「バリスタみたいな存在に」 アプリが淹れ方をエスコートするコーヒーメーカー「DRIP POD」にUCCが込めた思い

 UCC上島珈琲の「DRIP POD YOUBI」は、いわゆるカプセルタイプのコーヒーを使って、ハンドドリップと同じ淹れ方ができるコーヒーメーカーだ。同ブランドの4代目となる新製品では、スマホアプリと連携して、様々なドリップのレシピを楽しめる製品になった。これだけの説明だと、なんとなく個性が薄い製品のようだが、これが、実はかなり面白いコンセプトと機能を持った製品なのだ。

 コーヒーメーカーという存在は結構難しいというか、なかなか曖昧な領域にある製品だと思っている。オフィスなどに置かれているコーヒーマシンは分かる。コーヒーには機能的な飲み物としての側面も大きいし、仕事の合間にサッと飲めたり、来客などに素早く温かい飲み物を提供するマシンは、かなり有用だと思う。

SafeFrame Container
SafeFrame Container

 難しいのは家庭用のコーヒーメーカーだ。一日に何杯も飲むならば、それなりに有用だとは思う。しかし、ペーパーフィルターを使ったハンドドリップと比べた場合、洗い物は増えるし、メンテナンスが面倒だったりもする。それを考えると、ハンドドリップの方が楽に美味しいコーヒーが飲めるということになってしまう。

 もちろん、ハンドドリップは慣れも必要だし、お湯を沸かすのに時間と手間はかかる。それでも1~2杯淹れるだけなら、コーヒーメーカーとの時間差は数分だ。

 そういう意味では、ネスカフェの「ドルチェグスト」は、とても完成度が高いコーヒーメーカーだと思っている。水とカプセルをセットして、カップを置けばあっという間にでき上がるし、洗い物も水タンクとカプセルを受けるホルダーと、カップの下の水受けだけ。メンテナンスもたまに水通しをする程度でよいというのは、ハンド・ドリップの数倍楽なのだ。しかも、ココアやラテもカプセルを替えるだけで作れてしまう。そして、何よりちゃんとおいしいのだ。

 しかし、おいしいコーヒーが飲みたいという場合に人が求める味は様々。しかも、ここ数年はおいしい豆があちこちで普通に買えるようになって、好みの味が選び放題。当然、そういう嗜好に応えるコーヒーメーカーも登場する。

 その流れは分かる。でも、そうなると、結局のところ「おいしいコーヒーの正解」みたいなものが求められることになる。豆を用意するのも、豆の分量を量ってセットするのもユーザーで、そこにブレは出るのに、淹れ方についてはプロのレシピと方法論が使われる。

 だったら、自分の好みが分かってる人がハンドドリップで淹れる方が、確実においしくなるのではないだろうか。それは、実際にいくつかのコーヒーメーカーを試して思ったことでもある。もちろん、十分においしいけれど、マシンの違いによる味の差よりも、豆の違いによる味の差の方が大きいのだ。ならば、コーヒーメーカーを買うお金で、好きな豆を買いたいと思ってしまう。

もちろん、上手に淹れられるなら苦労はないという人もいると思う。そういう人が、自分好みの味で淹れてくれるコーヒーメーカーを購入するのは大いにアリだと思う。ただ、その場合、問題なのは、自分に合うコーヒー・メーカーがどれかを見つける難しさだ。それはほとんど、お気に入りの喫茶店やカフェ、コーヒーロースターを見つけるのと同じだし。

 というようなことを考えながら、9月末に開催されたスペシャルティコーヒーのイベント「SCAJ 2023」を取材していて出会ったのが、「DRIP POD YOUBI」だった。プロのレシピで淹れられるコーヒーメーカーという感じだったので「ああ、やっぱりそっちの方に向かうのかな」と思ったのだけど、デモを見ているとちょっと様子が違う。そして、使うコーヒー豆も、買ってきたものをセットするのではなく、かといってカプセルタイプでもなく、カプセル型のフィルターの中にあらかじめ粉がセットされているという独自のものだった。

SafeFrame Container
SafeFrame Container

 このカプセルが、まず良くできている。これを本体にセットすることで、コーヒー1杯分のドリッパーが完成するようになっているのだ。

 そこに、既に量が正確に計られたコーヒー粉が入っている。そりゃUCCなんだから、豆も自前で用意するよねと納得するが、しかし、これはもしかすると、「ドルチェグスト」タイプとハンドドリップ・シミュレータータイプのハイブリッドなのではと思い、話を聞き、試飲して、ちょっとビックリしたので、取材を申し込んだのだった。

●コーヒー豆の“ありのままの味”を楽しんでほしい

 ドリップポッド全体のプロジェクトを担当している、ドリップポッド ブランドマネージャーの小牧美沙さんに話を聞くことができた。

「実は2015年に最初の『ドリップポッド』を作るまでは、マシン専属で開発するチームもなければ、カプセル自体も何かもとになるものがあったわけでもなく、本当にゼロから始めたんです。なぜ、知見も経験もないのにこういうことをやろうと思ったのかというと、自分たちが扱っているコーヒー豆の、“ありのままの味”を楽しんでいただきたいと考えたからなんです」

 豆を購入した家庭には、それぞれの淹れ方があって、それぞれに楽しんでいる。それで良いのだけれど、豆を扱っているメーカーとしては、豆を選び、焙煎やブレンドを設計するに当たって、淹れた状態の味から逆算して作る。ならば、その想定した味を伝えたいと思うのは当然だろう。

「あとは、やっぱりコーヒー・エントリーにおすすめというか、好きなんだけど味の違いがよく分からないとか、ブルー・マウンテンはこういう味、モカはこういう特徴といったことへの取っ掛かりがないと思ってらっしゃるお客様に、コーヒーの楽しみ方を知っていただくきっかけになるんじゃないかとも思っています」と小牧さん。

 つまり、この製品は豆がまずあって、その分量、湯量、温度、淹れ方までをパッケージングしたマシンなのだ。これは、コーヒービジネスの全体を扱うメーカーでないと思いつきにくい発想だ。そして、筆者が思っていたコーヒーメーカーという存在の曖昧さがほとんどない。マシンでコーヒーを淹れることに明確な意味と意志がある。「おいしいコーヒーが簡単に飲めます」「最高のコーヒーが淹れられます」という製品とは別の方向を向いているのだ。

 「DRIP POD」シリーズの最初の製品は2015年に発売した。若い女性にもコーヒーを楽しんでもらいたいという思いで開発したこともあり、コロンとした可愛いルックスの製品だった。フィルターの付いたカプセルに入った粉を、ハンド・ドリップ的に抽出するという機能も、この時点で完成していたそうだ。

 また、お茶や紅茶のカプセルも既に用意していて、豆とは違うドリップの仕方をするといった機能も既に搭載されていた。「ただ、かなり女性を意識したデザインでした」と小牧さん。

 二代目の時に、少し色を変え、さらにカプセルとは別に、「レギュラー・コーヒー・フィルター」という、好きなコーヒー豆をDRIP PODで使えるようにする付属品を追加。これで、自分が買ってきた豆を使うことも可能になった。

 2020年発売の三代目は、デザインを直線的にして、幅広い層に使ってもらえる形に変更。抽出スピードをゆっくりにして、全体的に味わいを濃くする「ストロング・モード」を搭載した。このモデルは今回の「YOUBI」との並行販売なので、今も現行商品。

 そして、今回の「YOUBI」では、アプリとの連携で、抽出レシピを選べるようになったわけだ。面白いのは、ユーザーの好みに合わせて設定するというよりも、ユーザーの気分に合わせて、アプリがレシピを提案するといったインタフェースになっていること。

●バリスタみたいな存在のマシンに

「一つ前のDRIP PODには、ストロングモードの他に、アイスコーヒーが作れるモードも付いていたんです。でもお客様にアンケートを取った時、標準モードしか使わないというお客様が結構いらっしゃって、ビックリしたんです。でも話を聞いてみると、濃くなるとどうなるのか、どういう味になるかも分からないし、どういう時にそれを使えばいいのかも分からないということでした。せめて説明があればという声もあって、その時に、コーヒーのことを隣で教えてくれるバリスタみたいな存在のマシンになるといいなと思いました」と小牧さん。

そこが出発点であれば、今回の「好みに合わせてカスタマイズ」という方向ではなく、ガイド的なインタフェースになっているのも分かる。このマシンを筆者が気に入ったのは、このアプリのインタフェースも含め、製品全体に渡ってコンセプトに沿ったロジックが一貫しているからだろう。ただ「おいしいコーヒーが手軽に飲めます」ではない、別のロジックから生まれた製品というのが新鮮なのだ。

 そうなると気になるのは、このマシンで使えるレシピはどういう観点で作られ、どういう仕組みでマシンで再現できるのかという部分だ。「元々、DRIP PODのカプセルは、コーヒーを世界中を旅するように味わうというコンセプトでラインアップをそろえているんです」と説明してくださったのは、小牧さんと同じ部署で、レシピ開発の責任者を務めている、進裕子さん。「なので、それぞれの豆の産地の特徴をより引き立たせるというのが前提です。レシピ作りもその方向で、3人のチャンピオン・バリスタに相談させていただきました」。

SafeFrame Container

 豆も焙煎の仕方も挽き方も分量も、湯量も湯温も抽出速度もコントロールできるのならば、出来上がるコーヒーもプロのレシピがそのまま再現される。その結果、同じ豆を同じマシンで淹れていても、単に濃さだけではなく、淹れ方でこれだけ味が変るということをユーザーに知ってもらうこともできる。

 しかし、どうすれな何がどう変わるなんてことはそうそう分からない。だからアプリでは好みにカスタマイズするというのではなく、こういう気分ならこのレシピはいかが? という形で提案するスタイルを取る。それを飲むユーザーは、同じ豆なのに淹れ方で全然味や香りが変るということを理解できる。しかも、そのコーヒーの味は、メーカーが、その豆で伝えたいと思う味わいなのだ。なんて、明快なストーリー。

●淹れ方でハッキリと変わるコーヒーの味を体感

「これまでの『DRIP POD』では、基本的にコーヒーについては、まず蒸らしをして、あとは同じ温度で一湯式で淹れ切る形だったんです。でも今回の、例えば『ホンジュラス&コロンビア』の、フルーティーに淹れるレシピでは、抽出に当たって蒸らしには高目の温度のお湯を多めに使って、抽出時も全体的に濃く味が出るようにしてから、後半は低温のお湯でさっと抽出しています。前半で甘味と酸味をしっかり出しながら、後半で雑味を切るといったアプローチですね」と進さん。

標準的なレシピとフルーティーになるレシピで淹れた「ホンジュラス&コロンビア」の飲み比べをさせてもらったのだけど、これが、ハッキリと味が違う。さほどコーヒーに慣れていない人でも、違うことは分かるはずというくらいには違う。豆の個性のような部分は変わらない。だから、どちらがおいしいということではなく、どちらが好きか、どちらの味が今飲みたいかという基準で選べる。そして、淹れ方でこれだけ味が変わるということを体感することができる。これが面白い。

 実際、自分で淹れていると、どうしても自分が好きな淹れ方のパターンができて、それに満足してしまうから、中々、違う淹れ方を試そうとはしなくなる。筆者も二湯式で淹れるのだけど、前半と後半ではっきり湯温を変えるなんてことは面倒で中々やれない。

SafeFrame Container

「正直、家庭で条件を完全に揃えていただくのは難しいと思います。そういった部分をお任せいただければ、もっとコーヒーが楽しめるのになという思いはありましたね。私も、同じ豆で淹れ方を変えて飲み比べというのは、それほど経験していなかったので、今回、いろいろ試してこんなに味が違うものができることに驚いて、同時に可能性も感じたんです。それが一般のお客様にも分かりやすい違いを再現できるというのは、展開として面白いし、やりがいがあります」(進さん)

 淹れ方の違いによる風味の違いとして面白いのは、「鑑定士の誇り アイスコーヒー」のカプセルを使った二つのレシピ。一つは濃く深い喫茶店の味、もう一つはなんとコールドブリューなのだ。コールドブリュー、つまり水だしアイスコーヒーである。コーヒー・メーカーで水だしが作れるわけはなく、だから、あくまでもコールドブリュー風なのだけど、この飲み比べは本当にびっくりした。

「カフェインは高温の方が抽出効率が上がるんです。そこで前半は70度台でゆっくり淹れて、さらに後半は60度台でゆっくり落とします。そうやってコールドブリュー風に仕上げています。これより低い温度だとシャバシャバになってしまうギリギリを攻めてます。もう一つのレシピは、喫茶店のアイスコーヒーの持ち味でもある苦味をしっかり出すために、じっくりと時間をかけて抽出します。これ抽出に約3分かかるので、現状のカプセルでは一番時間が掛かるレシピなんです」と進さん。コールドブリューは小牧さんのお気に入りレシピでもあるそうだ。

 コールドブリューより喫茶店のいわゆる濃いめに出して一気に氷で冷やすタイプのアイスコーヒーの方が時間がかかるというのも面白い。抽出時間や湯温、湯量の関係は、素人考えとはまた違ったところにあるというのは、なんだかワクワクする。

紅茶や日本茶のカプセルでは、最初の蒸らしの段階でたっぷりのお湯をかけて疑似急須のような状態にしてから、そのあと注水していくという方法を取っているという。また、茶葉を通常ないほどに細かく裁断しているそうだ。その細かい茶葉とカプセルのフィルター部分の目の細かさ、浸出時間をたっぷり取ることなどで、きちんとおいしいお茶が入る。粉っぽさがないのが素晴らしい。

 アプリのインタフェースも上手い構造だ。「味だけじゃなくて時間軸もコーヒーを飲むシーンとして大事な要素だと考えたんです。なので、アプリでは、朝昼夜とか、リラックスタイムとかおやつの時間とか、そういう時間に楽しむ味はどういうものがいいのかという視点を入れながら、プロのコメントなども挟んで行く構成です。コメントを見ながら、今は昼だけど、こういう感じなら朝の感じで淹れてもらおうかな、みたいなこともできるように考えました」と小牧さん。

SafeFrame Container

●感覚で選べるアプリのユーザーインタフェース

 アプリ上では、朝にはこれ、といったストレートな表現になっていないのもいい。ネーミングやコメントの中にさりげなく入れたり、大きく配置された写真で、なんとなくそういうムードを演出したりしているのだ。押し付けも決断も迫らない構造。「とにかく、感覚で選べるようにインタフェースには気を遣いました。エスコートするためにアプリを作ったので、そこが辞書みたいでは意味がないんです」と小牧さん。

 今、アプリで選べるレシピは20種類。カプセルによって、1つのものもあれば、「ホンジュラス&コロンビア」のように3つあるものもある。そして、当然、これらは増えて行くことになる。

 レシピを作った理由には、どうしても気に入った豆2、3種類をリピートするユーザーが多かったからというのもあるらしい。「気持ちは分かるんですけど、私たちは世界のコーヒーを旅するように味わっていただきたい。そう思った時に、レシピがあれば、新しい豆を買って失敗したらどうしよう、口に合わなかったらどうしようという不安を払拭してもらえるのではと考えたんです」と小牧さん。

 さらに、家の中のあちこちで、好きなスタイルでコーヒーを楽しんでもらうために本体にキャリーハンドルを付けたそうだ。そして、メインテナンスというか洗い物もとても少ない。水タンクとカプセル受けのホルダーと、カップの下の水受けだけ。しかも、それぞれが取り外しやすいように本体がデザインされているのだ。細かいところまで、本当に気が利いている。

使う豆、使うレシピによって抽出量も抽出時間も変わるコーヒー・メーカーというのは、考えてみればとても理に適っている。だってコーヒーというのはそういうものだから。基本的にブラックで飲むのに向くように調整された豆とレシピなのだけど、中には進氏もお気に入りの、カフェインレスの豆を使ったカフェオレ用のカプセルとレシピもある。

 さらに、シングル・オリジンの豆もある。レシピの開発を行うプロは現在3人いて、それぞれの個性がある。もちろん、これがコーヒーメーカーの理想の形だというつもりはない。自分が好きな豆を自分好みに淹れるなら、やっぱり自分でハンドドリップした方が楽だし早い。

 しかし、コーヒーを楽しむという点で、このマシンはとても良くできていると思う。なんと言っても、“究極の味”とか、“最高のコーヒー”とか、そういうことを一切言っていないのがいい。豆の違い、淹れ方の違い、気分の違い、時間の違い、そういった差違を楽しむツールというのは、なんだかとても未来的だと思うのだ。

タイトルとURLをコピーしました