宮城・大衡に新工場「日本の半導体復活を」 PSMC、東北大との連携期待 SBIは効率的生産目指す

SBIホールディングスと台湾の半導体受託生産大手、力晶積成電子製造(PSMC)が宮城県大衡村への半導体工場建設を表明した31日、両社は東京都内で開いた記者会見で、大衡工場を拠点に、日本の半導体産業の復活を目指す考えを明らかにした。東北の半導体関連のサプライチェーン(供給網)を活用した効率性重視の生産体制構築や、東北大などと連携した人材育成にも意欲を見せた。

 「世界トップクラスの地位を確立した台湾と同じことを日本でもやる。東北にできる新工場はこの先、本当に素晴らしいものになる」。PSMCの黄崇仁会長は高揚感をにじませた。

 1988年に世界市場の50%を占めた日本産半導体のシェアは、2019年には10%にとどまる。「ここ30年、日本は残念な状況が続いたが、日本の半導体産業を再興していく」と力を込めた。

 SBIの北尾吉孝会長兼社長は「東北には半導体関連企業が多数存在し、材料の供給元もある。宮城は半導体レーザー製造など多くの関連企業が集積する」と説明し、宮城、東北の優位性を強調。「こうした存在は非常に好ましく、活用して効率的に生産していきたい」と意気込んだ。

 PSMCジャパンの呉元雄社長は、研究開発や人材育成で東北大との連携に期待を寄せた。「東北の優秀な人材を関東、関西に送るのではなく、東北に残したい。大学、企業、日本政府と組んで半導体学院のようなアカデミーをつくる」と将来展望も明かした。

 同じく台湾の半導体工場の立地が既に決まっている熊本県内では、人手不足や物価高騰といった現象が起きている。建設地となる宮城県は受け入れ態勢の整備を急ぐ考えだ。

 村井嘉浩知事は「台湾から来る従業員と家族が快適で、安心して生活できるよう責任を持って対応する」と約束。現在、週17便が運航する仙台-台北線にも触れ「さらなる増便など利便性の向上に努める」と述べた。

事業者支援へ経産相が意欲

 SBIホールディングスと台湾のPSMCが31日に表明した宮城県大衡村への半導体工場建設について、西村康稔経済産業相は閣議後記者会見で「強靱(きょうじん)なサプライチェーンを構築するために非常に重要だ」と述べ、事業者支援のための予算確保に意欲を見せた。

 西村氏は、新工場が製造する車載用半導体の重要性にも触れ「まさに今、使われている自動車の半導体の生産基盤を確保することにつながる」と期待した。

 閣議後会見はSBIとPSMCが立地先を表明する前にあった。西村氏は「現段階で支援方針は決まっていないが、これからよく話を聞いていく」と語った。

 政府が2日にもまとめる経済対策に半導体製造の設備投資を支援する基金の増額が盛り込まれる見込み。

地元企業との取引増課題 七十七リサーチ&コンサルティング 田口庸友首席エコノミスト

 総額8000億円とされる投資の大半は製造装置。工場建屋は投資の一部に過ぎないが、総額が大きいだけに地元建設業の需要増は相当期待できる。従業員の住居需要、個人消費も純増が見込める。

 稼働後の生産量は国内屈指の規模が計画されている。製造品出荷額を大きく押し上げ、東北では首位の福島県に肉薄している宮城県が、逆転するほどのインパクトを生む可能性もある。

 懸念要素は人手不足。国策で半導体産業を支援している以上、人材を全国で奪い合うことになる。新工場が好条件で人を募れば、地元企業の人材難が深刻化する恐れもあり、要注意だ。

 半導体は世界的に需要が増えることは間違いないが、その分、競争も激しい。グローバル経済の浮沈に地域が一層さらされる「洗礼」を覚悟しなければならない。

 一方で半導体生産は地域経済への波及効果が実は高くない。原材料の納入などで取引できる地元企業を増やせるかどうかが課題だ。現状で、地元中小が単独で取引を望むことは品質的にも量的にも難しいだろう。複数の企業が手を組み、技術革新をけん引できる技術者を招き、「第二創業」を図るようなきっかけになればいいと願う。

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