先生は、アンケートを取るというのは基本的にお客さまにとって迷惑な話だといっています。
もちろん、お客さまが満足されているかどうかなど、お客さまに聞かなければ分からないことを簡単に聞くのであれば、それは必要なことです。けれども、何ページもある質問票に答えさせたうえに、具体的なフィードバックもないようなアンケートは、お客さまにとって迷惑でしかありません。
私自身も、アンケート用紙への記入を求められて、迷惑に感じた経験があります。
ある航空便に搭乗した際の機内でのアンケートで、発着地など、自社で分かることを自分で記入しなければならなかったのです。機内で配っているわけですから、当然、アンケート用紙を配ったスタッフは発着地などを知っているはずです。お客さまの手を煩わせるべきことではありません。
結局、お客さまのためではなく、内部志向で、自分たちのためにアンケートを取っているのです。
やるべきことを「徹底」できるかが重要
「良い会社、悪い会社はない。あるのは良い社長、悪い社長だけだ」という一倉定先生の言葉があります。「できることはすべてやれ、やるなら最善を尽くせ」というカーネル・サンダースの言葉もありますが、「やるべきことを徹底できているか」は、経営者の資質とともに、社風によるところが大きいと私は考えています。
ドラッカーは、最初にやるべきは「現在の事業の業績向上」、次が「機会の追求」、3番目が「新規事業」だといっています。この順番で難しくなっていくのです。なお、機会の追求とは、事業を展開する地域を広げたり、同じ商品で顧客層を変えたりすることです。
そして、現在の事業の業績を向上させるためのキーワードが「徹底」です。徹底できる会社であれば、機会の追求もできるし、新規事業も成功させられます。けれども、現在の事業を徹底できていない会社が新規事業を立ち上げても、なかなかうまくいきません。
現代のような不確実な時代を生き抜くうえでは、従業員同士が迅速かつ適切に意思を疎通したうえで、目の前の変化に対応できるか否かがカギを握ります。それはつまり、「良い意味でのコミュニケーションがとれているか」という問いにもつながる話でしょう。
意識を共有するための「小さな行動」
ここでまず重要なのは、経営者が先頭に立ち、理屈ではなく意識を共有することです。
私は、コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方で成り立っていると考えています。
たとえば、「コピーを100枚取ってほしい」というのは「意味」を伝えていますが、皆さんにも経験があるように、同じことでも好きな上司にいわれたら喜んでやりたいけれども、嫌な上司にいわれたらあまりやりたくないというのがありますね。これは「意味」の問題ではなく、「意識」の問題だからです。
いかに会社の指揮系統がしっかりしていたとしても、従業員全員が同じ方向を向いていなければ意味はありません。先行きが見通せない時代、変化に柔軟に対応するには、経営者が先頭に立って、まずは足元を固めなければなりません。そのためには「意識」の共通化が必要なのです。
それでは、社員の意識を一つにするうえで、具体的に必要なことは何か。
私は「小さな行動」を繰り返し行なうことが重要だと考えています。意識を変える、意識を共通化する第一歩は、意識教育ではなく、「行動」です。まず体を動かすのです。空手や柔道、あるいは華道や茶道などの「○○道」は、必ず「形」すなわち「行動」から入ります。われわれ凡人は、同じ行動を何千回、何万回と繰り返し行なうことで、その心や意識を理解することができるのです。
朝の掃除が「思考力」と「実行力」を鍛える
ここで提案したいのが、たとえば朝の掃除です。
私が代表を務める会社では、出社している社員で毎朝9時から事務所の掃除をしています。私も男性トイレなどの掃除をしています。掃除の後には9時15分から朝礼を行っています。その日の当番の社員が会社のミッションやビジョンを読み上げ、一人ひとりがその日の予定を発表します。当然、コロナ禍以降は、オンラインでの参加も認めています。
人間とは易きに流れる生き物なので、放っておくと自分勝手に動きます。しかし、とくに人数がさほど多くない中小企業は、一人ひとりの力や考えをいかに共有して、存分に発揮させられるかが焦点になります。だからこそ、掃除は一例に過ぎませんが、あいさつなどの小さな行動を皆で行ないながら小さなコミュニケーションを重ねることが大切です。そして、それがやがて社風を生み出すのです。
なお、正直にいえば、私の会社でもそうした社風が自分に合わないといって採用後すぐに辞めた人間もいます。ただし極論をいえば、それは仕方ありません。互いにしんどいと感じることをやり続けて、後でトラブルが起こるほうがまずいのです。
もちろん、掃除を例に挙げたことには大きな意味があります。
ビジネスパーソンは基礎力を磨き続けるべきです。基礎力とは、先にも述べたように、私は「思考力」と「実行力」だと考えています。この実行力の大切さを知るうえで、掃除はじつに有効です。いくら理屈を並べても、手を動かして机を磨かなければ綺麗にならないのですから。
もう一つ、これはイエローハットの創業者である鍵山秀三郎さんも語っておられることですが、毎日のようにきちんと掃除を続けると、自然と気づきを得るものです。これが「思考力」を養います。こうした習慣を重ねれば、上司が指示しなくても「自分は何をすべきか」を考えて自ら動く社員が増えるはずです。
いずれにしても「行動」です。
———- 小宮 一慶(こみや・かずよし) 小宮コンサルタンツ会長CEO 京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。 ———-