ヤマト「荷物減少」と「配達員3万人」契約終了で誤算 3期連続で下方修正「負の連鎖」を断ち切れるか

業績低迷と事業移管の「二重苦」から脱せるのか。

【写真】組合はヤマトとの団交を求めるなど、現場は混乱気味だ

宅配便大手ヤマトホールディングス(HD)は11月1日、2024年3月期の業績予想を下方修正した。売上高に相当する営業収益は前期比0.9%減の1兆7850億円、本業のもうけとなる営業利益は同8.2%増の650億円となる見通しだ。

前回予想からそれぞれ350億円、150億円を引き下げた。これで期中での通期業績予想の下方修正は、3期連続となる。なぜヤマトは、苦しい決算から抜け出せないのか。

荷物量の減少を値上げでカバーできない

要因はEC需要の想定以上の伸び悩みだ。宅配便の個数はEC需要の減少などで9億1195万個(同3%減)へ後退。一方で、荷物の単価は4月以降の運賃値上げの効果を発揮し720円(同21円増)と底上げされている。

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費用面では航空・海上運賃の下落で下払経費が減少。ECネットワークの構築や現場の構造改革に関連した費用増は続いているが、作業の標準化やデジタル化による人件費の削減など、コスト削減効果も発現している。営業費用は全体で同114億円減ったが、荷物の減少を補うには至らなかった。

今上期(4~9月期)の営業利益は123億円(同31%減)と2ケタ減益に沈んだが、コスト抑制で対応して当初計画に近い着地となった。下期(10月~2024年3月)は一転して大幅改善を見込むものの、計画修正は避けられなかった。

栗栖利蔵副社長は決算会見で「大手EC事業者はそこまでぶれないが、実店舗とECを併用する業者の取り扱いが減少した。第4四半期(2024年1~3月)にかけてさまざまな取り組みの効果が大きく出てくると考えていたが、予定の進捗になっていなかった」と説明した。

「効率化に向けた効果が出始めている」と言及しつつも下方修正したのは、前期とまったく同じ構図だ。栗栖副社長は「引き続き既存客への価格交渉、法人顧客の新規獲得を進める。コストをコントロールしながら利益を確保する。一方で構造改革は手を緩めずにやっていく」と語った。

他方、ヤマトが足元で対応に追われているのが、日本郵便への業務移管に伴う外部スタッフの処遇の問題だ。

労組結成で事業移管は波乱含み

ヤマトは6月、小型荷物やメール便の配達業務を日本郵便に移管することを決め、メール便の配達を担当してきた個人事業主・クロネコメイト(全国で約3万人)の契約終了に向けて動いている。

職を失うメイトにとっては大問題だ。10月31日には建交労軽貨物ユニオンが会見を開き、メイトの契約解除の撤回を求める方針を明らかにした。

メイトの対応について、ヤマトは3万~7万円の謝礼金(来年1月末までの勤務継続が条件)や、就職支援サイトを用意している。サイトには郵便局や派遣会社などの求人に加えて、パソナによるキャリア支援サービスがあり、履歴書の書き方から身だしなみ、面接の受け方など、極めて基礎的なコンテンツも含まれていた。これがメイトにとって非常に不評だったという。

組合側は「メイトは労働組合法上の労働者にあたる」として団交を求めているが、ヤマトはこれを拒否。そこで組合は10月31日、東京都労働委員会に不当労働行為の救済命令を申し立てた。

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一方、メール便の仕分けなどを担当するパート社員についても、来年1月末での解雇が示されていたが、足元では流れが変わっている。

10月中旬に労組「ヤマト運輸茨城班」を結成した茨城ベースでは、解雇の方針から一転、責任者が「1月31日以降も継続勤務をしてくれないか」と説明。ベースを含む県内の営業所で90ほどの募集職種のリストを示している。対応は地域によって異なるようだが、ヤマトは一斉解雇の方針をとりやめたようだ。

建交労軽貨物ユニオンの高橋英晴委員長は「茨城では組合ができたこともあって、交渉できることになったが、メイトについても団交ができる足場を作っていく。辞めるなり、日本郵便に移るなど、1人ひとりに合った協議をしてほしい」と語る。ヤマトと具体的な話が進まなければ、茨城ベースでストライキを実行する可能性もあるという。

10月から日本郵便への荷物移管が開始

一連の問題について、栗栖副社長は「本社から現場に伝達するところで齟齬があった。当初から考えが変わったわけではない」としつつ、「すべての皆さまに心からの感謝を申し上げるとともに、可能な限りの支援を継続していく。丁寧に面談して進めていきたい」とサポートを続ける姿勢を改めて語った。

荷物量の回復が鈍い中で法人顧客との料金交渉を重ね、ECネットワークを構築し、現場の改革も進める。さらには業務移管に伴うパート社員やメイトへのサポートも急がねばならない。10月からは日本郵便への荷物の移管が始まっている。ヤマトの課題は山積するばかり。今後も実に難しい舵取りが求められることになる。

田邉 佳介:東洋経済 記者

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